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環境戦隊ガドガイアー  作者: 黒井羊太
第三話「絶対守護!優しきマキシムの叫び!」
16/33

マキシムの平和な日常!

マキシムの普段の仕事とは!?


「お~い!! それこっちに運んでおいてくれ!!」

 親方の呼び声。マキシムは足下にあった木材をひょいと持ち上げ、親方の指示通りの場所へ置いた。

「おう! お疲れ様! 一服入れようや!」

「ハイ!」

 親方の隣りに座るマキシム。

「はい、お疲れ様。お茶です」

 親方の娘さんである多佳子がお茶を出す。

「アリガトウゴザイマス」

 グイッと飲み干す。重労働で流れ出た汗の分だけ、体に水分が染み渡っていくのがよく分かる。

「いや~、お前のおかげで作業がはかどる、はかどる! 午前中働いただけでもう一日分の予定こなせそうだ!」

「イエ、ソンナ……」

「いやいや、謙遜するな! 事実なんだからな! 働ける若者、いいじゃ~ないか!」

 バンバンとマキシムの背中を叩く親方。ちょっと痛いが、そこからは親方なりの敬意を感じる事が出来た。

「……最近の若いのときたら、ちょっと小突いただけで根をあげやがって……この前もなぁ……」

「お父さん! あれはお父さんが悪いんでしょ! あんなだからいつまで経っても人が増えないのよ!」

 親方の愚痴に、凄い剣幕で捲し立てる多佳子。その様に叱られてる訳でもなくマキシムは思わず怯える。

「……多佳子よ……お前が凄い剣幕で怒るから、こいつもびびっちまってるじゃねぇか。だからいつまで経っても嫁にいけねぇんだろ?」

「う、うるさい! それは関係ないでしょ!?」

「そうだ! マキシム! こいつを貰ってやってくれないか!? お前ならくれてやってもいいぞ!?」

 ブッ!!

 口に含んでいたお茶を吹き出すマキシム。何がどういう流れでそうなるんだか、理解できなかった。

「ななななななな何を言ってるのよお父さん!! ほ、ほら! マキシムさんだって困ってるじゃない!? あぁはい! お茶! どぞ! マキシムさん!!」

 誰の目から見ても動揺している多佳子。お盆を持つ手は震え、手にしたお茶はジャバジャバこぼしてる。

「あっっっっつぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

 その内にひっくり返す。ひっくり返したお茶は親方の頭に飛散する。

「あっっっっちぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

「ご、ごめん!! お父さん!! 今拭くもの取ってくる!」

 バタバタと走り去る多佳子。一連の流れの速さに入り込めず、呆然とするマキシム。だがその内、おかしい状況に笑いがこみ上げてきた。

「な、何だよ、笑うなよ」

 親方は不満そうだ。だが、笑いは止まらない。それを見ておかしくなってきたのか、親方も笑い出した。


 親方との出会いは、滅茶苦茶だった。

 何気なく散歩をしていた時の事である。鳥や木々、子供達の様子を眺めながら、町をぶらついていると、ダダダッと一人の男が走り込んできたのだ。膝に手をつき、ゼェゼェと肩で息をしているこの男を見て、マキシムは驚いて動けなくなってしまった。やがて男の呼吸が落ち着くと、やおらこう言ったのだ。

「今日からよろしく!!」

 何の事か分からず引っ張られるままついていくと、そこは建築現場だった。

「いや~人手が足りなくなっちゃってさ~! あんちゃん頑丈そうだし、いいだろ?」


 で、今に至る。あの時、何故か断るという選択肢はなかった。そしてこうして親方の元で働き続けていて、良かったと思っている。

 何かを造る、というのは良い。何もなかった空間に建物が出来、人が集い、笑う。冷たい風が吹くだけの、つまらない場所が、暖かな空気が包んでくれる場所へと変わる。それを見て、マキシムの心は満たされる。自分の行為の蓄積が形に見えるのは素晴らしい事だ。

 また、それこそが平和な世界を造る手段であるとも考えている。世界中全員の心が満たされれば、誰も争わなくなる。だから、汗を流して働くのはマキシムにとって苦ではないのだ。


「そういや、話は変わるんだがな」

 親方が神妙な面持ちで話を切り出す。

「隣のおっさん、最近妙じゃないか?」

 親方の言葉に、多佳子さんが暗い顔になる。隣りと言っても、マキシムは親方の家に住みこんでいる訳ではないのでよく分からない。

「昔はあんなじゃなかったような気がするんだが……」

「ドウ……妙ナンデショウカ?」

「う~ん……ゴミをな、ちゃんと出さなくなったんだよ」

 意外な所を突かれて、思わずキョトンとするマキシム。ゴミをちゃんと出さない?

「ゴミヲ?」

 状況が読めず、おうむ返しをしてしまう。その疑問に答えてくれたのは多佳子だった。

「そうなのよ……以前はきちんとゴミ収集の曜日と、出す時間帯を守ってくれてたんだけど、どうも最近……ゴミは散らかすわ、曜日も時間も守らないわでみんな困ってるの。本人に問いただしてみても『私は知りません』の一点張り。おかしいと思って近所の皆さんで監視して、現行犯で問いただしてみたんですが、何故自分がそんな事しているか分からないといった様子で……嘘をついてる風でもないし、何で急におかしくなってしまったのかしら……」

 頬に手を当て、眉間に皺を寄せ考え込む多佳子。親方も心底疑問らしく、う~んと小さく呻って喋らなくなった。

 マキシムにはどうも引っかかる事があった。勿論話の内容自体、ある種の異様さを含んでいる。そのおじさんはゴミを出している現場でさえ、とぼけるではなく本当に自分でも理解できないのだろう。そんな馬鹿な話はない。が、問題はそこだけではない。

「以前ハ、ト言ウ事ハ……変ワッテシマッタノハ最近ノ事ナノデスカ?」

 親方と多佳子さん、二人は顔を見合わせる。お互いに首を捻りながら、それがいつからなのか思い出しているようだ。

「そういや……いつからだっけな……」

「う~ん……あぁ! 確かあのおじさん、太白山で二、三日行方不明になったんじゃなかったかしら? その後からだったような気がするわ……?」

 行方不明から!?マキシムの顔に一瞬緊張が走る!が、それを勘付かせまいと瞬時に表情から消す。ふ~ん、と曖昧な相槌を打つ。

 そんなマキシムの態度には気付かず、二人は言葉を続ける。

「あぁ、そうかもな。いや~あん時は大変だったんだよな! 奥さん混乱しちゃって、暴れて暴れて!」

「そりゃそうよ。旦那さんいなくなったんだから。でも帰ってきて良かったよね、本当」

「だな。あのまま行方不明じゃいくらなんでも可哀想だったからなぁ……」

 親方達の雑談を余所に、マキシムは考え込んでいた。

 おじさんは太白山で行方不明になった事がある。そして他の行方不明者と同じように数日で何事もなかったように帰ってきている。帰ってきてから、無意識のうちにゴミを捨てている。親方達の話しぶりからみても、そんな事をする人ではなかったのだろう。

 行方不明事件……これは行方不明者が帰ってきたから解決、等という単純な話では無さそうだ。裏に何かある。必ず。



「……分かった。その人物とはこちらで接触してみよう。マキシム、君は引き続き情報を収集してくれ。何か分かるかも知れない」

 通信機越しに長官の冷静な指示を聞く。マキシムはその晩、早速長官に報告していたのだ。確かな情報、とまでは行かないが、気になる情報だ。自分一人でどうこうするべきではない、と判断したのだ。

「分カリマシタ。俺ハ現場ヲ中心ニ探ッテミマス」

「頼むぞ」

 通信を切って、マキシムは一人部屋で考え事をする。

 自分は今、こうして平和を守る為に戦っている。それは決して人に気付かれる事はない。気付かれてしまえば、敵にもばれるかも知れない。そうしたら、身近な人が犠牲になるかも知れない。そうなれば、何の為に戦っているのか分からなくなる。

 この仕事は、自分に合っていると思っている。人を守る、何かを造る。そこに笑顔があるなら、平和な世界があるなら、何を惜しむ事があるだろうか?そうだ、自分のような不幸な人間がこれ以上増えてはならない。

「ソウダロ? ……姉サン……」

 小さな呟きは、誰の耳にも入ることなく静寂に飲み込まれていく。外は闇。昼間の陽気が嘘のように、冷たい風が吹いている。窓を開けて、少しだけ招き入れてやる。ぴゅう、と音を立てながら、喜び勇んで入り込んでくる。冷たい風はマキシムの体のすぐそばを通り抜け、やがて部屋の外へと出ていった。その冷たさは、当たり前に存在する自分の体をマキシムに意識させ、「お前は生きているんだぞ」と言ってくれているようで、少し笑った。

「アァ、生キテイルンダ……」

 遠い昔を思い出し、空を見上げる。夜は更けていく。

やはりカリメアの影が見え隠れしている……!?

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