世界が滅亡したから、旅に出よう。
明日世界が滅亡したら貴方は何をしますか。毎日を頑張っている人にもそうでもないと思っている人にも読んで欲しい、
高校生2人の短編ドラマ。ちよっとした息抜きになれば幸いです。
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「今、世界が滅亡した。
君と僕2人きりだ。
さあ、旅に出よう。
どこにいきたい?」
「は」
夏休み明け、憂鬱な月曜朝の登校時、電車を待つホームで敬太がすっとんきょうなことを言い出した。
「何言ってんの」
「だってユキが、死にたいなんて言うからさ」
「はぁ、、言ったけど。」
だからといって。
「死ぬってことは世界が滅亡するのと同じだろ。君以外、君の世界を感じることはできないんだから」
「まあ、、、そうだね」
少しドキッとした。
敬太は時々鋭いようなことを言う。同じ17歳のくせに。小難しい本やら音楽やらをよく聞いてる影響だろうか。
「だからさ。世界は滅亡したんだよ、今。」
「いや、でも、、私はただ学校ダルい、宿題やってないし怒られるの嫌だ、もう死にたいって言っただけなんだけど」
そんな壮大な話をされても困るのだ。正直、ただの愚痴である。
「でも死にたいんだろ?それってすごいことだぜ。全部終わりだ。ぜんぶだ。もう2度と俺と喋ることも、君の大好きなチーズハンバーグを食べることも、校舎裏のもふもふ猫・ゴクウに触ることも、ジョニーズの音楽を聴くこともできないんだ。俺は嫌だなあ。」
「、、まあ、あんたと喋れなくなるのはともかくとして、ゴクウに触れないのとチーズハンバーグと、、ジョニーズのシュウ君の歌がきけなくなるのは嫌ね。」
「だろ。俺と喋れないなんて悲しすぎるだろ。」
人の話を聞け。
「まったくあんたは自分大好きね。まあ、でも死にたいなんてただの愚痴だから。あ、ほら、電車来た..」
ホームにいつもの電車が停車しようとした
途端。目の前で。
「「あ」」
サラリーマン風、30代半ばだろうか。
男性が線路に向かって
飛び込んだ。
キキキィーーーーーッ
もともと停まるはずだった電車、鈍い音、飛び散る肉片。目の前の惨事。飛び降りるなら停車する列車より通過する列車の方が確実だと思っていたが関係ないようだなどとボーッと考える自分はドライなのだろうか。通勤ラッシュ時、ひとに溢れるホームでの惨事。騒然とする構内。
遅延のアナウンスが流れる。
ああ、学校への連絡が面倒だ。どうせ誰かがしているだろうからいいか。ボーッと考えながら、手を引く敬太に促されるまま、人混みをかきわけ隅のベンチまで移動し腰掛けた。
飛び降り自殺。この駅では珍しくはないらしいが、目にしたのは初めてだった。
「...あのひと、世界を滅亡させたね」
平静を装ってもこみ上げてくる吐き気を抑える私の横で
敬太がボソリと呟いた。
不謹慎な気もするが、事実である。
あの人の世界は、終わった。
肉片となって、錆びた線路に詰まり、掃除される。一体何が彼をそうさせたのか。家族はいたのだろうか。持っていたカバンについていた写真付きストラップになんて気がつきたくなった。
「、、、、死にたいなんて、言うもんじゃないわね」
やっとのことで発した私の言葉を聞くと敬太はぬるりとベンチから立ち上がった。
「言わなくても、思ったら同じさ。
滅亡したなら、旅に出よう。」
「え」
「つまんない毎日だと思ってるんだろ?
ユキ、最近笑ってないの、俺知ってるんだ」
ドキリとした。
でも。
「、、、でもそんなのみんなそうでしょ。平凡な毎日、つまんなくても頑張って勉強して部活して、それで」
「みんななんて関係ない。ユキの話をしてる。」
敬太が私の手を握った。
「みんなが人殺してたらユキも殺すのか。違うだろ。みんながつまんないならユキもつまんなくていいのか。違うだろ。俺は、周りの奴らがどんなでも、ユキは楽しいのがいいな。頑張らなくていいからさ。毎朝弟の分まで弁当作んのも大変だろ。無理すんな。今日は俺と旅に出ようぜ!!」
この幼馴染はいつも言うことが極端で、めちゃくちゃだ。旅に出るなんて、余計面倒で疲れるだけだろう。まったく。
「あんたね、、、、」
「俺は、ユキがつまらないのは悲しい。
一瞬でも思ったんなら、同じことなんだ。俺の母ちゃんみたいにならないでくれよ。残された奴ってのは、辛いんだぜ。
それこそ世界が滅亡したような気分だ」
サラリと言ったが、そうだ、敬太の母親は。 バリバリのキャリアウーマンだったらしいが10年前、ノイローゼに陥りビルから飛び降りた。
敬太は今父親と二人暮らしだ。
だからこんなにも過剰に反応するのか。
母親が死んだ時、敬太は6歳。幼すぎた彼はただただ泣きじゃくったという。
彼女のSOSを見抜けなかった父親を恨んだ時期もあったが、それは自分も同じことだから今は支え合いながらなんとかやっている、と
いつか話していた。
ここ数年は敬太も落ち着き明るくなっていたからすっかり忘れていた。
「俺は、ユキが笑ってるのがすきだよ。頑張んなくていいからさ。
死にたいなんて言わないでくれよ。。。」
悲しそうに彼が言う。
浅はかな自分の発言を叱咤する気持ちと同時に、自分の中の空虚なものと向き合ってみる。
うちの両親は共働き。弟が1人。夫婦仲は良く、不満を持ったことは特にない。家事を時々私がすること、弟のお弁当も作ってあげることは多少大変だが仕方ないことだ。将来の夢なんて昔はあった気もするが忘れてしまった。
勉強、家事、部活、バイト、毎日を過ごし、進路のことなんて考えたくもないが、裕福でもないし就職でもしようか。友人の恋愛話の愚痴、彼氏の自慢話に愛想よく相槌を打つ。新しい洋服を買い与えられてもトキメクものもなく、誕生日プレゼントに貰ったスニーカーは靴箱にしまったままだ。
何かを欲しいと思わなくなったのはいつ頃からだろうか。悲劇のヒロインになるわけでもなく、毎日が淡々と過ぎていく。
誰のせいでもなく、ただただつまらないのだ。今時の子供たちは、なんて説教は私のためにあるのだろうが、無意味なほど響かない。
ふ、と足元ばかり見てることに気づく。敬太の悲しげな顔がよぎる。
飛び散る肉片の記憶をかき消すように首を振り、そして大きく深呼吸した。
「そうね。ありがと。
それで、どこに行く?」
敬太の顔がパッと明るくなっていた。
最近笑っていないのは彼も同じだ。
気付けないほど、何に追われて日常を過ごしていたというのか。
「どこへでも」
ニコッと犬のように笑う敬太。
惨事による私の不安を消そうとしているのか、少し歪だが、それでも私に安らぎを与えるものだった。
「どうせなら、うんと遠くにいきたいわ」
私もまた、少し微笑んで見る。
「それなら、、ほら、あの噂知ってる?ここから遠くに見える山、あそこって卑弥呼の時代の貢物、宝が埋まってるらしいぜ。俺、ずっといきたかったんだ。行こうぜ」
宝、なんて小さい頃好きだったアニメ以来に耳にしたな。
幼稚な誘いが、輝いてみえた。
私もまだまだ子どもだ。
「、、いいわね、それ。」
敬太の手を取り、立ち上がった。
さあ、世界が滅亡したから、旅にでよう。
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いかがでしたか。お読みいただぎありがとうございました。初めての小説執筆なので至らぬ点もあったかと思います。
作者は、サラリーマン時代に自分を追い詰め過ぎて病気を患い、現在も闘病中です。これを読んだ貴方はそうなってほしくないと思い、書きました。無自覚かもしれませんが、日常を生きるということはそれだけで大変エネルギーを使うものです。
だから、頑張りすぎないでください。
もし、日常に疲れたら、少し休んで、辛いことからは逃げてください。それは音楽でも、物語の中でも、インターネットでも良いです。どこかに、旅にでてください。
世界が滅亡する前に。