第1話 異世界に落ちました
「あああああぁぁぁぁあぁあああああぁぁぁ!!」
ドサッ、と悲鳴を上げたまま俺と黒猫は地面へと墜落した。異世界といえど、地面は流石に自分がこれまで住んでいた日本と同じようなもので、普通に土があるだけだった。
「イテテ…この俺に傷がついたらどうする…」
「ねぇ、そろそろこの腕を解いてくれないかにゃ…?」
妹へと姿を変えた黒猫を抱きしめたままということに気づいたのはそう言われてからのことだった。
「嫌だね。俺の悠珠だ。離さないぞ」
「もうダメだこのシスコン…」
流石に呆れた黒猫は悠珠の姿から黒猫の姿へと戻った。
「ゆ、悠珠ぅぅぅぅぅ!!どこだ悠珠ぅぅぅぅぅ!!」
「…だからさぁ…。こう、なんで妹が絡むと君は冷静さを失うかにゃ…」
「…悠珠が俺の目の前から消えたのは大変遺憾だが、仕方あるまい。本物の悠珠と再会できるのも時間の問題だ。すぐにこの世界を攻略してやる」
とは言ったものの、この世界の攻略すなわち、俺の性格の更生…か。どこも直すところなどないはずなのだがな…。
「で、ここはどこだ?」
先程からこの質問ばかりな気もするのだが。
「ここは…どこにゃろ」
「はぁ~?」
思わず素っ頓狂な声を出してしまった。俺としたことが…。
「ここがどこだかわからんのか!?神だというのにか!?」
「神っていっても色々あるのにゃ。私なんかまだまだ下っ端…」
「んなことどうでもいいんだよ早くここがどこだか教えやがれクソ黒猫風情が」
イライラのあまり一気にまくし立てた。本当にこの黒猫はなんなんだよ…神と名乗るくせに役立たずすぎる。着地失敗したのもそうだ。普通の神ならばフワッとなんかアレな光でどうにかしてくれるところだろうが。こいつと来たら…。下っ端もいいところだ。
「ふんっ。とりあえずここがどこだかだけ調べるとするか。だいたいこの世界の地図すら把握していないのだ。地図ももってこい。黒猫よ」
「え…?それ全部私にやれっていうの?神だよ?私、神様だよ?」
「そんなこと関係ない。俺にとって世界は俺と悠珠かそれ以外かしかないからな」
「…なんてナルシスコンなのにゃ…」
「下手な造語を作ってないでさっさと行け」
「はいはい…」
適当に返事をし俺に背を向ける黒猫を見送っているとまたも黒猫を白い光が包んだ。
暫くして目を開けるとそこには…
「悠珠ぅぅぅぅぅ!!」
俺は思わず飛びついてしまった。
「うるさいナルシスコン」
「悠珠がうるさいというのならお兄ちゃんいくらでも黙る!なんなら口にチャック付けて閉めちゃうよ!」
「…本当にそうして欲しいところだにゃ」
そんな黒猫の呟きに冷静さを失ったナルシスコン木崎悠馬は気付く由もなかった。