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ノーマライジング・ウィザード  作者: 七々八夕
プリザーブド・アイリス
8/31

File:6「花が傍から消える(た)とき」

 私は目を疑いました。だって、目の前にユリが現れたのですから。

 長い髪に低身長、何よりその顔や体型――そして声。すべて私と同じの彼女。

 カナシ様は彼女を見た瞬間に硬直し、息もしていないようでした。

「……あなたがなぜ、ここにいるんです」

 カナシ様の代わりに、私が聞きました。何よりも、私が知りたかった。

 彼女はカナシ様への妖艶な笑みを崩して、心底不快そうな顔を私に向けました。

「人形が軽々しくカナ兄に寄ってんじゃねえよ、メス豚ァ」

 ……品の無い。言動から察するに、このクソアマは私同様カナシ様を好いているようですね。どういう過程でこうなったのかは知りませんし知りたくありませんが、私の敵だということは確かです。

「答えなさい。あなたがなぜここにいるんです」

 再び問いかけると、クズは不気味に笑い出しました。イラつきます。

「哀れよねぇ。自分の一番好きな人に隠し事をされてるんだもんねぇ? でも大丈夫よ、カナ兄。私はカナ兄のこと、全部知ってるから……」

 また妖艶な笑みを。ああ、殺意が湧いてきます。クソアマの分際でカナシ様に寄るな。

 ですが――隠し事とは? 何なのか知りたかったですが、カナシ様はとても答えられるような状態にはありません。ですが、後でもいいでしょう。

「答えろと言っているんです」

「知りたい? 知りたいぃ? で、も……教えてあげなぁーいっ!」

 世間ではこういうのをうざったい、というのでしたか? その感情がエスカレートすると殺意になるそうですね。私も例外ではなかったようです。

「――答えろッ!!」

 私は筋力強化魔法ストレングスを発動させて、クズの顔面めがけて飛び蹴りを食らわせました。……いえ、手ごたえが変です。まるで金属の膜を蹴ったような感覚。

 なるほど、初めて蹴りました。これは障壁魔法ディナイアルです。

「弱い弱い! そんなんじゃ私は殺せないよォ、ア・イ・リ・ス・ちゃ・ん」

 私は舌打ちをして、素早く距離を取ります。

「アイ、リ……ス、ユリ……アヤ、メ……!!」

 傍ではカナシ様が錯乱している様子。原因はあのクソアマと見ていいでしょう。

「カナシ様、今しばらくお待ちを」

 私は姿勢を低くし、跳躍でクズとの距離を詰め、殴る――と見せかけて、地面に思いっきり拳をぶつけます。

 魔法で強化された拳はコンクリートの地面を揺らし、亀裂を走らせ、破壊しました。

 さすがに驚いたのか、クズは目を見開きました。ですが、すぐに口の端を怪しく吊り上げました。

「甘いよねぇ」

「何を……――ッ!?」

 私が追撃を加えようとすると、クズは手を私の顔に触れさせました。

「さ――」

 触るな、と言おうとした時。私の脳に、頭に、全身に電流が走りました。

 何が起きたのかを理解する前に、私、の、意識は――――


           ■            ■


「――!」

 倒れるアイリスを見て、俺は気が付いた。

 その傍には、嬉しそうな笑みを浮かべるユリ。

「ユリ……お前」

「あっ。カナ兄、大丈夫だよ! カナ兄が迷惑してたメス豚は私が黙らせたから」

 ユリに触れようとした手が止まった。いや、触れる気はなかった。

 メス豚? アイリスのことを言っているのか?

「……ユリ、お前はっ!」

 殺すまではしまいが、ぶん殴ってやろうと駆け寄った。――しかし、何か見えないものに阻まれた。障壁魔法ディナイアルだ。

「カナ兄、焦らないで。私は逃げたりしないよ? でも、ちょっとだけ待ってて。この国を、世界を、私たちが住みやすいものにするから。ほら、見て? 倒れてるみんな」

 ユリに言われて、周囲に倒れる警官たちを見る。

「これは……!」

 目を疑った。皆発光している。笠木の時と同じ――魔術師への覚醒だ。

「ユリ、お前っ!」

「だから、ちょっとだけ休んでて」

「ッ!?」

 いつの間に近付いたのか、ユリは俺の耳元に顔を近づけて色っぽく囁いていた。

 同時に、全身に電流が走った。鳥肌なんかとは違う、すべてが支配されていくような感覚。

「なん、で……」

 言葉は最後まで言い切ることができず、俺の意識は深い闇の奥へと消えていった。

 

           □            □

 

「かなしさま」

 生まれて数日しか経っていないというのに、アイリスはふとこんなことを言った。どこで言葉を覚えたのだろうか。

 恐らく俺のことを言ったのだと思い、苦笑した。

「様、なんてつけないでくれ。俺は罪人なんだ」

「ざいにん? 罪を、犯した人?」

「そうだな、殺されても文句は言えない、誰も悲しみはしない。そんな人だ。だから様なんてつけないでくれ」

「ちがいます」

 幼子の声で、アイリスははっきりと言った。

「かなしさまがいなくなったら、私は悲しみます。どんなにひどいことをしても、かなしさまは私の、私のいちばん大切な人です」

「……アイリス」

 もしアヤメが生きていたら、こんなことを言うのだろうか。

 そんなことを思いながら、俺はアイリスの頭を撫でてやった。

 俺の過去を知らないアイリスは、ただ気持ちよさそうに目を細めていた。


           □            □


「!」

 目を開けると、まず天井が見えた。おそらくここは魔術部にある休憩室で、俺はそこのベッドで寝ていたのだ。一度しか使ったことはないが、覚えはあった。

 上体を起こすと、傍には部長がパイプ椅子に座っていたのに気づき、失礼ながら思わずびくりと体を震わせてしまった。

「わ、部長。どうしたんです」

「色々と話したいことができた。事務よりも大事な話だ」

「なんでしょうか。……と言うか、アイリスは?」

「それについても、だ。カナシ、この前のショッピングモールの事件は覚えているか」

 ああ、あの狂った奴との。

「はい、覚えてます」

「あの事件の後、ショッピングモールにいたという客が魔術師化した」

「それは、別に珍しいことではないでしょう」

 目の前で魔術師を見れば覚醒するのは仕方ないことだ。現行犯なんかを見ればそうなるのも仕方ない。その原因となるのはそれに対処する魔術師おれたちも例外ではないが。

「問題はその数だよ。21人」

「……はっ? 21?」

 素っ頓狂な声が出た。だが、誰でもこうなるはずだ。普通覚醒するのは多くて3人くらい、もしくは出ないのが常識で、二桁になるなどまずありえないとされている。

「そう、前例のない多さだ。ちなみに監視カメラの映像を見た限りでは、2階にいた客に限られないらしい」

 確か1階と3階は普通に営業していた。……いや待てよ?

「何で1階と3階の客は2階に来なかったんでしょうか……?」

「単純に行く理由がなかったか。もしくは誘惑魔法テンプトを受けていたかだ」

 落ち着いて当時の1階の様子を思い起こす。

「……いえ、特に何かに惹きつけられている様子はありませんでした。自然でしたよ」

「なるほどな……だが、そんな魔法は存在しない」

「それなのですが、部長」

 恐る恐る言うと、腕を組んで考え込んでいた部長は「ん」と、顔を俺に向けた。

「なんだ?」

「やはり、魔導書にはない魔法が存在すると思います。俺がアイリスを造った魔法と同じような」

「そうなるか……だが、あるものなのか?」

「効果的な魔法の発動には強い欲と冷静な判断力が重要になります。その二つが犯行に使うために姿を変えたものだとすれば?」

「魔術犯罪者が魔法を使った犯罪に慣れてきたってことか」

「はい。そもそも魔術師は可能性の塊です。不可能を可能に変え、可能を不可能に変える。俺達の視野はとても狭かったのかもしれません」

「……そうなると、ドラマなんかの推理はクソ食らえ、となるな」

「俺もそう思いました。なんでもありの犯行には、俺達は対処のしようがありません。ですが」

「俺達もなんでもありの捜査をすればいいだけだな」

「その通りです」

 部長が言葉を継ぎ、俺は頷く。どことなく考えが似ているらしい。

「と、盛り上がりすぎて忘れるところだった」

「アイリスのことですか」

「それだけじゃない。魔研内で事故が発生した」

「魔研で……? 魔術師は!?」

 ユリが外に出ていたのは、あいつが何かをしたからなのか? いや、やはりそれはありえない。

 それは置いておくにしても、事故という言葉が引っ掛かる。

「多くが脱走した。だが残った者もいる。そちらはこちらで保護、協力を仰いでいる最中だ」

「でも、残りは今も……こんなことをしている場合じゃ!」

 俺がベッドから降りようとするのを、部長は止めた。

「なぜ、止めるんです!」

「そう焦るなと言いたいんだ、行くことは止めはせん。ただ、聞きたいことがある」

「……なんですか」

「お前は魔術師だけの世界というのを考えたことがあるか」

 部長の言葉は、俺に先程聞いたユリの言葉を彷彿とさせた。

 ――この国を、世界を、私たちが住みやすいものにするから。

 ユリの言葉は、もしかしてそういうことなのか? 魔術師だけの世界?

 じゃあ現場にいた警官たちは、やっぱり――!

 そう思うと、思考が一瞬凍りついた気がした。だが、そんな暇はない。すぐに氷を溶かし、頭を回転させる。

「……ありません」

「そうか、では考えてみてどう思う」

「世界の終わりですね」

「なぜだ? 人間と魔術師との確執が消えて、皆同じ存在になれるんだぞ」

 部長は自分がそう思っているというわけではないらしく、むしろ俺を試しているかのような口調だった。

「魔術師の中での確執が生まれます。人生が狂った者と狂わなかった者との。それはやがて一方的な憎しみを重ねていき、戦争を引き起こします」

「……では、このままでいいと思うか?」

「分かりません。何せ人間以外の人種が現れたのは過去に例がありませんからね。答えを出せるまでの時間稼ぎをするのが、俺達の仕事だと思っています」

「なるほど、16にしちゃ言うじゃねえか」

「ここじゃ年齢なんて無意味でしょう。俺だって罪を犯した人間なんだ、考えることはいろいろあります」

「3年前とは大違いだな」

 急に昔のことを言われ、俺は気恥ずかしさで部長から目を逸らした。

「あの時は腐ってたんですから、言わないでくださいよ」

「そうかいそうかい。それじゃ、最後だ」

 笑っていた部長の顔がすぐに引き締まり、なんだかついていけなくなる。

「アイリス――いや、アヤメのことだ。お前は妹に囚われすぎのドシスコン野郎だ」

「大きなお世話です」

「まあ、そう言うな。それで、お前は妹を殺せるか? 正確には、家族を」

「家族なんて、アヤメしかいないようなものでしたよ」

「そうかい。……いや、そうじゃなくてだな。イエスかノーで頼む」

「部長は俺に、アイリスを殺せと」

「人の言うことを聞かん奴だな。場合によってはそうなるから聞いてるんだ」

 部長はまるで理解の遅い子供にうんざりしている親のように呆れている。

 俺は少し間を開けたが、決して迷うことはなく、部長に告げた。

「ノー」

「何故だ?」

「俺が殺すのは犯罪者だけ。それだけです」

 俺がそういうと、部長は嘆息した。呆れとは取れない感じだ。

「それは別にいいんだが、お前はどうなんだ? 生命創生犯である、お前自身は」

「死んでも文句は言えません。ですが」

「ですが、なんだ?」

「……多分、アイリスは第二の俺になります。俺が跡形もなく死んでしまえば、アイリスは俺の紛い物を造る」

「それは困ったな。そう何度も例外があっていいものじゃないだろう」

「だから俺は死にません。アイリスも殺さない。でも、アヤメのことは乗り越えたいと思っています」

「若いな」

 部長はにやりと笑うと、俺を制止した手をどけた。

「盗難事件は後回しでいい。てか、今は警官が魔術師に覚醒したりで捜査どころじゃないからな。さっさと行って来い」

 言われて、上野公園での警官の覚醒を思い出す。あれがそこらじゅうで起こっているということだ。……時間は限られているようだ。治安維持組織が犯罪を起こす側になるなど、あってはならない。

「……と言っても、どこへ?」

「とりあえず魔研に行ったらどうだ、一部研究員は現場に残っているらしいぞ」

「わかりました、行ってきます」

 俺は椅子に掛けられていた制服を取って袖を通すと、急いで休憩室を出た。

 すると視界にシュンが現れて、急ブレーキをかけてこけそうになるがなんとか耐えた。

「な、なんでここにいるんだよ」

「呼ばれたのさ。それより君は急ぎなんだろう、早く行ったらどうだい」

「言われなくても」

 俺とシュンは見合ってにやりと笑うと、すぐに別れた。

 しかしシュンがここに来ているとなると、レーダーでの援護は期待できそうにない。

 俺は腹をくくって、まだ日差しの熱い夏の世界に舞い戻るのだった。


           ■            ■


 僕はカナシと別れ、赤凪部長がいるであろう魔術部の休憩室に入室した。

 カナシには悪いが、僕は赤凪部長に呼ばれてなどいない。僕個人の意思で会いに来たのだ。

「失礼します、お忙しい中」

「ん、ああ、城崎君か。どうした?」

「用は特にありませんが、あなたに呆れていたところです」

 僕は壁にもたれながら、わずかに嘲笑する。

「ほう、なぜだ?」

「肝が据わってない。いくらなんでもそれはないでしょう、静葉リンドウさん?」

 僕が言うと、赤凪部長――いや、リンドウさんは自嘲気味に笑った。

「今は赤凪アマギだ。そう呼ぶのはよしてくれ」

「そう言ってカナシに嘘をついている。あなたは紛れもなくリンドウさんだ。皮肉にも、僕は幼少期にカナシよりあなたと接している。姿が変わっても分かるほどに」

 両親が研究者だった伝手つてで、魔研に見学に行くとちょくちょく会っていた。その時はまだ、静葉家の事情については全く知らなかった。

「そうだったか。はは、君には頭が上がらないね」

「茶化さないでください。カナシから聞かれるたびに、僕はイラついているんです。あなたはまだ伝えていないのかと。いい加減にしてください――




 ――自分の息子を罪人にしたのはあなただ」




           ■            ■


「っち、もうこんな時間かよ……」

 リングフォンの現在時刻と空の緋色を見て舌打ちをする。ユリとの遭遇が大体3時くらいだったから、3時間くらい寝ていたということになる。

 ここから魔研まではバスでも1時間近くかかる。1分1秒すら惜しいのに。

 筋力強化魔法で走ることも考えたが、使用後の体力のことを考えると、ほぼないだろう。長期捜査が予測されている以上、体力の浪費は避けたい。ウェルフの魂理論が正しいのなら、魔法の使用にも影響が出る。

 こうなったら、できるだけ魂を省エネして魔法を使うしかない。

 不可能を可能に変える。俺にはそれができるはずだ。

「――とべ。跳べ、跳べっ!」

 俺の強い願いと共に魔法の発動――飛行が始まった。

 くるぶし辺りに水色の魔法陣が浮かび、そこから透明な翼が生える。

 その翼が羽ばたくと、俺の体は宙に浮いた。

「わ、わ……できるもんなのか」

 自分でも成功したことに驚きつつも、今はそんな場合ではないと、日の沈む空を見据える。

 俺の願いが生んだものなら、俺の願いどおりに動くはずだ。

 ――飛べ。

 念じると、俺の体はふわりと浮かび、高速で空の赤に溶けて行った。


           ■            ■


「いかにも、カナシを生命創生犯にしたのは他ならぬ俺だ」

 リンドウさんは悪びれる様子もなく、ただ肯定した。

 実際は反省なりしていると信じたいけど。

「理由が聞きたいですね。何故カナシを犯罪者にする必要があったのです」

「一つは親の視点から、アヤメを健康な娘にしてほしかった。――結果的に、生まれたのは別の元気な少女だが」

「……何のための科学革命なのでしょうか。人工臓器の移植、産後遺伝子改造。臨床段階ではありますが、試す価値はあったはずです。魔研にいた身なら、尚更」

「娘を実験台にしろと? できるわけがない。<あれ>は――」


           ■            ■


「――と、と……案外いけるもんだな」

 俺は空を飛ぶ魔法――さしずめ、飛翔魔法フライヤといったところか――を解除し、コンクリートの小さな破片の散らばる魔研前に着地した。

 酷い有様だった。全壊まではいかずとも、玄関にはただ大きな穴があるだけだった。そこから中に入ると、他にも多くの穴が開いていた。ユリが暴れた後だ。

「あの時と同じか。いや……」

 あの時の方が被害は少なかった。とりあえず魔研を穴だらけにするようなことはなかった。

「誰かいませんか、誰か!」

 叫びながら施設内を駆ける。俺の足は、無意識にある場所へと俺を導いた。いや、どこかでここに行くべきだと思っていたのだろう。

 俺の前にある2メートルほどの自動ドアが開き、大穴から夕陽の差し込む部屋に入った。奥の方へ進んでいくと、足元でぴちゃ、という水っぽい音がした。

 見ると、それは部屋中に広がっているようだった。ユリの水槽に入っていた人工羊水か。

 気にせず進むと、破壊された水槽があった。その傍では血を流して倒れている研究員達。

 白衣のせいで、より分かりやすくなっている。

「だっ、大丈夫ですか!? 今、修復魔法レストアで……!」

 俺が研究員の一人に駆け寄って魔法を使う――しかし、魔法の光に触れた途端、体が灰のように崩れていった。

「っ!?」

 俺はこの光景に、見覚えがあった。

 過程は違えど、これはまるで――アヤメが崩れた時と同じだ。

「あっちゃあ……見ちゃったか」

 俺が崩れた研究員だったものを見て唖然としていると、背中に聞き覚えのある声がし、振り向いた。

 そこには、肩に傷を負い、血を流す高橋さん。

「高橋さん! これは、いったい」

 俺が詰め寄ると、高橋さんは目を逸らし、少し躊躇ってから口を開いた。

「……見覚えがあるんじゃないかしら? 人が、砂のように崩れる様を」

「高橋さん、あなたは……」

 俺が狼狽していると、高橋さんは自嘲気味に笑った。

「そうねえ……犯罪者、かしら」

「犯罪者……!?」

 犯罪? 殺人か? いや、どこにも死体は無かった。とすれば、俺に関係のある犯罪――?

「――……生命、創生犯」

「正解。データなら残ってるから、カナシ君の権限で持って行ってもいいのよ」

「まっ、待ってください! あの人はなんなんです! あの人は作られた生命なんですか!? だったら、だったら――!!」

 激昂して怒鳴るように言うと、高橋さんは小さく首肯した。

 じゃあ、じゃあ。じゃあ――――!!


           ■            ■


「――アヤメは元々、魔研が作った物だ」

 何だって?

 僕は眉を顰めた。アヤメちゃんが既に生み出された生命だった、だって?

「……詳細をお教えいただけますか」

「自分の身分がわかって言っているのか? 2度も勧誘を断られちゃあ、こちらのカードを何もかも出すってわけにはいかんな」

 食えない人だ。だが、もっともだ。

「では……この事態が収まるまで魔術部に協力します。それでいいでしょうか」

「おや、随分と素直だな。今の状況からすれば十分に釣りが出るが」

「では、釣りをください」

「……欲もあるみたいだな」

 リンドウさんは呆れて嘆息し、表情を真剣なそれに変えた。それに対し、僕は捕食者の目でリンドウさんを睨んだ。

 場合によっては、僕はこの人を殺す。

 カナシを貶めた、カナシの父親を。

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