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ノーマライジング・ウィザード  作者: 七々八夕
プリザーブド・アイリス
3/31

File:2「傍で咲く花と支える木」

 帰宅しようと駅に向かった俺とアイリスだったが、部長から呼び出されて今は警視庁のある千代田区に向かっている。

 まあ、大方今回の報告の為だろう。義務ではないし情報は勝手に手元に来るだろうからしようがしまいが変わりないので俺はしていないが、このようにたまに呼び出されることもある。

 しかし部長も大変だ、22時前になってもデスクワークをし続けているなんて。かく言う俺達警官もいつ駆り出されるかわかったものではないのだが。

 そういうわけで、俺達は早く帰って寝たいので(アイリスがどうなのかはともかく)さっさと要件を済ますために警視庁に出向いた。

 ここは魔術部のスペースを確保するために一度大規模な整理・改装がされ、結果的に余った地下4階分が魔術部のものとなった。

 俺達はエレベータを使って、部長のいる魔術部オフィスのある地下1階に向かう。

「……静かだな」

 あまりオフィスに来ることがないので分からないが、人手不足だからだろうか。

「まあ、この時間は基本的に出動中か、帰宅している時間ですしね」

「他も他で大変か」

 嘆息しながら廊下を歩き、オフィスへと通じる自動ドアを抜ける。

 室内には案の定誰もいなく、本当に静かだった。

 俺達は気にせずオフィスの奥にある、なぜかここは自動ではない、ドアノブのついたアナログな木の扉を開ける。

 そこは我らが部長――赤凪アマギがいる部長室だ。書斎とも取れる落ち着いた雰囲気の部屋には、肘をついてノートパソコンのキーボードを叩く部長がいた。

「部長、呼び出されたので来ました」

「ん、ああ。さっきは大変だったみたいだな」

 部長は仕事の手を止めて、ノートパソコンを閉じた。

「……なんでお前は靴を持っているんだ?」

「簡潔に言うと、汚れました」

「そうかい。で、お疲れのところ申し訳ないんだが、いいか」

「そのために来たんですから、どうぞ」

 俺が言うと、部長は椅子の背もたれにもたれかかった。机は立派なのに椅子はオフィスにあるものと同じものなので、独特の軋むような音がする。

「連続盗難事件は分かるな?」

「連続……ああ、ニュースでやってましたね。痕跡を一切残さずに、金品を盗み続けてるっていう」

 それを聞いたのは、確か2週間ほど前だ。この話を持ち出すということは、まだ解決していないのだろう。ニュースでも犯人が捕まったとは聞いていない。

「そう、それだ。お前の思っている通り、まだ解決には至っていない。そこでだ」

「私達に、捜査に加われということですか」

 部長の言葉を、アイリスが継ぐ。それに部長が頷く。

「お前らは優秀だからな。経験だけを除けばウチじゃ最も重要な戦力だ」

 ただし経験は足りない――それはさっきの戦闘で痛感したし、既に自分で分かっている問題点として挙がっている。だが経験と言うものは時間と共に得ていくものであり、魔術部内で他にいない、たったの16歳である俺には最も足りていないものだった。

「ですが、カナシ様は他の方、それも人間とは――」

「一緒にやれとは言わん、お前らで勝手に動いてくれればいい。ただし、最低限のことは守れよ」

「……了解」

「じゃあ、今日はもう帰ってくれていい。朝までには事件の詳細データを送っておくから、明日にはすぐ捜査に加われるようにしておけよ」

「「了解です」」

 声をそろえて返事し、俺達は一礼して部長室を去る。

「……帰りたくない」

「どうしてです? 私は早く帰りたいです」

 お前は俺を襲いたいだけだろ。

 アイリスは家の中――つまり、公衆からの視線がない時は、常に俺を襲おうとする。性的にだ。アイリスの外見年齢は小学生くらいだが、一応、実年齢は3歳だ。深い事情があるから仕方ないのだが、外見年齢にしろ実年齢にしろ、一線を越えてしまえば俺の社会的地位がさらに危うくなることは必至である。

 いや、<戸籍上は>11歳になってはいるんだが、結局はアウトだ。

 とにかくそういうことなので、俺は帰宅したくないのだ。

「アイリス、一人で帰ってくれ」

「嫌です、私にはカナシ様の世話をするという役目があります」

「そんな役目はない、帰れ」

「カナシ様つめたい」

「お前が節度を守ってくれさえすればそうは思わないはずだ」

 などとつまらない会話をしながら、警視庁を去る。

 しかし、なぜ部長は直接呼び出したのだろうか。それを伝えるだけなら、リングフォンを使えばいいだけの話だ――いや、部長は形を好む人だ。いつもは報告しないことを黙認してはいるが、いつも裏で渋い顔をしていた。こういう重要なことは、直接伝えたかったのだろう。

 それはさておき、やはり俺には家に帰るしかないのだろうか。

 ああ、シュンの家に泊まりたい。シュンは俺の幼馴染で魔術師を拒まないどころかいつでもカモンのド変態だから、一日泊めるくらいどうってことはないのだろうが……アイリスが心配だ。くそ、アイリスを無視しきれない自分が憎い。だがアイリスを家に放置して何が起こるか分かったものではない。そもそも俺はアイリスなしでは外に出られな――

「――ばふんっ」

 脳が俺の苦悩に耐えられず、爆発した。

「わ、どうしたんですかカナシ様。頭が爆発したように見えたのですが」

 したんだよ。

「アイリス、最低限互いが18歳になるまで待てないか」

「待てません」

 あくまで頑ななアイリスに、俺は溜息をつく。

「なんでこういう時は言うこと聞かないんだよ……」

「愛情は隠すものではありません、もっと前に出すものです。これは譲れません」

 曰くそういうことらしいが、俺のことを思って人前では襲ってこないのだという。思っているなら家でも襲ってほしくはない。

「アイリス……いいか? お前がそうやって俺を好くのは禁じないが、既成事実を作ろうとするのはやめろ。これ以上俺の立場が危うくなれば、どこでも生きていけない」

「その時は心中しましょう」

「勘弁してくれ……」

 肩を落として、また溜息を吐く。お前俺のこと好きすぎだろ。好いてくれるのはありがたいことなのだろうが、如何せん俺は色恋沙汰には疎い。期待しているアイリスには悪いが。

 家に近付くほど膨れ上がっていくような疲労感に苛まれながら、俺達は帰宅のための電車に乗り込むのだった。


           ■            ■


 夜。帰宅後、カナシ様はすぐ就寝しました。それまでの間、私は大人しくしているふりをしていました。

 ですが、カナシ様が眠ってしまえばそんなことをする必要はありません。私は無防備に寝ころぶカナシ様の胸めがけて、体全体で突っ込みます。

 しかしさすがはカナシ様、無意識下でも私の愛を回避しました。そこまでに嫌われているのでしょうか? いいえ、カナシ様はこう見えてかなりのツンデレです。きっと愛を受け止めるのが恥ずかしいのでしょう。

 私は口から零れる涎を飲み込んで、今度こそカナシ様を抱きしめます。

 ですが――違います。これはカナシ様ではありません。偽物です。その証拠に、私の抱きしめているカナシ様は消えました。

「……したくはなかったんだが」

 カナシ様の声が後ろから聞こえてきたと同時に理解しました。これは身代魔法スケープゴートです。

 逃げようとしましたが時すでに遅く、捕縛魔法アレストによって体を縛りあげられます。きついです。でも、悪い気はしません……。

「大人しくそこで寝ろ」

 恐ろしく不機嫌なカナシ様の声も相まって、なんだか変な気分になりそうです。目の前にカナシ様がいるのに、手が出せない――ああ、これが焦らしという奴ですね。

「私は諦めませんよ、カナシ様!」

 私の叫びにカナシ様は何も言いませんでしたが、怒りで血管が浮き上がるような音がしたような気がしました。

 きっと気のせいでしょう。


           ■            ■


 朝。起床と同時に、アイリスの様子を確認する――寝ている。いや、こいつのことだ。身代魔法を使っていてもおかしくはない。とりあえず本体はこのままでいいだろう。まだ外には出ない。

 とりあえず、リングフォンを起動する。そういえば、付けたまま寝てしまっていた。精密機器なのであまりおすすめできないが、別にしても問題はない。

 メールボックスを見ると、部長からのメールが一件。添付ファイル付きということは、昨晩言っていたものだろう。

 遠慮なく開くと、本文はなく、『事件詳細』というタイトルのデータだけが添付されていた。俺はそれを開く。

 するとホログラムに映されたデータが表示され、自動で整理される。

 長々と事件について書いてあるが――要約すると、犯人の特定、逮捕は不可能ということらしい。まあ、魔術犯罪なんてものはそういうものだ。不可能であることを前提に俺達に押し付け、それを可能に変え解決するのだ。

「さて、どうしたものかね……」

 階段を下りながら、方針を立てていく。

 足跡がないらしいので、追跡は不可能。あればとっくに逮捕できている。となれば使用しているのは浮遊魔法フロート

 美術館などに置いてある宝物は、入れられているガラスの箱に傷一つ、指紋ひとつ付けずに取り出されている。これはそうだな、丸々取り替えるという手段も無くはないが。

 逃走・侵入経路は不明――これは、直接調べてみるしかないか。壁を通り抜ける魔法は存在しない。これも昨晩と同じように、警備員に扮した犯人が犯行に及んだ可能性もある。

「まあ、見ないと分からないか……」

 ホログラムを消して、リングフォンの電源を切る。そこでふと、昨日<魔術師>を噛んだことを思い出す。

 再度リングフォンを起動し、部長にメールを送る。

『魔術師っていう名称、どうにかなりませんか』

 簡潔にそれだけ記し、メールを送った。それと同時に、リビングに着いた。

 さて、何を食べようか――そう思ったが、昨晩風呂に入っていないことを思い出す。先に風呂に入るべきだろう。

 しかし、今から浴槽に湯を入れるのは面倒だし時間の無駄だ。シャワーを浴びるくらいでいいだろう。

 リングフォンを外してテーブルの上に置き、服を脱ぎながら脱衣所に向かう。

 ここまでアイリスが現れなかったのは逆に怪しいが、まあ、いいだろう。

 小型の洗濯・乾燥機に服を一式入れ、腰にタオルを巻いて風呂場に入る。4人くらいで住んでいたから、今となっては無駄に広く感じるばかりである。

 体と頭を洗って、手早く済ませて風呂場を出る。

 そこまではよかったのだ。そう、そこまでは。

 油断していた。

「あっ、ふぁなひはま! ふぉはほうほはいはふ!」

 アイリスは俺の目の前で、洗濯機に入れたはずのシャツを顔に押し付けて興奮している。

 ドン引きだ。

「……何をしている、アイリス」

「カナシ様の臭いを嗅いでいますクンカクンカ!」

 ぶん殴ってやった。

 一晩過ぎても捕縛魔法から抜けていなかったのだ、身代魔法以外に考えられない。その証拠に、吹っ飛んだアイリスは空中で消えた。

 まったくこいつは、どうしてこうなんだ。呆れるしかない。

 プラスティック製の箪笥から下着を出して着、アイリスが再来する前に服を着る。

「……アイリス。大人しくするなら解放してやる」

 俺の死角からじっと見つめているアイリスに言うと、素直に消えた。俺は溜息をついて、2階の俺の自室でアイリスを縛る網を消した。

 溜息を吐いて、冷蔵庫の中身を確認する。卵が少し多いので、オムライスを作ることにした。

 時計を見ると既に9時を過ぎており、多少急いでいたので、少し半熟気味になってしまったかもしれない。

 まあ、アイリスが美味しそうに食べてくれたからいいんだが。


 朝食を終え、俺と一緒に入ると言って聞かないアイリスを脱衣所に放り込んでいる間、俺はテレビでニュース番組を見ていた。警官とて、事件についてすべての情報が得られているわけではない。ニュースから得られる情報もある。

 ――が、今日はそうでもない。俺に関係あることと言えば、昨日の銀座のショッピングモールのことと、例の盗難事件のことだけだった。

 番組と番組の間に挟まれたニュースなだけあって尺が短いのだろうが、文句は言えない。だめもとで見ているようなものなのだから。

 天気予報で今日は晴れると言われたところで、リングフォンのランプが青く光っていたので起動すると、メールが2通。

 片方は部長からだ。忙しいのによく返信してくれたなと思いつつ、メールを開く。

『アメリカとの提携ができれば、別の名称、確かセイズだったか。そうなるはずだから、それまで噛め』

 あの性悪中年め。困っているのは俺だけじゃないんだぞ。

 眉根を寄せながら、次のメールを開く。幼馴染のシュンからだった。

『カナシ、しばらくぶりだね。夏バテしていないかい? 君のことだから過労でもピンピンしているだろうから、忙しくなければ僕の家に寄ってもらえないだろうか。もちろん強制はしないから、無理なら無理で構わない。

 今日がダメでも、暇な時に来てくれればいい。

 よろしく頼むよ』

 シュンとは1か月メールのやり取りをしていなかったが、こちらは相変わらずだ。シュンは人間の高校生で、常に暇というわけではない。今日はよく考えれば土曜日だったので、休日のうちに行っておいた方がいいだろう。

 となると、少し寄り道することになり――最初の現場に行くのは、少し遅れそうだ。まあ、問題あるまい。

 俺はシュンに『午前中に向かう、だがなるべく手短に頼む』と返し、電源を切った。

 その後別の地方の天気予報などを流し見ていると、アイリスが風呂から出てきた――裸で。偶然にも長髪が見るべきではない所を隠してはいるが、あまり長時間見ててもいいものではない。俺は急いで洗った服を持ってきてアイリスにぶん投げる。酷いと言われようが知ったことではない。アイリスは気にせず、俺に投げられた服を着々と着る。

 これが俺の日常でもある。休む暇などほとんどない。まあ、アイリスがいようといまいと変わりはないのだが。

 俺は3年も経ちもう慣れつつあるので、気にせず外出の準備をする。

 制服は一応2着用意されているので、片方を洗濯機に入れてタイマーをかけ、洗ったもう片方に袖を通す。

「もう出るんですか? 少し早いように思えるのですが」

 着替え終わったアイリスが、俺の制服の裾を掴む。

「シュンの家に寄るから、早めに出る。というより、なるべく早く行くべきだ」

「事件の資料は頂いたのでしょう? でしたら、いつ行っても変わりはないのでは」

「暇が欲しいなら、仕事を後回しにするんじゃない。先に終わらせるのが定石だ」

「……そういうものなのでしょうか」

「そういうものだ」

 暇が欲しいという点では同意見だが、それを得る過程をすっとばし楽をして暇を得ようなどとは愚か者のすることだ。数十年前には腐るほどいたらしいが。アイリスはまだ3歳なので、分かっていないことも多い。俺が教えられる範囲で、こいつに教えていかなくてはならない。

「さて、リングフォンはつけたか」

「はい、いつでも出られます。それにしても、城崎きのさきさんと会うのは久しいですね」

 城崎とは、シュンの名字だ。俺のいるところにアイリスがいるので、アイリスはシュンと何度も会っているし、あいつの変態趣味にも付き合っている。

「鍵を閉めるぞ、早く出ろ」

「ただ今」

 アイリスはいつもと同じ、青いラインの入った白いブーツを履いてトテトテと小走りで外に出る。俺はアイリスが出ると同時に扉を閉め、指紋認証パネルに指を置いてキーをロックする。

 試しにドアノブを持って開けようとしてもびくともしないことを確認し、俺達はシュンの家目指して歩き始めた。


 シュンの家は俺の家からそう遠くないところにある。だからこそ、幼馴染という関係であるのだ。

 代々科学者の家系らしく、シュンは基本的に一人で家にいることが多い。そういう点でも、俺とシュンには通じるものがあった。まあ、奴は一人で研究をして暇を潰せるらしいが。

 俺は玄関に立ってインターホンを押すと、西洋の豪邸にでもついていそうな立派な鐘の音が鳴った。また変えたな。この家はなぜか来るたびにインターホンの音が変わるのだ。

 しばらく待っていると、家の中からドタドタと廊下を走る音が聞こえてきた。

「カナシだね、入ってくれ」

 ドアを開けながら、白衣姿に眼鏡をかけた少年――城崎シュンが現れる。開けながら言うな。

「ああ、久しぶりだな」

「それはこちらもだよ。おや、アイリスちゃんも久しぶりだね」

 シュンがにこりと笑うと、アイリスも笑って一礼した。

「さて、仕事の前だろう? できるだけ手短に終わらせてしまおう」

「それはいいんだが、何をするんだ」

 俺はアイリスと並んで靴を脱ぎながら、階段を上がるシュンに聞く。

「ああいや、血が足りなくてね」

「ああ、血か」

 納得した。

 こいつは個人的に魔術師の研究を行う変態で、政府の管理する魔科学研究所(通称、魔研)がまだ解明していないことまで解明しそうなほどの科学力を持つ変態だ。

 どうでもいいが、魔術師の研究は違法ではないので、シュンのような似非科学者がゴロゴロいてもおかしくはない。むしろ、魔研から推奨されているという話もある。噂レベルだが。

 俺達はシュンの自室――の隣にある、シュンの研究室に入った。ブルーライトに照らされる気味の悪い標本が、棚にいくつも並べられてある。

「すまないね、暗くて」

「いや、構わない」

 シュンは言いながら、デスクライトをつける。まだ午前中だというのに真っ暗な部屋を照らすには十分だった。俺とアイリスは近くにあった車輪キャスター付きの椅子に腰かけた。アイリスは早速グルグルとまわって遊んでいる。

「さて、さっそく採血しようか」

「ああ、いいが……何に使ってるんだ?」

 俺は無針の採血器を取り出すシュンに右腕の肌を出しながら聞く。前回も採血されたが、用途ははぐらかされたままだった。

 シュンはにやりと笑うと、眼鏡を装着している者特有の、眼鏡の真ん中を押し上げるような仕草をした。

「ふふ、よくぞ聞いてくれた。完成が近いからそろそろ教えてもいいだろう、僕は今魔術師のレーダーを開発中なんだ。そのためのデータとして、魔術師化したカナシの血液を採取したわけだけど、そこから得られた遺伝子データだけでは、先天的魔術師だけを捜索するレーダーになってしまう。そこで後天的魔術師となり得る僕自身の血液も採取し、それを改造して擬似的な後天的魔術師の遺伝子データを作り、カメラに内蔵された、僕特製の――」

「うん、凄いのは分かった。さっさと採ってくれ」

「じゃあ、遠慮なく」

 話の腰を折られても、こいつは気にしない。シュンは俺の腕に採血器を押し付けて、一瞬で採血を終える。一瞬だけ感じる寒気のようなものは、2度目だが慣れない。

 しかしながら、魔術師を捜索するレーダーか……。そんなものが完成すると、魔術部の存在意義がなくなりかける。まあ犯罪が起きないに越したことはないので、そちらの方がいいのかもしれないが。それは置いておくにして、個人的にシュンは魔術部にとは言わずとも警視庁に迎え入れたい優秀な人材である。過去一度だけこいつの力を借りたことがあったが、困窮を極めていた難事件がこいつのおかげで解決した、という前例がある。しかしこいつは自由を奪われることを嫌うので、魔術部内では<凄い民間の協力者>という扱いになっている。そういうわけで、部長とも面識がある。

「うん、いい色だ。ありがたく使わせてもらうよ」

「そりゃどうも」

 俺は腕が温かくなっていく感触を気持ち悪く思いながら、捲った服を元に戻す。

「……で、何をくれる」

 俺はシュンの方を見て言う。俺とシュンはギブ&テイクの関係にあり、俺が研究材料を渡す代わりに、シュンは俺に有益な情報などを提供してくれるのだ。

「そうだねぇ」

 シュンは口ではそう言いながらも、俺の血を保管する容器に入れる方が今は優先らしい。

 保管を終えると、顎に手を当てて考えるようなしぐさをしたのちにどこからかノートパソコンを取り出し、その画面を俺に見せた。本当にどこから出した。

 椅子を動かして顔を画面に近付けると、久しく見ていない多種多様で多数あるグラフが地図の画像を囲んでいた。

 どうやら脳がなまっているらしい。本を読まなくなったせいだろう。

「……どういうことだ?」

「そんなに難しいかい? そうだねえ、簡単に言うと地図上にある赤い点が魔術師だ。今はカメラを一部にしか置いていないから全てが分かるわけじゃないが……そうだね、日比谷公園のところに一つ赤い点があるのが見えるかな」

「あるな」

「そこに行ってみると良い。こちらでマークしておくから、その気になったら言ってくれ」

「……いや、知ったからには確保に向かうのが義務なんだが」

「なら、ナビしよう。ここまで言っておいて申し訳ないが、仕事の方は大丈夫なのかい?」

「ああ、優先度はこちらが上だからな。言い訳としては十二分だ」

「そういうことなら、気兼ねなく。その端末――リングフォン、だったかな。しばらく僕と繋ぐことになるけど、大丈夫だね?」

「基本はメールだからな。大丈夫だ」

「――よし。じゃあ、早速試してみようじゃないか」

 俺とシュンが同時に立ち上がると、アイリスもそれに気づいて慌てて立ち上がる。

 予定はそれなりに狂ったが、社会の為にしていることとしては変わりない。不安があるとすれば、それは日比谷公園にいる魔術師を殺すという事態にならないか。それだけだ。


 不安が大きくなるのを防ぐように首を振ると、シュンは自室へ、俺とアイリスはまた悪のはびこる外へと出ていくのだった。

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