愛の授業
生徒:
私の祖国は死にました
何かが流れていたのだと思います
ある者は 流れこそが生命と言いました
ある者は 永遠のために停滞を求めよと
しかし私の祖国は死にました
そこには確かに何らかの「流れ」があり
また同時に停滞もありました
人の心は完全に止まっていたでしょう
ですが私の祖国は死にました
教えてください
私はこれから どうすればいいのでしょうか
導師:
停滞とは くだらない会話のことですか
流れとは 物質の目紛しい流通ですか
あなたの受けた教育は
数学をどのように語りましたか
鉱物の知識を暗い穴のなかで語りましたか
生徒:
それ以外に 停滞と流れがあるのでしょうか
眼に映るものは全て流れていきます
ですが捉えられないものもまた 流れるのでしょうか
そしてどんな会話が 私たちの流れとなるのでしょう
数学はただ頭の良さを競うために習い
鉱物は明るい空の下で教わりました
植物は目の前に切り取られた花が置かれ
牛が草を食むところは見たこともありません
導師:
あなたが二重の自分を感じたならば
より深い声に注意しなさい
あなたが自分とは違う声を聞いたならば
まずはそれを疑いなさい
生徒:
そうすることで私は祖国を離れていきます
金貨も差し伸べられる手も全て捨てて
ですがひとつだけ
私を離さない妙技があります
導師:
それを適切な場所で見つめなさい
夜には暗闇で 昼には晴天のもとで
ナイチンゲールに食われないように
生徒:
私は神殿を目指そうと思います
遠い砂の地に建つという 人間の神殿を
導師:
いいえ それは叶いません
なぜならその神殿は
もうずいぶん昔に壊されました
生徒:
建て直す者はいなかったのですか
それを 三日で建て直すと言う者はいないのですか
導師:
全ての商人は司祭に追い払われ
全ての司祭は大工に追い払われ
全ての大工は悪意に追い払われました
生徒:
悪意はどこからやってくるのですか
外と内からですか
導師:
いいえ 上と下からです
生徒:
そうして私は行き場を無くしたのです
おそらく 壊されたのは神殿だけではなく
生活のあらゆる雫が壊され
廃棄物を置く場所ももういっぱいです
導師:
それでは星空を信じなさい
壊された神殿に代わるものをそこに探しなさい
生徒:
見当もつきません
輝きや瞬きのいったい何が
私の体に結びつくのでしょう
導師:
適切に 全ては適切に
例えば地上の石が光っていたなら
それを陽の光から遠ざけなさい
暗い洞窟のなかに運んで
鉱脈の打ち震える音に捧げなさい
あるいは人体の奥底で眠る
鉱物の通り道のために求めなさい
生徒:
しかし 全ては神殿を建てるためのもの
そのために王は大工を呼び
魂は大工を選び
そして大工は殺された
導師:
それが答えだ
そのなかに次の神殿が隠されている
滅びるものは生まれるものの予感
かつて神殿に秘められたものは
巧妙な人体組成そのものだった
だが次の神殿に肉体はいらない
それは昼か それとも夜か
生徒:
両方です
そのなかで生まれ
少しずつ育っていくものが
仮に私のなかにも存在するならば
もはや祖国に頼ることもないでしょう
導師:
ある
それはある
だからそのもののために気狂いの歌を歌いなさい
さあ
生徒:
「え」の音のもとに広がっていくよ
私の心を描いた絵の具
砂浜濡らす優しい潮が
世界の端まで伸びていく
そんなイメージ抱けたならば
私はそこに溶け込む雫
導師:
理想を歌え
それがどれだけ馬鹿にされようとも――
槍が出てくるぞ
お前の心臓を貫くために
生徒:
それでもかまわないと言えるでしょうか
人間は盾ではありません
導師:
なぜに?
お前のなかで燃えるものが
何にも代えがたい矛と盾だ
生徒:
祖国を殺したものは
いつか私を捕まえます
導師:
なぜに?
お前はその時
降り積もるように昇っていけばいい
そのなかでただならぬ祈りを降らしなさい
生徒:
教えてください
最後の祈りを
導師:
その時全てが繋がるならば
全ての槍に向けて祈れ――
宇宙の熱よ このもの達をお許しください
自分が何をしているのかを知らないのですから と
生徒:
先生 世界は真っ白です
今 暗闇のなかで真っ白です
寒さが宇宙を覆っても
そこに生まれた暖かさは
最後の最後まで残るでしょう
それが私です 真っ白な 私です