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聖夜  作者: 武田 章利:Sai
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命の授業

生徒:

 どうしても不思議なことがこの世にはあります

 学校の先生だからと言って教えてくれるわけではなく

 むしろ意識下の出来事など

 否定しなければならないような風潮なのです


導師:

 ではあなたはいったい何が知りたいのですか


生徒:

 心臓が動く理由です

 どうして私は心臓の動きを意識できないのですか


導師:

 心臓はひとつの電気を感じて

 自らが動くことを望む

 電気はいたるところで起こされている


生徒:

 しかし私は 電気のひとつも感じることができません

 どうして私は知らないの 自分の体のひとつひとつを

 筋肉だって意味不明 縮んで伸びての動きの間に

 もっとたくさん感じていたい


導師:

 それは気狂いの歌だ――

 さあ


生徒:

 「あ」の音を踊って

 足の位置が定まらないよ

 腕は大きく広げていいの


導師:

 それは「お」の音

 足は地面にしっかりつけて

 天空突き刺すように腕


生徒:

 これが秘密ですか


導師:

 お前はまだ 知ってはいけない

 だが心臓の動きをじっくり見れば

 きっと感じられるはずだよ

 まるで自分でないみたい

 見えない手が伸びてきて

 心臓掴んで握っているよ


生徒:

 それはいったい何ですか


導師:

 お前が望むのならば――

 さあ


生徒:

 拍動弾んだ体の動きが

 夕日の校庭走って消えた


導師:

 お前の足跡ひとつひとつが

 小さな人間生み出したって

 それを不思議と思わないだろ

 巨人がでたら疑うことは?


生徒:

 それが小人の影でないかを


導師:

 それではお前の思う通りに

 土人形を作りなさい

 時間の許す限りにおいて

 お前はお前の作り手であれ


生徒:

 他にはいったい何ですか


導師:

 お前が再び望むのならば――

 さあ


生徒:

 私は私を痛めつけます

 食事を摂るたび 悲鳴を上げる体があります

 狡猾に誘い込んで首を刎ねるように

 そこに矛盾はないのでしょうか


導師:

 暗闇を踊り 迷路を踊り

 風の呻きが頭上に聞こえたら

 お前はいつでも「人間」を問いなさい

 冷たい鎌が首元に触れ――

 するとその者は お前の血の色を訊くだろう


生徒:

 きっとそれは赤黒く――

 何も知らない それを恥じたら少しだけでも

 私は澄んでいけるでしょうか


導師:

 いいや、一度首を刎ねられよ

 飛び散る血こそがお前の在り処だ

 そして心臓の動きまで また一歩近づけるだろう


生徒:

 後悔することはないのでしょうか


導師:

 存分にしなさい

 そして崩れた全ての残骸が

 お前の心臓の音となる夜に

 最も深い祈りの言葉を呟きなさい


生徒:

 他にはいったい何ですか


導師:

 お前が三度望むのならば――

 さあ


生徒:

 最後の望みは心臓のために――

 包帯の白い理由が知りたいならば

 心臓のなかの血液だけが

 直接教えてくれるという

 巻かれることで目を閉じていた

 でも今どこかに赤々と この血が流れていくならば

 巻くものでありたい


導師:

 それが心臓の原理だ

 同時にお前の体の全ての原理が

 光のなかで声を上げる

 手を伸ばす者を裏切らないこと

 なぜだ? と訊くか


生徒:

 手を差し伸べては裏切られてきた

 そんな過去の魂が 

 背負った重荷を捨て切れるでしょうか


導師:

 捨てなければならない


生徒:

 なぜに?


導師:

 このボロ雑巾め!

 お前の粗くなった繊維の間から

 どれだけの水が流れ落ちるという

 その水は誰のものだ?

 そしてどこから流れてくると?


生徒:

 恩恵から流れてきます

 そしてそれは 私のものです

 流れ落ちるものまで 私のものです


導師:

 であれば巻く者であれ

 お前という水が染み込んで

 そしてお前がいなくなるように


生徒:

 導師よ あなたは私です

 ですが恩恵から生まれる心臓は

 何によって出来上がったのでしょう


導師:

 はじめにことばがあった

 ことばは神とともにあった


導師・生徒:

 ことばは神であった

 この方は はじめに神とともにおられた

 すべてのものは この方によって作られた

 作られたもので この方によらぬものは何もない

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