夢か現実か
面白そうだから採用したのですが、コンテンダーの使い道に困る。
目覚めたのは、つい先程のことだ。しかし、場所はあのマネキンだらけの部屋では無く、ショッピングモールの中央にある、イベント事を行う広場であった。クリスはそこのベンチで寝かされていた。
全てが嘘のようだ。あの暗闇と赤黒い血に満ちた世界も、軋むような不快音も、化物も。
そうだ、夢だったんだ。ただの悪い夢を視ていたに決まっている。でなければ、あんな事が現実であっていい筈がない。
「君、ちょっといいか?」
不意に声をかけられ、クリスは体を起こした。声の主は、保安官の姿をした男性であった。
短く整った白髪に貫禄のある渋い顔立ちをした男性は、微笑を浮かべながら「私はサウス・レイノルド。隣町で保安官をしている」と渋く優しい声色で名乗った。
「あぁ、えっと……、私はクリス」
「君はこの町の住人では無さそうだね? 観光か何かか?」
「えぇ、友人が同窓会に参加するらしくて、ニューヨークから来た」
「こんなところで何をしている?」
その問いに、どう答えようか迷った。
まさか、化物に襲われた結果、気絶して気付いたらここで倒れていた、なんて言っても信じて貰えないだろう。かといって、そう都合よく言い訳なんて思い浮かばない。
どうしたものかと思っていると、不意に保安官の無線機から声が聞こえ始めた。
その声ははっきりと、『手と足を発見しました』と言っていた。
「分かった、直ぐ行く。――私は仕事で戻らないといけないが、君は一人で帰れるか?」
「大丈夫」
クリスが短くそう言うと、保安官は「そうか、気を付けるんだぞ」と言い残し、小走りで去って行った。
『手と足を発見』つまり手と足の無い胴体がある、ということだ。クリスはあの悪夢のような世界の中で、切断された手足を見付けたのを思い出した。もしかすると、それが見付かったのだろうか?
だとすれば、あれは夢では無かったということになる。あの怪物が、現実に存在していたということになる。
いや、考えすぎだ。たまたま、事件と悪夢が一致したに違いない。
「どうでもいい。もう帰ろう。ジェームズの元へ……」
クリスはポツリと呟き、ゆっくりと腰を浮かす。
アレが夢であったにしても現実であったにしても、まだ目標は果たされていない。生きてジェームズに会う。それが出来れば、後はどうでも良い。
クリスが立ち上がったその時、ガタッと何か固い物が落ちる音が背後でした。何事か、と振り返って見て、クリスは思わず悲鳴をあげそうになった。
先程まで横たわっていたベンチには、一挺の拳銃が落ちていた。トンプソンセンター・コンテンダー。それは紛れもなく、夢で見た物に違いなかった。
クリスは恐る恐る、その拳銃を手にとってみる。がっしりとした質感、間違いなく現実の感覚だ。
「夢じゃ無かった。あれは、現実だったのか?」
知らず知らず、声が震えていた。
認めたくない。しかし、認めるしか無い。手にとったコンテンダーを持て余しながら、混乱気味な己を制する事に努める。
アレは、あんなことが現実に起こり得てしまった。それは、このコンテンダーが如実に物語っていた。アレは全て、現実だった。
・調査記録
《サウス・レイノルド》
ヒューガタウンの隣町で保安官を勤める中年の男性。何故かヒューガタウンで捜査をしている。どうでもいいが、声が凄く渋くて響きがある。