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軋む音  作者: 梨乃 二朱
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軋む音

 RPG風に言うと、今回は最初のダンジョンです。なので、サクッとクリアさせるつもりでいます。


 拳銃や武器についてはあまり詳しく無いので、設定とは描写が異なる可能性があります。

 意見、アドバイスをいただけると助かります。

 通路を探索していると、事務室のような場所に辿り着いた。店員が居るとすれば、ここに違いない。

 クリスは申し訳程度の礼儀で、ドアを三回ノックする。返事は無かったが、それは予想の範疇だ。しかし、この音は何だろうか。


 声はしない。だが、ギシギシと蠢く音がする。骨が軋むような、木の板がしなる時に発するような妙な音だ。

 不信に思いながらも、恐る恐るドアを開け中へ入ろうとした瞬間、激しい頭痛がクリスを襲った。ガリガリ、ギリギリとまるで壊れたラジオが発するようなノイズ音が、頭蓋内を跳ね回っている。


「ァ――――ァ――ッ!」


 声にならぬ悲鳴を上げながら、痛みに耐えきれず崩れ落ちるように膝を着いた。すると、唐突にノイズは止み、頭痛も何事も無かったように消え去った。


「は……ぁ……。今のは、何……?」


 頭を大きく振りながら、ボヤけた視界を安定させる。その最中、銀色の鉄屑が床を滑って膝に当たって止まった。

 何だ、と徐にそれを手に取って見ると、セミオートマチックの拳銃であった。


 「何でこんな物が……?」拳銃が滑って来た先へ視線を巡らせると、そこにあったモノにクリスは思わず息をのみ、自分の正気を疑った。

 部屋の中央には、ガタガタと身体中を痙攣させながら、ギィギィ、ギシギシと音をたてるモノが立っていた。それは、黒い仮面に血の付着した黒い戦闘服を着た兵士の姿をしている。つい一、二時間前、夢で見た仮面の兵士にそっくりな姿をしている。違うところは、人間とは思えないというところだけだ。


「嘘だ、有り得ない……。こんなの、夢に決まってる……!」


 仮面の兵士は痙攣したまま、ゆっくりとこちらへ歩み寄って来る。手には銃ではなく、血で錆び付いたサバイバルナイフを持っている。

 クリスは、反射的に拾ったばかりの拳銃を構え、無我夢中にトリガーを引いた。二発か三発目の銃弾が兵士は床に倒れさせたが、それでも構わず、装填された銃弾が無くなるまでトリガーを引き続け、計七発の鉛弾が仮面の兵士の体を穿った。


「夢でしょ……? いつかは覚めるよね……?」


 兵士の体から大量の血が漏れ出し、灰色の床が赤黒く染まる。

 これは、あの悪夢の続きに決まっている。でなければ、三文映画じゃあるまいし、こんなこと有り得ない。夢から覚めれば、いつもの安アパートで、ジェームズが隣に居てくれている。痩せ形だけど筋肉質な二の腕に抱かれながら、彼の胸の中で目覚めるんだ。怖いことは何もない。恐れることも何もない。唯一、安心して居られる場所で、自分は目覚めるんだ。


「でも……いつになったら、覚めるの? 何で、これは消えないの?」


 クリスは、いつまでも残る仮面の兵士の死体を見ながら、震える声で何者かに問い掛ける。

 死体は何も言わず、しかしクリスを嘲笑うかのように、いつまでもそこにあり続けた。






 『M1911 コルト・ガバメント』のシルバーメタリックモデル。アメリカ合衆国の軍用大型自動拳銃だ。第一次世界大戦や第二次世界大戦で使用されていた物の、民間モデルらしい。

 保存状態が良く整備も滞りなく行われていたようなので、使用不能の事態に陥ることは先ず無いだろう。


 事務室のデスクの中から予備のマガジンと銃弾を見付けたクリスは、黙々と銃弾を込めて行く。

 拳銃に装填したマガジンに七発。予備マガジンを合わせて合計二十八発。少し心許ない数だ。贅沢を言えば、アサルトライフルかせめてサブマシンガンが欲しい。


 というのも、仮面の兵士を射殺した後、暫く気が動転して動けずに居たが、突然背後から骨の軋むような音が聞こえ振り返って見ると、クリスが来た通路が仮面の兵士で溢れかえっていたのだ。

 慌ててドアを閉め鍵をかけたが、幸いあの兵士にはドアを破るという思考は無かったようだ。ドアをガンガン叩いているが、一向に破られる気配は無い。予備の弾薬を探す時間があった程だ。


 ジェームズに電話をしようとしたが、何故か携帯は圏外で、事務室にあった固定電話は妙な雑音がするだけで使うことが出来なかった。

 クリスは、完全に孤立してしまった。ふと、シモンズの事が気になった。しかし、今はどうすることも出来ない。無事であることを願うと、直ぐに頭の隅に追いやった。


 ところで、死体となった仮面の兵士は動き出す様子は無かった。人間と同じく、撃たれれば死ぬようだ。それならば、対応が出来る。後は急所を見極めさえすれば、十二分に戦える。

 クリスは予備マガジンをポケットの中に突っ込み、拳銃を腰のズボンの間に挟むと、来た戸口とは別のドアから部屋を出た。


 ドアの向こうは通路になっていたが、非常灯の赤い光が灯る以外の照明は無く、昼間にも関わらず真夜中のように暗かった。

 クリスはウェストポーチの中を探り、手のひらサイズのライトを取り出し、明かりを点けるとクリップでジャケットの胸ポケットに引っ掛けた。


「ひっ!?」


 ライトが真っ暗な通路を照らし出した瞬間、クリスの眼前に、茶色いコートを着た少年が現れた。背丈はクリスより低く、年齢はおよそ十歳程だろう。

 少年は驚いて後退りするクリスを見て、にっこりと笑っていた。


「君、ここで何してるの……?」


 恐る恐る話し掛けてみると、少年は「お姉さん、鬼ごっこしよ!」と言い、無邪気な笑い声をあげながら通路を駆けていった。

 クリスは訝しく思いながらも、このままこんな不気味な場所に放置しておくわけにもいかないと思い立ち、「待ちなさい!」と大声を出しながら少年を追い掛けた。


 スタートのタイムラグがあったにしても、少年の足は驚くほど速かった。それに、クリスと違って少年は、懐中電灯どころか照明器具一つ持っていないにも関わらず、躓くことなく走り続けている。

 少年を追って、通路を右へ左へ下へと走って行くこと暫く、何度目かの角を曲がった瞬間、先程まで聞こえていた笑い声が、突如としてピッタリ止んでしまった。


 クリスが息を切らしながら通路を曲がると、その先は鉄格子で通路が塞がっていた。これで追い付いたと思ったが、しかし、少年はどうやったのか鉄格子の向こう側に立っていた。


「君、どう、やって?」


 息を切らすクリスとは対照的に、少年には疲れた様子一つ見られず、「後ろに居るよ、後ろ」と言うとまた通路を駆けていってしまった。

 クリスチーナは呼び止めようとしたが、息が上がってしまってそれは叶わなかった。「後ろって、何?」と疑問を声にした瞬間、直ぐ後ろであの骨の軋むようなギシギシという音が、鼓膜に突き刺さった。あの兵士が居る。


 クリスは慌てて拳銃を抜こうとしたが、鉄格子の近くに立て掛けてあった長さ一メートル程の鉄パイプが目に入った。こう近いと、こっちの方がろくに狙いをつけずに、奇襲が出来そうだ。弾薬の節約にもなる。

 そう判断したクリスは、拳銃のグリップを掴んでいた手を、素早く鉄パイプに伸ばし、先手を取ろうと勢いよく振り返り様に鉄パイプを振り回した。しかし、そこには何も無く、ブンッと鉄パイプは空を切った。


 依然として、耳障りな音は止まない。

 ふと、気付いた。この音は真後ろからというより、少し下の方から聞こえている気がすると。


 クリスはゆっくりと下を照してみると、そこには黒いカサカサと蠢く虫が居た。音はその虫が発しているようだった。その虫というのが、黒くゴキブリのような形をしているが、異様に大きく人の顔程の大きさはあった。そして、その口は人のそれと変わらぬ形をしており、犬歯のように鋭い歯が幾つも並んでいた。

 クリスの第一声は、「こんなの夢に無かった!」


 虫はその背中が割れ、えぐい赤々とした中身を晒し、半透明な羽をブゥゥンと震わせながら宙を舞った。

 そして真っ直ぐクリスに飛び掛かった。クリスは鉄パイプを力任せに振り、虫を叩き潰す。


「虫は苦手なの! ましてや、こんな虫の化物は!」


 叫びつつ、次々に叩き潰して行く。通常の虫より大きくとも、体は脆く簡単に潰れてくれた。

 五匹目を潰し終えた頃、もう骨の軋むような音は止んでいた。


「これで打ち止めよね?」


 一応、辺りを入念に照らす。どうやら、虫の姿は見当たらなかった。

 さて、これからどうするか。少年を追うにしても、鉄格子が邪魔してそれは出来ない。来た道を戻るにしても、走り回ったおかげで現在地が分からない。

 最悪の状況だ。孤立無援の上に、完全に迷ってしまった。


「兎に角、出口を探して外に出るべきだ」


 こんな暗い場所で考えていても、始まらない。明るい場所に出て、現在地が何処なのかを探らなければ。

 そう判断し、クリスは近くにドアを見付けるとドアノブを捻る。が、鍵がかかっていたので得意のピッキングで解錠し中へ入る。


 この際、外に出てジェームズの元へ戻ることを、当面の目標としよう。サブとして、シモンズと少年の安否を確認できればそれで良い。最悪、見捨ててしまえば良い。怪物に襲われていようと殺されていようと、こちらには関係の無いことだ。

 クリスは、そう自分に言い聞かせながら、真っ暗な通路を進んで行った。

・調査記録


《少年》

 不意に現れ、遊ぶように逃げ回っていた少年。途中、鉄格子の向こう側にどうやったか移動し、見失ってしまった。大人気ないが、この子供のせいで完全に迷ってしまった。


《仮面の兵士》

 悪夢で見た兵士にそっくりな化物。身体中が痙攣し、軋むような不快音を常に発している。武装はサバイバルナイフ。


《大きな虫》

 ゴキブリみたいな見た目のデカくて気持ち悪い虫。集団で行動しているようだ。何処からか軋むような不快音を発している事から、仮面の兵士と同類になるのかも知れない。殺虫剤は効くのだろうか?


《ライト》

 クリップで衣服に引っ掛けられる手のひらサイズのライト。暗い場所では、これが唯一の頼り。一目惚れで衝動買いした。


《M1911コルト・ガバメント》

 シルバーメタリックのアメリカ合衆国軍用大型ピストル。第一次世界大戦や第二次世界大戦等の戦争で、アメリカ軍で正式採用されていたピストルの民間モデル。

 七発装填可能。.45ACP弾を使用。

 シングルアクションの為、撃つ度に撃鉄を手動で上げなければならない。が、速射は何とか出来そうだ。


《鉄パイプ》

 偶然拾った長さ一メートル程の鉄製パイプ。一撃の威力は低いが扱いやすく、弾の節約にもなる。後に気付いたのだが、パイプの端に血糊がベッタリ付着していた。まさか、ね……?

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