山道越えて
本当は銃撃戦満載、がっつり異世界ものにしたかったのですが、飽きそうなので急遽路線を変更しました。
一話目は、その名残です。ちゃんと本編には関係してますよ(^-^;
ホラーミステリー、か。ホラーは苦手で映画すらまともに見れません……。
何でこうなったかは、色々としょうもない事情があるんですよ、はい……。
黒いスーツ姿のジェームズ・クーガに対し、クリスはオレンジのノースリーブに白いジャケット、チノパンというラフな出で立ちである。
癖のあるショートの金髪に疲れたような隻眼をし、化粧気一つ無いクリスは、お洒落に疎いが着たい服以外は着ないという心情があった。
今日はジェームズのハイスクール時代の同窓会で、成り行き全く関係の無いクリスも参加することになったのだが、綺麗にめかし込むつもりは毛頭なかった。それに対して、ジェームズは特に何も言わなかったが、内心では呆れているかも知れない。
事実、先日コジャレたドレスを勧められた。趣味は良かったが、やはり着たいとは思わなかった。自分には、こういったラフな格好の方がお似合いだと思うし、何より気取りが無くて楽だ。けど、彼の気持ちを無下にしてしまっただろうか……。
「この山道を抜ければ、ヒューガタウンに着く。長かったな」
「うん」
ヒューガタウンは、ジェームズの生まれ故郷だ。周囲を山と海に囲まれているおかげで、外の町とは隔絶されているらしく、数年前から半ゴーストタウンと化していると聞いていた。しかし、それは単に土地関係に由来したものだけでは無いらしく、ジェームズも何か訳ありで町を出た口らしい。
同窓会の通知が来たときも、「あんな町に戻ることになるとは……」と誰かと電話で話しているのを聞いた。
何があったのかを聞いても、「言葉では、ちょっとな……」と言われ、それから話をはぐらかされてしまう。気になって仕方がないが、居候させて貰っている身である以上、あまり踏み込んで聞く事は出来ない。
言い忘れていたが、クリスは訳あってジェームズ宅に居候している。それについては今語るべく事でも無いが、彼が居なければ今頃、生きている理由は尽きてしまっていただろう。
「はぁ……」
ジェームズが浅く溜め息を漏らした。数え出したのは途中からだが、既に十八回目だ。その前からも、何回も溜め息を漏らしていたから、実質は二十回は軽く越えているだろう。
「行きたくなければ、行かなきゃいいのに。仕事も、無理言って休んだでしょ?」
「ん? いや、まぁ……。行かなきゃならないことも無いんだが、行かなきゃならない気もしてさ。昔の友人も、皆参加するらしいし」
「でも、嫌な思い出があるんでしょ?」
「うん、まぁね。だから、君を連れて来たんだよ」
「え?」
「君となら、何処に行っても楽しいからね」
そう言うと、ジェームズはにっこりと笑いかけた。クリスは言葉を無くし、慌てて外へ目のやり場を求めた。
最近気付いたのだが、嬉しい事があると顔が熱くなる。今も、顔がテールランプみたく真っ赤かも知れない。
こんな気持ちも感覚も、彼と出会わなければ気付けなかったろう。小っ恥ずかしく、温かく気持ちいい。幸せとは、こんな感覚なのかも知れない。
「ま、曰く付きであれ、故郷は故郷だ。いつまでも目を背けちゃいられないしな。家族も居るし」
「……ねぇ、そろそろ教えてくれない? ヒューガタウンで何があったの?」
思い切って再度問い掛けてみたが、やはり「何というかな……」と言うだけで、やはり答えてくれそうになかった。
「悪夢が蔓延る町なんだよ……」
「え?」
ジェームズは唐突に呟くように言うと、それきり押し黙ってしまった。
車は山道を黙々と突き進み、ついに視界が開けた。舗装された道路の両脇を木々が立ち並び、曇天でただでさえ薄暗いというのに、一層増して暗く不気味な道のりだった。
山道を下った先に見えるのは、人の気配のしない町だった。あれが、ジェームズの故郷、ヒューガタウンだ。人の気配が無いと言えど、ショッピングモールや大きなアトラクションの跡地らしき広い敷地が見え、町の向こうには大海原が広がり、海岸沿いには一際目立つ灯台が聳え立っていた。昔は観光客で賑わった時期もあったのだろうと、クリスはもの寂しげに溜め息を漏らした。
「来ちまったな……」ジェームズは哀しげに、小さく呟いた。
・調査記録
《ヒューガタウン》
周囲を山と海で囲まれ、隣町とほぼ隔絶された町。ヒューガタウンと隣町を繋ぐ道は、唯一の山道か空路のみのようだ。
ジェームズ曰く、現在は半場ゴーストタウンと化しているらしい。町にはショッピングモールや観光目的の施設があるようで、過去には賑わっていたのかも知れない。
ジェームズは何故か、この町を嫌っている。何か悪い思い出があるのだろうか?