6話 言葉が分かりません?
俺たちの寄付した30億円相当・・・・つまりプラチナ金貨300枚。
これを、以降『例の俺たちが勝手に使っちゃいけなかった金貨』と呼ぶ。『あの金』『例の金貨』でもなんでも良い。
とにかく、『あの金』の問題が宙に浮いたままだった。
なのに "さらなる問題" が発覚して『あの金』の事はどこかに飛んで行った。
まさか、ロケットブースター付きだったとはな。重さを感じない飛びっぷりだ。
あの時持った金貨の入った革袋の重さは、現実のものだったのにな。
で、さらなる問題 というのが―――
「エルフである事を隠すために、リサが阻害魔法を使ったのは分かった」
聞くところによると、この世界の人間とエルフはうまくいっていないらしい。
とりあえず事情が分かるまで、シルフィがエルフである事は父にはしばらく黙っておいた方がいいかもと、認識阻害の魔法をかけたらしい。
この魔法は対象の一部を正しく認識させない効果があるとか・・・すごいな。
「言葉も分からん相手に、魔法をかけた事は後で話をする必要があるが―――」
「ごめんなさい、シルフィ・・・」
父親に叱られ、素直に謝る娘。どこにでもいるような親子の姿だった。
ユハニ卿は食事の手を止め、話を続ける。
「まず、なぜリュウジ殿はエルフ語を理解している?そういった人間を私は中央のごく一部でしか見たことも聞いたことが無い」
「シルフィ殿がミッド語を理解しているようには思えないが」
いや、待ってくれ。俺はみんなが日本語を喋っているようにしか聞こえないんだが。
一体なんだ、ミッド語とかエルフ語って。
いや、待てよ・・・よく考えてみれば、この食卓に着いた時から気になる点はあった。
特にこの二人を見ていればだ。
――会話をしているようで、互いの名前を呼ぶだけのシルフィとリサ。
――シルフィの「何の話してるの?」という、一見アホに見える質問。
ある程度考えを巡らせてから、俺は一つの仮説というよりも当たり前の答えにたどり着いた。
――俺以外に、言語の壁がある・・・?
俺はシルフィやここの人たちと、普通に会話出来ていたから一つも疑問に思わなかった。
俺は一つ試すことにした。
今の状況がすぐに分かる子供にでも分かる質問、その問いに対してどう反応するかだ。
それを、場の全員に聞いてみた。
「えっと、皆さん・・・・メイドさん達も、せーので右手を挙げてみてください」
せーのと言うと、同時にその場の全員の右手があがる。
ユハニ卿とリサやメイド達。そしてシルフィの手も上がっていた。
「次は左手を・・・せーの」
全員の両手が上がっている。
俺はまず、状況をまだ呑み込めていないであろう、シルフィに確認しなければいけない事があった。
「あー・・・まず。そもそもなんだが」
「シルフィ・・・なぜ人間の言葉が分からないと言わなかった?」
「え・・・聞かれてなかったし、リュウジがエルフ語喋るから疑問に思わなかったよ」
「でも、おまえは街中で人と喋っていただろう」
「あれは全部リュウジが通訳してくれてたよ?てっきり、耳が短いエルフ族だと思ってた」
思い返せば、そうだったかもしれん。あと、俺はエルフじゃないぞシルフィ。
なるほど、怯えていたのは人間に不慣れだからだとばかり思っていたが、言語が分からなかったという部分もあったのか。
俺と普通に話しているから、まったく気が付かなかった。
こいつもそんな素振りは一つもださなかった・・・いや、俺が全く気にかけていなかったという事もあるが・・・。
だが、問題はもっと別にある。
「・・・なぜ、"たったの一言"でシルフィ殿も手を挙げたのだ?喉が二つあるわけでもあるまい」
「シルフィ殿はミッド語が分からないという話だろう?」
「ミッド語に対してシルフィ殿がエルフ語で答えている理由まったく理解できん・・・」
そう、まさしくそれだ。ユハニ卿の指摘した通りの疑問が俺にもある。
俺が話した "らしい" ミッド語というのは、この人間世界での標準言語のひとつらしい。
なのにミッド語をしらないシルフィは手を挙げていた。
だが、いま俺が思っている事の方が、その方がもっとも噛み合わない話なんだ。
(ミッド語だとかエルフ語なんて言っているが、俺が話していたのはずっと日本語だぞ・・・?)
なのに、理屈は分からんが他言語を話すみんなに届いているし、理解されている。
逆も同じで、俺に聞こえくるのは全て日本語だ。
街中の看板や文字は日本語にしか見えなかった・・・転生者特典をもらったり、神様的な存在とは会った記憶はないぞ。もしそうなら取扱説明書をよこしてくれ、同梱不備だ。
それに今まで忘れかけていたが、俺はなぜか知らんが異世界に居るという問題もあるんだったな。
めんどうな事を思い出してしまった。
「言葉・・・言語が同時に翻訳されている――?としか・・・」
「言っている自分でも信じられないですが・・・」
「翻訳をする魔法なんて聞いたことが無い。言語自体は魔法でどうこう出来るものじゃない」
「・・・」
「・・・」
追記とばかりに、ユハニ卿が付け加えてきた事で謎は深まった。
魔法じゃなかったら、なんなんだこの能力は。
すこしの沈黙が食卓を流れ、シルフィは心配そうに俺の様子を伺っていた。
「すっごいじゃん!それって、色んな人とお話できるって事でしょ?」
「でさ、早速そのすごい力を貸して欲しいの!ほら、シルフィとたくさんお話したいじゃない?だから通訳してほしいんだけど・・・これまでの事、沢山聞きたいの。こんな機会滅多にないし」
「せっかくお友達になったんだし、ねっ」
「だから難しい話は後で良くない?ほらスープ、冷めちゃうよ」
「それに、私。冒険者になりたくって・・・憧れてるの!」
「幻の美少女エルフの聖母シルフィと、仏頂面の従者リュウジの冒険譚を聞きたい!」
少し暗くなった気がする食卓に灯をともすかのように、あっけらかんに言い放つリサ。
悪かったな、感情に乏しくて。
まぁ、冒険話の事なら・・・俺もシルフィの事をもっと知りたいと思っている。なんせエルフだからな、年季が違うだろう。
俺の冒険話はたったの10日足らずだ、吹いたら飛ぶぞ。
とりあえず、聖母だとか従者ではない。と釘を刺し、ユハニ卿には今は話せないが大きな事情が有るため、王都に行ってしまった上奏文のほかにこの報告は控えて欲しいと頼んだら、とりあえずは快諾してくれた。
ここに来て新たな問題か・・・異世界ってのは悩みが尽きないな。
この謎の力については、俺が一番知りたいと思う。
それに俺が書く文字は皆にどう見えるのか確認したいし、色々と検証する必要がありそうだ。
だがリサの言う通り、今は食事に集中する事にした。
腹が減っていては頭も回らないし、俺とシルフィにとっては久しぶりでせっかくの暖かい食事だしな。
今、持つべきはペンではなくスプーンだろう。
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