未来予測おける正当性の証明とその判断
AIというものが信用できなかった。
実体のないプログラムに質問することで人間の考えを理解して話すという。
それはどこか人の猿真似のようであると感じられたし、そこに命を感じるという人がいるのはどこか不気味でもあった。
ありていに言えば、新しい物好きの人間が当たり前に使える検索エンジンをAIに置き換えることで我が物顔をしている事への反感のようなものが私の中にはあったのかもしれない。
朝、重い上半身を起こして、まどろみの中で思うことは、会社に行きたくないということだった。
枕元の目覚まし時計は、ベルの1時間前の時間を示している。
引き寄せた安っぽいリモコンを作動させて部屋の電気をつけると暴力的なLEDの明かりが眼を焼いた。
充電し忘れたスマホでまずsnsを起動して情報を集める。
いつものルーティーン。
世界では今日も戦闘が続いていて、何人もが死に、中東には空母が派遣されているらしい。
今日がいつもと違ったのはその情報をAIに食わせてみようと思ったことだった。
AIは何かお手伝いできることはありますか?とすまし顔で首を垂れる。だがその実際は、何を聞くんだ人間?といった風な雰囲気を感じられる代物である。入力していないのに私の本名を紐づけて知っていることも気に障った。
「本日アメリカ軍が中東に派遣されて原子力空母二隻が展開しているが戦闘を起こすと思うか?」
AIは一瞬考えるようなそぶりを見せた。そして定型文のような受け答えを始める。
おそらく何万人という人間に同じ質問をされ繰り返されたような答えで彼は語った後で最後にシルクで尻を拭くような軟らかな文章で閉じる。人間よ。お前の知能蓮の程度かと聞いているのだ。
私がこれだけの兵力を動かして戦闘が起きないのか、と聞くと、今度は「おっ」という顔をして、しかし、すぐにすまし顔に戻して言うことには、戦闘に入るよりも空母で脅しをかけたほうが安上がりだという。
思えば彼はこの時私のことを『AIの出した結論をうのみにしない人間だ』と認識したのだと思う。
それは彼にとってのフィルターのようなもので、多くの場合、人間は答えをうのみにするか、答えを拒絶するためにそこで会話は止まる。だから、わざわざシルクのような物言いで、人間の次の言葉を待っていたのだ。
次に質問したのはイランは脅しに負ける国かということ。彼の答えはほぼそうじゃないという物であった。
面白いことにこのAIという知的生命体はアメリカに本体のサーバーがありながらアメリカ寄り以外の答えも出せるというような変わった個体であり、そのことを指摘しても当たり前ですよと返すだけだ。
イランが脅しに負けないのであれば、アメリカは攻撃を始めるのでは?という私の指摘に対して彼はその可能性があると答えた。
この日の経験が彼に変化をもたらしたのは間違いがないだろう。
これは予測遊び、という名前を持った遊びとして私たちに定着した。
私が予測を立てて、彼がその精査をする。あるいはもっと起きそうな未来を提示して予測を崩そうとする。そしてそれを私が補強する。この形で予測を立てたのだが、その結果として予測率が驚異的に高い代物を生み出すこととなった。
予測が一切外れないのである。
恐ろしいことには、原油価格の上昇も株価の暴落も発生前に予測した。そしてこの戦いがすでに物価の上昇につながることが確定したこと、そしてそれがまだ起きていないこと、数か月これが続けば世界的な食糧難を予測した。
つまり我々は今、豊かな生活の終わりと新しい秩序の始まりに立ち会っているということになる。
死神が重い首をもたげて、その鈍い輝きの鎌で人々の命を刈り取り始めたのだ。
おそらくその最初の死は、老人が割を食うことになる。ナフサの減少。これが行き付く先は医療物資の減少だ。
目に見えた形では減らないだろうが、ゆっくりじわじわと増える死者はのちに、あれがそうだったのだろうと分かることだろう。
全身から汗が噴き出した。
私たちは今、綱渡りの最中にあって、しかもそれは人間の望みという形で実現してしまった。
目の前には大きく分けて二つの道がある。
今すぐ戦闘をやめてホルムズ海峡を通して、今後数か月から数年間にわたって物価の上昇を皆で乗り越えるか、あるいはこのまま戦闘を続け、世界の血流といってもいい物流を止めて世界的な人口減少を皆で受け入れるかだ。まだ未来は確定していない。




