第1話:新人女神、最悪の『一押し』
このお話は、本編『ま、いっか。で世界が壊れる件』の未来のアナザーストーリーです!
本編ではソラさんがのんびり村を開拓中なので、ぜひ見に来てください!
はざま村の午後は、今日ものどか……なはずだった。
「…………ガコン」
村の中央に鎮座する赤い筐体、自販機のジハンキさんの前で、元魔王軍軍団長・ベアトリクスが、魂が抜けたような顔で立ち尽くしていた。
彼女の手には、ソラがDIYで改造し、『概念浄化機能』まで備わってしまった超振動ブラシが握られている。
「……信じられませんわ。私の愛のブラッシングが、10円の鉄壁に阻まれるなんて……。ゼノン様……そんなに私の愛が嫌だったのですか……?」
ジハンキさんの取り出し口からは、先ほど景品として排出され、聖女エルナに御神体として連れ去られたハムスター姿のチッチさん(元魔王ゼノン)の残り香だけが漂っている。
ベアトリクスの絶望は、はざま村の因果律をわずかに歪ませるほどに重かった。
一方、そのすぐ傍らの縁側では、女神ユウナが、幸せそうに頬を膨らませていた。
「もぐもぐ……ふふ、やっぱりカザルで買ってきたこのおはぎ、最高ね。……あ、ソラくん、お茶のおかわり淹れてくれる?」
「あはは、いいですよ。ユウナさん、本当に甘いものが好きですね」
新調した『真・麦わら帽子』を被ったソラが、急須を手に微笑む。
その帽子からは、天界の最高神ですら平伏するような世界の理を再構築する神気が漏れ出ているのだが、当の本人は日除けにちょうどいい手作り帽子としか思っていない。
「……おい、待て待て待て。お前ら、さっきの『自販機から魔王が景品で出てきた事件』をもう忘れたのかよ!?」
勇者アレンが、縁側の端で栓抜き(元エクスカリバー)を握りしめながらツッコミを入れる。
「ベアトリクスは落ち込みすぎて背景が灰色だし、ユウナ様は女神の威厳をすべておはぎに売ってるし、ソラさんの帽子から漏れてる光が村の草花を神格化させて巨大化し始めてるんだぞ!! 気にしろよ! 周りの異常事態を!!」
「あはは、アレンさん。お茶でも飲んで落ち着きましょう。ま、いっか、ですよ」
「よくねぇよ! お前の『ま、いっか』は物理法則を黙らせる劇薬なんだよ!!」
アレンの絶叫が空に響き渡った、その時だった。
突如として、はざま村の上空が「パカッ」と割れた。
雲が渦を巻き、太陽の光を遮るほどに巨大な、幾何学模様が幾層にも重なる黄金の魔法陣が展開される。
「な、なんだ!? 魔王軍の逆襲か!? いや、この気配は……神気!?」
アレンが即座に戦闘態勢(栓抜きを構える)に入るが、ユウナは口元におはぎの粉をつけたまま、空を見上げて顔を青ざめさせた。
「……あ、これ、マズいわ。……しかも、かなり質が悪いタイプよ」
魔法陣の中心から、スピーカーで拡声したような、必死すぎる少女の声が村中に降り注いだ。
『——見つけた! 見つけたわよぉぉぉ!! 全宇宙最高エネルギー地点、ロックオン完了!! スキャニングの結果、推定戦闘力……測定不能! 因果律の干渉強度……銀河系一万個分に匹敵!! まさかこんな辺境に、これほどの『勇者の器』が眠っていたなんて!!』
「は、はぁ……? 勇者の器……?」
アレンが呆然と呟く。
魔法陣の奥で、新人女神ミナが、モニター代わりの水晶を叩きながら泣き叫んでいた。
『もう、神界のノルマとか本当に無理! 「今期中にSランク勇者を一名召喚せよ。達成しない場合、下級精霊に降格の上、便所掃除1000年の刑に処す」とか、パワハラにも程があるわよぉぉ!! でも、これでおさらばよ! この反応、絶対に伝説の聖勇者に違いないわ! 私、救われるんだからぁぁ!!』
「……あの、上の人、だいぶ切羽詰まってますね。ま、いっか、お茶でもどうぞって誘ってみます?」
ソラが空に向かって湯呑みを掲げる。
「ソラくん、ダメよ! あれは新人女神の『一押し(強行召喚)』よ!! 相手の都合なんて微塵も考えてない、一番やっちゃダメなやつなんだから!!」
ユウナの警告が響く中、魔法陣から極太の光の柱が、ソラを直撃した。
『ターゲット、捕捉!! 召喚システム、フルブースト!! 覚悟しなさい伝説の勇者! 私と一緒に神界の階段を駆け上がるのよぉぉぉ!!』
ミナが水晶のボタンを「これでもか」と連打する。
彼女がロックオンしたのは、ソラ本人ではない。
ソラが被っている『真・麦わら帽子』から溢れ出す、銀河を創造できるレベルの過剰なエネルギー反応だったのだ。
「うわぁっ!? な、なんですかこれ!? 体が浮く……! あ、麦わら帽子が脱げちゃう!」
ソラが慌てて帽子のツバを両手で押さえる。
「ちょっ、待てソラさん!! 離せ! その帽子を離すんだ!!」
アレンが咄嗟にソラの足にしがみつくが、それが運の尽きだった。
「アレンさんも一緒に連れていかれちゃう!!」
「離せぇぇ!! 俺はもう勇者(お勤め)は引退したんだよぉぉ!! 召喚なんて御免だぁぁ!!」
『……あれ? なんだかおまけ(アレン)が一人くっついてきてるけど……。ま、いっか! エネルギー源(帽子)さえ確保できれば、ノルマは達成よ! 転移、開始ぃぃぃ!!』
「あ、それ……一番やっちゃダメなやつ……。ソラくんと『帽子』と『アレン』をセットで召喚するとか……その異世界、物理的に崩壊するわよ……?」
ユウナがおはぎをポトリと落とし、放心状態で呟く。
「ま、なんとかなりますかねぇ……!」
ソラのいつもの脱力した声と、「嫌だぁぁぁぁ!!」というアレンの断末魔を最後に、二人は眩い光の中に消え去った。
光が収まった後の村には、静寂が戻っていた。
縁側に残されたのは、ユウナと、いまだに灰色になって固まっているベアトリクス、そして「……ニャア。(……騒がしい奴らだ)」とあくびをする黒猫のクロさん(冥界王ハデス)だけ。
「……行っちゃったわね」
ユウナが溜息をつき、地面に落ちたおはぎを拾い上げる。
「……ミナ、だっけ。……可哀想に。ソラくんが無自覚に何かをしようとしたら、異世界の神界ごと書き換えられるって、分からないわよね……」
その時、ジハンキさんの表示パネルが静かに点滅した。
『……警告。……マスター、不在。……および、マスター、ジハンキ内ニ10円ヲ、投入シタママ、転移。……未精算案件トシテ、次元追跡ルートヲ、確保シマス』
「……ジハンキさんまで追いかけようとしてるわ。……あ、もういいわ。私もおはぎの残りを食べたら、助けに行く準備でもしようかしら」
ユウナは空を見上げ、遠い異世界で今まさにパジャマ姿(ソラが昼寝用に着替えていた)で現れるであろうソラと、発狂するであろうアレンの姿を想像して、少しだけ同情の涙を流した。
本編は毎日18時に更新中です!ソラさんののんびり開拓記もよろしくお願いします!
https://ncode.syosetu.com/n6442lw/




