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第9話・不可視の悪魔

 


 ゴブリンキングを倒した後、ひとまず僕たちは酔ったアフェが来るまで彼女のパーティーの遺品をかき集めていた。


「……そう言えば、名前。なんて言うんですか?」


 とにかく無言だと気が滅入ると思った僕は彼女と仲を深めようと話を切り出す。


「わ、私はイージスって言います。パーティーの盾役をやっていました」

「僕はアポロ。魔術師で……だよ」


 うっかり丁寧な口調で話そうとしてしまった。


 丁寧なのは良いが、時には壁を作ってしまうこともある。

 僕が打ち解けようとしているのだから、こちらから歩み寄るべきだろう。


「魔術師さん!?魔法は使っていましたけど、どちらかと言えば剣士なのかと思ってました」

「ま、まあよく言われるよ。魔物相手なら剣を振るってる方が手っ取り早いんだよね」


 それを言うなら僕は魔法ではなく、魔術を使っていたのだがここで突っ込むのも野暮と言う物だ。


「そうなんですね……いいなあ」

「え?」

「あ、すみません。実は私、盾しか使えないんです」

「盾しか使えない?」


 確かによく見たら彼女は大盾以外に武器らしいものは見当たらない。

 大盾に特別な刻印でも刻まれていない限り攻撃には使えないだろうし、不用心としか言えない。


「はい。私、騎士の家の生まれで幼いころから訓練をしているんですけど……不器用で、盾以外使えなかったんです」

「へ、へぇ……」


 どちらかと言えば、不器用なら剣より盾の方が使いにくいと思うのだが

 正直、僕も扱えるもんなら盾も持ちたいが下手だったので結局剣一本で近接は戦うことになっている。


(盾しか使えない。そう言う遺伝なのか?聞いたことないけど……)


 まあ、世界で起こることでわかることの方が少ないし、盾しか使えないってこともないこともないのだろう。


 そうこうしている内に遺品を集め終えマジックバックにしまう。


「ありがとうございます。アポロさん。手伝ってくれて」

「気にしないで、僕がやりたくてやってるんだから。それに、さっさと帰って眠らせてあげよう」

「あ、アポロ。終わった!?」


 その瞬間、酔いが醒めた彼女が扉を開けて現れる。

 そして、少し髪をなびかせながらこちらに走って来て立ち止まる。


「うん。ばっち……」


 その時、確かに見た。


(魔力も敵の気配も感じない。僕の五感は異常なしと判断している……)


 顔を動かしてもなく、風もないのにたなびく彼女の髪を――

 それを確認してから判断し、行動に移すまでの時間は瞬きするよりも早い極限の刹那だった。


「屈めぇッ!!」

「うん!」


 必死の形相の僕の指示を彼女は迷いなく受け入れ、その場で屈む。

 その直後、何の物音もしなかったが確かに彼女の頭の髪のてっぺんが横になびいた。


「そこかっ!」


 何も見えないが、何かいることはわかった。

 それだけで、僕が聖剣をぶん投げるには十分な理由だった。


 すると、投擲された聖剣は空中でほんの一瞬だけ制止し何か切った音を立てて扉に突き刺さった。


「ちぃっ!!」

「誰だ!」


 そう呼んで本当に現れるとは思ってなかったが、そいつは姿を現した。

 特徴的な黒い山羊のような角、筋骨隆々の体、そして風もないのにたなびく赤マント


 そして、聖剣によって切られて無くなった片腕


「悪魔か。それも、かなり上位の」

「その通りだ。人間よ。97点くれてやる」


 こちらと意思疎通できるだけの知能はある。

 その上、片腕が切り落とされているというのにあの余裕そうな笑み、虚勢の可能性もあるが魔力の量は明らかにあっちが上だ。


「97点ね……100点じゃないのか」

「我は人間を測る時、97点を満点としてつけている。何故かわかるか?」

「……さあ?」


 馬鹿正直に考えてみてもわからない。

 と言うか97点ってなんか妙に切りが悪いし、というか2でも3でも割り切れない数だ。


「100以下で最大の素数だ。お前ら人間は常に争い続ける生物故、採点する上でこれ以上の数はないと思わないか?」

「1人になるまで争い続けるって言いたいってわけね」


 悪趣味と言うか、流石悪魔と賞賛すべきか

 十中八九、あのゴブリンキングは奴の仕業と見て間違いない。


「我が名は上位悪魔(アークデーモン)のフォラス。現在はこの迷宮の主をやっている」

「ありえない!ここは、既に踏破された迷宮で出てくる主もゴブリンキングのはずです」


 彼女の言う通り、僕も既に踏破されているしゴブリン迷宮だと聞いている。

 それに、悪魔が迷宮の主だという話は聞いたことが無い。


(自称か。いや、そもそも上位悪魔ってことは契約者がいるな。それが、命令したと考えるべきか)


 悪魔は本来僕たちとは別の世界に存在していると言われている。


 それを呼び出すには従来の魔法や魔術とはまた違う方法が必要になるのだが、大体は人間の願いを叶えてその代償として命や魂を奪っていく。


「それで、アフェに攻撃した報いを味わう用意はいいか?」

「笑止。今だに骨董品のような魔術しか扱えない貴様に足元を掬われるほど堕ちてはおらん」


 どうやら、ゴブリンキングとの戦いをしっかり見ていたらしい。

 口では舐めているが、目は全くこちらを侮っていない。


(強いな)


 僕は、ここで相手を睨みつけながら手招きでアフェを呼び寄せながらイージスの所まで移動する。


「二人とも。その場で、じっとしておいてイージスさんはいつでも守れるように準備して」

「あ、あたしは?」

「大丈夫、アフェ。あれは僕が倒す」


 聖剣は投げてしまったので手元にはない。

 取りに行こうとすれば奴は確実に妨害してくるだろう。


 おそらく、二人を襲って


「ちなみに、お前の契約者が誰か教えるのであれば見逃してやるよ」

「悪魔がそれを言うと思うのか?」

「そうだよな。知ってるよ。一応、聞いただけだ」


 悪魔は真実を語らないし、人を騙すことも多いが契約に対しては誰よりも誠実だ。

 決して裏切るなんてことはせず、代償を払えばなんだって命を懸けてやってくれる。


 そして、やり方は大抵狡い。


「ふふっ、お前の言う通り人間は争いを辞められない。だけどさ、お前はその力で今から捻りつぶされるんだぞ」

「鼻で笑うか……いいだろう、その代償を払うがいい!!『不可視の悪知恵(ザ・トランスパレント)』」


 魔法の名を呼ぶと同時に奴の体に刻まれた刻印に魔力が通る。


 一瞬、魔力が奴の体に纏わりついたかと思えば足先から透明へと変わり気配も消える。

 そして、見えているのは悪魔がいたはずの場所の向こう側の門であった。


(予想通り透明化の魔法か。触れた聖剣が透明化していないから、範囲は自分自身と身に着けているものってところか)

「はははっ、先ほどの軽口を謝るのであれば楽に逝かせてやろう」

「勝利宣言が早すぎるんじゃないか。どうやら、片腕切られた学びを生かせていないみたいだ」

「その減らず口。石ころでも詰めて潰してやる」


 奴の声が聞こえるが、反響して声がどこから聞こえたのかわからない。

 おそらく、魔法効果に姿だけでなく声にも認識阻害する効果が入っているんだろう。


 それどころか、透明化中でもおぼろげに感じられた殺気も完全に消えた。

 煽れば出してくると思ったが予想以上にクレバーなようだ。


(流石、上位悪魔ってところか。でも、穴も見つけた)

「あ、あのアポロさん。大丈夫ですか?」

「大丈夫よ。アポロはSランク冒険者で、最強の第一世代魔術師なんだから!」


 盾の裏から顔を出す彼女に心配させまいと何か言おうと思ったが代わりにアフェが応えてくれた。

 実際、こんな状況でも僕は微塵も動揺していない。


 そして、右、左、上、下と視線を泳がせる。


「無駄無駄。我を捉えるなど雲を掴むが同義と思え!」

「じゃあ、風は掴ませてもらおうかな『”風”よ。我が身体の中心から横15m、高さ10m、縦15mに吹き続けろ』」


 今のは、別に奴を探そうとしたわけじゃない。

 この部屋が大雑把にどれくらいの大きさなのか確認しただけだ。


 すると、詠唱が成立し部屋全体にそっと頬を撫でる程度の風が吹く。


(その程度の風で何が出来る。たとえ、貴様が強力な魔術を使おうとも口に出す必要がある攻撃なんぞ軽く避けて見せよう)


 フォラスの考えの通り、アポロの魔術はどこに放たれるか非常にわかりやすい。


 そして、彼が強力な魔術を部屋全体に向けて発動することはできない。

 何故なら、今の風はほとんど魔力が籠っていないがゆえに成立しているからだ。



 だが、それで油断するほど彼は安易な存在ではなかった。


(いや、待て。そうか、これは罠!部屋を風で満たし、我の位置を探ろうとしたのか!)


 アポロの狙いを察した彼は、自身の魔力を周囲に放出し固める。

 その姿はフォラスと似ても似つかないが、形は全く同じ


 それこそ、姿が見えなくなれば見分けはつかないほどだった。


「お前の考えは読めたぞ!!『影すら追えぬ悪知恵(ザ・トランスパレント)』」


 その詠唱と共に生まれた分身たちも全て透明化された。


(これで風によって我の位置を探るのは不可能。透明化する対象は肉体ではなく魔力なのだよ!)


 風で感じ取ろうとしても全て同じ大きさでどれが本物かわからない。



 ゆえに、対抗手段はない。



 そう判断したフォラスはアポロに迫る。

 だが、アポロは首はそのまま眼球だけが奴を覗き込んだ。


「そこか」

「なっ」


 その瞬間、僕は身を翻し悪魔がいるであろう場所に向かって鉄拳を振りぬいた。

 どうやら魔法はダメージによって解除されるらしい。


 魔法が解けると、僕の鉄拳は奴の顔面を打ち抜いていた。


「な、なぜわかった。我の場所が……分身も放っていたはずだというのに!!」

「使っただろ。風を出現させる魔術をな」

「風を出現?吹かせる魔術では……ッ、まさか!!」


 どうやら、相手も気づいたらしい。

 僕が、使用した風の魔術は『風を吹かせる魔術』だけではなく『風を出現させる魔術』でもあった。


「人間であれ悪魔であれ魔法使いは抵抗力を持つ。当然、この部屋で風を満たすように生み出し続ければ必ず出ないところが出る」

「だが、そんなことをすれば膨大な魔力が!……いや、だから弱い風だったのか」


 その通り、確かにこいつが魔力の塊を用いて攪乱するのは間違いじゃない。

 問題はこちらは最初から風で探ろうとは思わず、魔術が発動するかしないかで判断しようとしていたのだ。


 それに加えて、風は間違いなく吹くため異常に悪魔は気づけない。


「それにしても、悪魔はやっぱり堅いね。殺すつもりで顔面を打ったのにまだ喋れるのか」

「っ!『不可視の悪(ザ・トランスパ)』」

「黙れ」

「がッぐぅッグ!!」


 だが、ここまで僕の間合いに入ってくればもう関係が無い。

 奴にこれ以上何かされる前に太い首を身体強化を使い全力の万力で締め付ける。


 喉を潰されれば奴の魔法が成立することはないだろう。


「相手が悪かったね」


 そのまま、聖剣が刺さった門の方まで行き剣を抜く。


 こいつは間違いなく強い悪魔だった。

 肉体的にも、魔法的にも、奇襲においてこいつ以上にうまく殺れる奴はいなかっただろう。


 正面から戦ったとしても肉体は戦士のように強靭だ、普通なら苦戦を強いられていた。


 それもこれも、相手が僕じゃなければの話だが


「やめ、やめろぉ!!」


 奴は最期に掠れた断末魔を最後上げるが一切の容赦なく悪魔の心臓を突き刺した。

 そして、彼の体は他の魔物と同様に消え去って行った。


「さようなら」


 その時、イージスさんの盾の影から恐る恐るアフェが現れる。


「た、倒したの?」

「まあね。心臓を突き刺したから、確実に倒せたと思う」


 そう言いながら、僕は奴の死体があった場所を見ていた。


(……魔石は出ない。十中八九、外から来たな。迷宮の主って言うのも自称か)


 だとしたら、あの悪魔を手引きした人間の狙いが気になってくる。

 わざわざ、ゴブリンキングに刻印を刻み付けて魔法を使わせる理由がわからない。


 とにかく、今の僕にわかるのは妙なきな臭さだけだった。



やっぱり、頭で戦う主人公だと書いてて楽しいですね。

ここで、面白いって思ってくれたらブックマークお願いしまーす!!


次回は、昼辺りにまた投稿しようと思います。12時くらいかな


不可視の悪知恵ザ・トランスパレント

・奇襲最強の魔法

・ぶっちゃけ迷宮の外で戦ってたらアポロ以外は全員殺せてた。彼の場合、痛みが走った瞬間にカウンターを放たれ負ける。

・能力は透明化と認識阻害

・実態はあるので、攻撃が透過する心配はないが足音など雑音も消すため下手に魔術を撃っても変わらない。

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