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第66話・王位が本当にヤバい



 馬車が石畳の上を通るたびに、カタンコトンと心地よい音と振動がやって来る。

 そんな、感覚に身を任せながら僕は前に座る執事さんと目すら合わせず、景色を眺めていた。


 そのまま、王都を走り気づけば巨大な庭園の目立つ屋敷にたどり着いていた。


「到着いたしました」

「はい。ありがとうございます」


 そんな形式的な感謝を伝え、馬車を降りる。

 周囲に魔力の反応はない、敵意も感じない、追跡されている様子もない。


 そのまま、執事さんに促されるままに僕は屋敷へ足を踏み入れた。


「こちらに、そのままおかけください。時期に殿下が訪れますゆえ」


 そして、部屋に案内され入った瞬間に執事さんに言われる間もなくその場に跪き頭を垂れた。


「殿下。そろそろお戯れはお辞めください」

「……気づいていたのなら、馬車で一言くらい話してくれたってよかったのに」

「人の目がある可能性がございましたので」


 先ほどまで僕を誘導していた執事さんは、悪戯のバレた子供のような笑みと、いじけたような態度で変装を解く。


 黒い、光沢を放つ髪に僕と同じ優しい青の瞳、そして美術品のように整った容姿の美少年。


 この方――いや、こいつを僕が間違えるはずがない。


 近づかれた時点で魔力の反応でわかっていた。

 その上で、芝居に乗ったのだ。


「そうだけど、久しぶりに親友と再会したって言うのに冷たいと思うんだけどな。オレが何度抱き着きそうになるのを抑えたか……」

「お言葉ですが、あの場で私が殿下を殿下として話せばよからぬ混乱を与えると愚考いたしました」

「わかってる……だが、その言葉遣いも跪くのもやめてくれ。ここの防犯は完璧だ。周りを気にする必要はないんだから」


 確かに、伊達に王族が用意した部屋というわけではないらしい。

 完璧に近い防音設計、並の一撃ならびくともしない防御レリックで固められた壁。


 ただ――僕は跪きながら答えた。


「出来かねます。私は一介の冒険者。ですが、殿下はこの国の次なる王でございます。ここが、公的な場でなくとも殿下に気安い態度はとれません」

「泣くぞ」

「え?」

「外にも聞こえるくらいの大声で泣き叫ぶぞ。のたうち回って次期王の痴態を見せてやるからな!!」


 変わらない僕の態度。

 それに業を煮やしたのか地団太を踏みながら次期王とは思えないとんでも発言が飛び出す始末だ。


「……ふっ」


 想像しただけでも、もう耐えられない。

 跪くのを辞め、立ち上がった。


「やめてくれ、いい歳の大人がのたうち回って泣き出すなんて見るに堪えないよ。親友(パルシム)

「アポロ!」


 興奮した様子で両手を思いっきり広げ僕に抱き着いてくる。


「下手な変装と芝居で騙そうとした仕返し。効いただろ」

「やりすぎだよ!!ついに君にも見限られたのかって思ったじゃないか!!」

「僕がお前を見限るわけないだろ。久しぶりに会えて嬉しいよ」


 パルシムの抱擁に対して、僕も残った右腕で力強く抱き返す。

 数秒――無言で抱き合った後、鬱陶しかったため無理やり引きはがした。


「離れろ、暑苦しい!」

「いいじゃないか。久しぶりなんだから」

「ダメ。話が進まないし、さっさと本題に入ろう。意外と切羽詰まってるんだろ」

「腕を失くして帰って来た君に言われたくはないね。オレがピンチなのは事実だけど……」


 こいつは僕が知る上で最も知略に優れている。

 その知略をもってして、僕が騎士団を辞めるころには既に盤石な地位を築き次期王は確実だと言っていたし、僕もそうなると思っていた。


 だが、手紙には絶望的な語彙で『王位がヤバい』と――それだけで事の重大性を察するに支障はなかった。


 そして、互いに机を挟んでソファに腰を据え、話し合う準備は整った。


「簡潔に言おう。オレを支持していた六騎士団すべてが第二王女アモールについた」

「……へ?」


 言葉が詰まる。

 確かに、ただならぬことが起きてるんだろうな――とは思っていたが予想以上に状況が悪い。


 いや、悪いなんてもんじゃないかなり大ピンチだ。


「王になるには、七人の大臣と七つの……じゃなくて、今は六つの騎士団長の投票の過半数を獲得しなきゃいけないから」

「ああ、後一票でひっくり返される。それも、オレを支持してくれているのは六人の大臣だけだ」

「最後の一票を取った方が王になるってことか……」


 ほとんど全ての勢力を取り込み、敵なしと目されていたというのに次期王が今まさに決まるというタイミングでの逆転。


 もう、何か作為的なものを如実に感じざるを得ない。


「それで、最後の一票って言うのは誰なんだ?騎士団の方も何とかしなきゃいけないけど、当面はそこだろ」

「ああ、それが君を呼んだ理由だ」

「呼んだ理由?僕の知り合い……もしくは、関係者ってことか」


 頭の中を過去に遡及させるが、同期はほとんど騎士になっているし、例外は目の前のこいつと聖女くらいだ。

 ――ダメだ、本当に思いつかない。


「現防衛大臣インビクタス・リユニオン。姉上だ」


 唖然、あんぐりと口が開く。

 確かに僕の知り合いではあるし、騎士ではない。


 条件には当てはまっているが、候補にも挙がらない理由があった。


「あ、あの……口より先に拳が出る。雌ゴリラ!?」

「人の姉をゴリラとは失礼な。大臣になって今は拳より一瞬先に口が出るようになった。それに、せいぜいゴリラじゃなくて雌オーガだ」

「「はははははっ!!」」


 互いに学園在学中に酷い目に合わされたので悪口もよく回る。

 だが、悲しきかな――こういう時に限って神様は天罰を与えにやってくるのだ。


「邪魔をする。ここに弟がいると聞いたのだが」


 この部屋の防犯は完璧だったはず。

 だというのに、目の前には話題の渦中にいたインビクタス第一王女が立っていた。


 そして、彼女の後ろには圧倒的なパワーでねじ切られたドアノブがあった。


「め、雌ゴリラ!?」

「め、雌オーガ姉上!?」


 そう、互いに顔を見合わせ叫んだ瞬間。

 元から座っていた、油断していたなど要因はあれど一切の反撃せずに気づけば壁に頭がめり込んでいた。


「誰が、ゴリラやオーガだって?」


 一体誰が、今は拳より先に口が出ると言ったんだろう。

 明らかに口より先に拳がそれより先に殺気が飛んできている、勢い良すぎて壁に埋まっている。


 ドアノブをねじ切る腕力、僕たちの反応できないスピード、大人二人を易々と持ち上げるパワー


(やっぱり、ゴリラじゃないか)


 そう思わざるを得なかった。



この章は、恋愛色を増やそうかなぁと考えております。

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