第6話・クラン結成
ギルドに入ってすぐカウンターにいた筋肉を鎧のように着込んだ男と目が合う。
「へえ」
瞬間、こちらを品定めするような殺気が僕を襲う。
だが、何でもないように微笑みを返した。
「どうしたの、アポロ?」
「何でもない。どうやら本部は熱烈な歓迎を僕たちにしてくれたみたいでね」
あの男相当強い。
魔力の流れからして十中八九戦士で、送り込んできた殺気から考えて同じSランク冒険者ではないだろうか。
そして、男がこちらに歩み寄ってくる。
「お前、名前は?」
「アポロ。魔術師だよ」
「お前が魔術師だと?だったら、なんだその剣と体は」
「いやいや、ちゃんと魔術師だから。剣はそこそこだし、体は鍛えてるだけだよ。貴方の方がずっとすごい」
魔法使いや魔術師とは違い魔力の流れを探ることはできないはずだが、それでも僕の戦い方に疑問を持った。
彼の言う通り、僕は純粋な魔術師じゃない。
だが、肉弾戦が中心と言うわけでもない。
「それはそうだ。だが、お前の戦い方には興味がある。よければ手合わせ願いたいが生憎これから迷宮に行く為、失礼する」
「はあ、そうですか。頑張ってください」
勝手に彼の中では話が進んでいたようだが、僕には関係ないので適当に応対する。
去り際に一睨みされたが、僕もにらみ返すと不敵な笑みを浮かべて去って行った。
(不味いな。挑発に乗ってしまった。あれは、後々面倒になるタイプだな)
殺気が向けられたとはいえ僕も迂闊に反応を返してしまったのは失敗だった。
「あ、そうだ。アフェ、結局ギルドで何するの?」
「クランに入れないなら、単純な話クランを作ってしまえばいいのよ」
「確かに手っ取り早いね。でも、それなら最初からそうしちゃった方が良かったんじゃない?」
組織に入るというのは予想以上に面倒なものだ。
ルールを守るのは当然のこととしてノルマが課されることもある。
生活が組織都合になってしまい親族の死に目に会えないこともあるだろう。
「それが、そううまくは行かないのよ。当然だけど、入るのと違って作るから仲間も集めないといけないし」
「そうだね。気の合う人がいるといいんだけど」
「それとね……」
何だか歯切れが悪い。
更なるデメリットが存在しているのかと直感して思わず顔をしかめた。
「クラン結成には大量の金がかかるの」
「なるほどね。一定のハードルを作っておかないと迷宮に行き放題だもんね。ちなみにいくらくらい?」
「……金貨300枚よ」
下手すれば故郷の街に一軒家が建ってしまう値段に、ちょっと世界が遠くなった。
耳と目からは情報が遮断され彼女の言葉を必死に脳内で咀嚼する。
「多いね。僕のマジックバックくらいするんだ」
「それで、どうする?あたしも半分くらいは払えるけど」
「大丈夫。僕が全額払う。舐めないで、これでもSランク冒険者なんだよ」
そう言ってマジックバックから一枚金貨100枚分の価値がある白金貨を3枚取り出す。
(さらば、僕の全財産!)
カッコつけながら白金貨を見せているが内心は全く穏やかではない。
最近、ちょっと大きな買い物をしてしまったせいでとにかく金がないのだ。
その上、物が嵩張るので昨日のうちに土竜を討伐した金と持ち金を両替して白金貨にしてきたのだ。
「だ、大丈夫?アポロのことだから、カッコつけようとしてるだけでそれが全財産だったりしない?こっち向いて」
「しないしない。僕を何だと思ってるの」
「よく顔に出る変な人。ほら、こっち向いて」
彼女の僕への解像度があまりにも高すぎる。
実際、彼女の言う通りこれが有り金全部なので予想は合っている上におそらく向いたらバレるので最後まで向かなかった。
「すみません。新しくクランを作りたいんですけど」
「はい。では、冒険者カードを拝見いたします」
先ほどと同様にSランクと書かれた冒険者カードを渡す。
それを、確認して何か操作すると僕に返してくれた。
「こちら、どうぞ。『最強の第一世代魔術師』のアポロ様ですね。本日は、ご利用くださいましてありがとうございます」
「は、はい」
二つ名を言われるとやはり背筋がこそばゆくなる。
だが、ここの受付嬢さんはルフトズの時とは違って態度が変わることはなかった。
冗談で大雑把な手段をとるクランと言ったがあながち間違いでもないのかもしれない。
「クラン設立のために金貨300枚を頂戴しておりますが、よろしいでしょうか」
「こ、これでお願いします」
僕は顔をぴくぴくと引きつらせながら、白金貨を震える指先で一枚一枚慎重に置いた。
それを、さわやかな笑顔で受付嬢さんが裏に持って行くのを気づけば物欲しそうな目で見つめていた。
「やっぱり全財産だったんだね。それなら、あたしにも払わせてよ」
「いい、いいんだよ。最後までカッコつけさせて、この後アフェから金貨を受け取ってたら本当に末代までの恥だよ恥」
ただでさえ、恥をさらし続けている人生だというのにおばあちゃんに会いに行く前にこれ以上恥を増やすわけにはいかない。
まあ、どうせ僕が末代なので子孫への恥は気にしなくていいと思うのだが
「それでは、こちらに記入をお願いします」
「はい」
渡された記入表に色々書いていく。
「クランハウス?」
「あ、それはあたしに任せて……っと、これで大丈夫よ」
彼女に渡して帰ってくると全く知らない住所が書いてあった。
特に気にせず、他の個所にも記入していく。
「クランマスターかぁ。これ、僕じゃなきゃダメなのかな」
「お金を出したのはアポロ何だからって言いたいところだけどちょうどあたしも同じこと思ってたわ。あたしでもいいわよ」
サラっと遠回しにクランを任せられないと言われたが実際そうなので、大人しく彼女の名前を書く。
「最後にクラン名か、レリック・ゲッターズ?」
「ぶん殴るわよ。奇をてらう必要はないの、単純なもので……そうね『トラーレンドン』なんてどうかしら」
「奇をてらってない?ていうか、どういう意味のなの?」
「意味なんて気にしなくていいわ。だけど、今のあんたにピッタリな名前よ」
別に僕にはクラン名に特別なこだわりがあるわけではないので、彼女の言うその名前にすることにした。
と言うことで、全て記入し終わったのでそれを受付の人に提出する。
「はい。受理されましたクラン名『トラーレンドン』ですね。ここから先の迷宮都市ラビリンスへの貢献を期待します」
「はい!」
クラン結成の証であるレリックを受け取り握る。
ここから、僕たちの迷宮都市ライフが始まった。
ちなみに、トラーレンドンはTrauerndeと言うドイツ語で『追悼者』って意味だぞ!




