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第3話・迷宮都市ラビリンスへ



 翌日、思い出の詰まった祖母の家を出た僕は待ち合わせの場所である転移陣がある街の中心地まで足を運んでいた。


 昨日、アフェから話を聞いた後だからか不思議といつも見る街並みも眩しく見える。



 すると、既に彼女が仁王立ちで待ち構えて来た。


「よかった、ちゃんと来たのね」

「そりゃあ来るさ。逆に来ないと思ってたの?」

「うーん、なんて言うんだろ。あんたがこの街を出るところを想像できないって言うのかな……今も、ここにあんたがいるのが信じられない」


 確かに、僕も自分で驚いている。

 これまで、冒険者として働いていく上で他の街に行くことはあったが長期間の遠征はしてこなかった。


 それくらい、ここは大切な場所だ。


 育てられた場所でもあるし、心の住み家でもある、何よりここには思い出が詰まりすぎている。


「でも、僕にはこうするしかないんだ。それが、最後に残った道標だから」

「そう、そうよね。それで、準備は万全なの?」

「ああ、大体必要なものはマジックバックの中に入れてきたよ」


 そう言ってすっかり使い古された鞄を見せる。


「本当に便利よね。こんな小さいのに、中はめちゃくちゃ広いなんて」

「その分、買うとしたら高いんだけどね」


 僕のマジックバックの容量は小さい部屋くらいで出入口が小さいためあまり大きいものが入らない。

 それでも、僕が通っていた学園の一年間分の学費くらいの値段はする。


「そうだよね……あ、そろそろ行こうか」

「うん」


 転移陣の守衛にお金を払い中に入る。

 神殿のような見た目をした建物の中心には転移陣を成形するためのレリックが置かれている。


 そして、僕たちはその転移陣の上に乗った。


「……しばらくの間、さようなら。僕の故郷」


 視界が白い光に包まれていく。

 思わず、その眩しさと寂しさを前に目を伏せ故郷の街、デュランクに別れを告げた。




 ***




 次に目を開いた時、視界に入って来た景色は転移前と変わらない神殿内部の姿だった。

 だが、少し匂いも気配も違う。


「でも、景色が変わってない?失敗した?」

「ううん、大丈夫。大体転移先って建物が同じだから景色が変わらないんだよね」


 使用料が高いのでこれまで使ったことがなかったが、本当に一瞬で移動できたことに少し感動した。


 人を転移させるようなレリックがあるなら、死者と会話するレリックだって存在するんじゃないかと興奮してきた。


「ようこそ、迷宮都市ラビリンスへ」

「何でようこそ?」

「ここでは、あたしが先輩だからよ。ほら、行きましょう」


 そのまま、腕を引っ張られ連れられるまま神殿の外に出る。

 暗い内部から一気に外に出たせいか白い日差しが視界を包む。


「これが、迷宮都市ラビリンス?」


 晴れた先で広がっていたのは、デュランクとそこまで変わらない景色だった。

 そこら中に露店が並び、多種多様の品物を売っている。


 何個か遠目に巨大な建造物がちらほら見えるが、そこまでインパクトはなかった。


「ま、まあ、あんたって元は王都の騎士学校にいたわけだもんね。拍子抜けしたっておかしくないわよ」

「いや、驚いてるんだけどね純粋に店の数とか多いし、人もいっぱいいるね」

「そうね。特に冒険者の多さならここが圧倒的よ」


 確かに、彼女の言う通り視界に冒険者が写る割合が圧倒的に違う。

 一般人に見える住民の顔つきも、どこか血の気が多そうに見える。


「よし、じゃあ早速迷宮に行こうか!」

「無理よ」

「え、迷宮に入るのって許可とか必要だっけ?通行料払わなくちゃいけないところはあるけどさ」


 少なくとも王都とデュランクの周辺にある迷宮に制限があった覚えはない。

 たまに、貴族が権利を握っている場所は金を払う必要がある場合があるくらいだ。


「それは、2年くらい前のまで話よ。迷宮都市ラビリンスでは、独自の方法が取られてるの」

「それで、何か許可とか必要になるってこと?」

「ええ、単純に死人が出すぎて、規制をかけたってところね。でも、アポロは十分強いしそこは問題ないわ」


 彼女の言う通り、僕の周りでも身の程をわきまえることが出来ず死んでいく者は少なくない。

 ただでさえ冒険者の母数が多いここなら、なおさらだろう。


「アポロはクランって知ってる?」

「えっと、でかいパーティーみたいなやつだったよね」


 デュランクにも規模は小さいが一つだけ存在している。


「端的に言えばそうね。複数の冒険者による共通の目的や志を持つプレイヤーが集まるグループのことよ。原則、迷宮に入るにはこのクランに入るのが必須なの」


 早速、難題が立ちはだかって来た。

 冒険者になって二年ほどでSランク冒険者まで駆け上がって来た僕だがパーティーを組んだ経験は数えるほどしかない。


 何だろう、急に足元が揺れて来た。


「安心しなさい。策はあるわ」


 どうやら、不安そうな表情を悟られたようだ。


 そのまま、自信満々な彼女の後ろをついて行くと先ほど遠目に見た全長は土竜よりも大きなレンガ造りの建物にたどり着いた。


「ルフトズ」


 看板にはそう書かれている。


「この街で名をはせている大手クランの一つよ」

「ここに入ろうってこと?でも、大手クランっていつも仲間を募集しているものなのかな」

「普通はね。でも、ルフトズは常に仲間を探してる。それだけの資金力を持ってるの」

「なるほどね。流石、情報屋」


 初めてこの街に来て右も左もわからない僕を的確に導いてくれる。

 情けない限りではあるが、情報収集に無駄な時間をかけずに済んだことは大きい。


「まあね、それじゃあさっさと入りに行きましょう」


 こうして、僕たちはクランの門を叩くのだった。


 

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