第20話・手痛い歓迎返し
ベスクワルさんに言われた通りに歩いて行き中に入ると、昨日見たばかりの顔と見知らぬ三人が待っていた。
「あ!アポロさん」
「どうも、昨日ぶりだね。イージスさん」
大盾を地面に置き、歩み寄る彼女の顔には単純な疲労とは別に緊張のようなものが浮かんでいた。
「大丈夫、言ってないよ」
それを察した僕は、自身の人差し指を己の唇に乗せて後ろの人たちに気づかれないようにそっと呟いた。
すると、彼女の表情も少し和らいだ。
だが、その雰囲気を察せられたか炎のような赤髪が目立つ女性が声を上げる。
「おいおい、うちのイージスをナンパするならせめて迷宮の外でやってくれないかい?ここで、盛られても困るんでね」
「あはは、誤解ですよ。誤解……僕はアポロ。今は、クラン『トラーレンドン』に所属してる」
「そりゃ失敬。でも、Sランク冒険者って肩書が抜けてるぜ」
その時、僕のことを知っているイージスさんはともかく残りの二人の顔色が変わる。
無理もない。
自分で言うのもなんだがSランク冒険者って本当に数えられる程度しかいないのだ。
「ああ、昨日上から聞いていたみたいなので別にいう必要もないかなって」
「っ!あんた、わかってたのかい!?」
「ええ、随分熱烈な視線だったので」
実は、ルフトズのクランハウスに入った時からこちらを見る視線に気づいていた。
体に残った魔力の残滓からして、おそらく第三世代魔法使いだろうくらいまでは察していたのだ。
「もしかして、僕がザレクさんにやったように魔法を使おうとした?」
「……ちょっと、ゾッとしたよ」
指摘すると顔が幽霊でも見たように悪くなる。
アフェの腕を引いてその場から逃げた時、後方で魔力の起こりを感じ取っていた。
あくまで実際に見たわけではないので、推測だったが当たったようだ。
「感じれちゃったので、それで後ろの二人は僕が本物だって信じてくれた?」
体を横にずらし、視線を向ける。
すると、二人とも顔を見合わせてから無言でうなずく
相手がルフトズのメンバーと言うことで、昨日のようなことが無いように少し脅かしたが必要なかったらしい。
「降参。だから、もう脅かすのはやめてくれ」
両手を上げ、降参の意を示す。
だが、僕はそれに対して何も言わず笑顔で返した。
「怖っ……あたしはフレム。今は、ルフトズに所属しているBランク冒険者。よろしく、そちらのお二人は?明らかに冒険者じゃねえ子が一人いるけど」
赤い髪を払いながら、軽い自己紹介をする。
だが、視線はすぐ僕の服にしがみついていたカタリナに向けられた。
「あたしは、アフェって呼んでくれればそれでいいわ」
「わ、私はカタリナです」
「カタリナは戦わない。見学だと思ってくれればいい」
「そう、それであんた達はあたし達に何のようだい?」
何か突っ込まれると思ったが、彼女を一瞥するだけで本題に入った。
僕はベスクワルさんと話したことをインプのことは除いて話した。
「……なるほどね。ま、あたし達としたらメリットしかねえわけだが、本当の狙いは何だ?」
「ふっ」
「何がおかしい」
「いや、やっぱりフレムさんの反応が正常だなって思ってさ」
思わずベスクワルさんとの会話を思い出して笑ってしまう。
どう考えても、彼の対応は冒険者としてパティ―リーダーとしてふさわしいものではなかった。
「いや、そうだよ。狙いはある。ただ、話さないんじゃない。話せない。これで、今は納得して欲しい」
「今は……なるほど、少なくともあたし達の報酬を横取りする気はねえってことはわかった」
相手は既に、僕の実力を認めている。
その僕が、一緒に主の部屋の魔物を倒そうだなんて提案を持ちかけてくるのは不自然だ。
つまり、狙いは魔物じゃなく別にあると彼女はすぐに察した。
「いいぜ、協力関係だ。まあ、どっちみちうちのリーダーが色々決めちまってるし拒否なんて出来ねえんだがな」
「全く、そっちも大変ね。まあ、リーダーはまだしもあんた達が信用してくれるならいいわ。後ろから撃たれたらたまらないもの」
「……ああ、とんだ貧乏くじを引いちまったみたいでな」
アフェは暗に僕たちはリーダーに信用されていないことと、彼から後ろから撃たれる可能性を暗示した返答をする。
それを聞いたフレムは顔をしかめながら、思わずこめかみをいじっていた。
「そう言えば、君たちのベスクワルさんは魔法使いだよね。どんな、魔法を使うの?」
「あ?それは、うちのリーダーの弱点を晒してくれって言っているようなものだぜ」
「どうせ、調べればすぐわかる事だろ。家名付きなんだから」
魔法使いはなるべく自身の魔法について知られたくない。
そのため、秘匿している者も一定数存在する。
だが、家名付きは有名すぎて魔法が世の中に知られている場合の方が多い。
「まあな。うちのリーダーの魔法は”召喚魔法”だ。具体的に何体出せるとかはわからないが、元はSランク冒険者だった父親の刻印を継いでるから強力なのは間違いない」
「召喚魔法……召喚魔法?それに、待てよ。ベスクワル・コンボイション?コンボイション……コンボ!!」
「うわっ、どうしたのよ。急に大声なんて上げて」
空に浮かぶ星々が結ばれて星座が生まれるように
僕の脳内で散らばっていた点たちは次々と線で結ばれやがて大きな星座へと変わった。
「いや、すっかり忘れてた。コンボか……コンボ一族だったのか」
「だから、そのコンボって何よ?」
やっと、今回の事件の合点が付いた。
その衝撃で隣のアフェの疑問にも耳を貸さず一人で解放感に浸るのであった。
コンボー!コンボ―!




