第19話・会話には注意した方がいい
外に出た私は辺りを見渡しながら歩く。
もちろん、外は仲間もいないし魔物の残党に出会ったら危険だが、じっとしているよりはマシだと思った。
「あれって、クランマスター?」
部屋を出て少し歩くと主が待つ部屋のすぐ近くで何かしているクランマスターの姿が見えた。
物音を立てず興味本位で近づき聞き耳を立てる。
「……ああ、契約は果たす。だから、これ以上余計なことはしなくていい」
(誰かと話してる?)
しかし、傍から見ても彼は独り言を言っているようにしか見えない。
だけれど、無視できないフレーズがあった。
仲間にそのことを相談しようと動いたその時、足元の石を踏んでしまう。
「誰だ!」
迷宮内に響く彼の声に思わず、立ち止まる。
(こっちに来てる!?)
今は影になっている所にいるからバレてはいないだろうが、ドンドン足音が近づいてきている。
さっきまでなら素直に私は出ていけたかもしれない。
ただ、今の会話を聞いた後では緊張で足が竦んでしまった。
「こんにちは」
だが、聞こえた声はクランマスターではなく、どこか聞き覚えのある声だった。
そして、それは私に言われた物ではなかった。
影からそっと覗き込むとそこには、昨日私たちを助けてくれたアポロさんがクランマスターと相対していた。
***
僕たちはインプを一掃した後、早々と迷宮を抜け最深部の主の部屋までたどり着いていた。
「誰ですか、あなた達」
「僕はアポロ。えっと……トラーレンドン?に所属している冒険者で、こっちはクランマスターのアフェとカタリナ」
「どうも」
「こ、こんにちは」
適当に挨拶を終わらせ、ルフトズのクランマスターであるベスクワル・コンボイションの前に立っていた。
「トラーレンドン?聞いたことないですね。それで、そのトラー何とかさんが俺たちになんの用ですか?」
相手の反応は芳しい物には見えない。
そりゃ、相手からすれば同業者が手柄を横取りに来たと思うだろう。
だが、それ以外にも理由があるような気がした。
「実は、この先で……その、悪魔が出たと噂を聞いて来たんですよ。そしたら、ここに来るまでに下級悪魔に出会いましてね」
「インプを見たんですか!?」
「……ええ」
どうやら、彼らもインプを見たらしい。
それを知った僕は後ろに回した手で、相手に見えないよう手招きしカタリナを近くに寄せる。
「それで、良ければ一緒に主の部屋に入りませんか?出た魔石などはそちらが取ってもらって構いませんので」
「……わかりました。確かに、こちらも戦力は欲しい」
「ありがとうございます」
取ってつけた適当な理由で了承されたが、入れるなら何でもいい。
(……イージスさんも、もう行ったか)
魔力で気配を探るが、近くに彼女の反応はない。
どうやら、僕とベスクワルさんが話している内にどこか行ったらしい。
その後、彼はまだやることがあると僕たちに他のメンバーが集まっている居場所を教えて去って行った。
「……どう思う?」
「怪しいわね。普通、ああいう交渉は自分がどれだけ有利でも拒否するべきわ」
アフェに意見を仰いだがどうやら同意見らしい。
「その、どういうことですか?あの人は戦力が欲しいんですよね。なら、拒否なんてしたらダメじゃないですか」
「本当に戦力が欲しいならね。それに、たとえ本当にそうだとしても後ろから撃たれる可能性だってあるし、口約束なんていくらでも反故にできる。彼の立場なら、さっさと追い払うべきだ」
それに、ここに来るまで禄に魔物と出会わなかった。
おそらく、全て倒してきたのだろう。
そう考えると、新たな戦力が必要そうなパーティーには見えない。
「そもそも、本当に戦力が必要な状況ならまず撤退すべきだわ」
「な、なるほど……もしかして、本当の狙いは私たちを戦わせることなんじゃないですか?」
「その可能性もあるね」
だが、それだとおかしな矛盾が発生する。
その推測の前提にはベスクワルさんが中にいる者の存在を知っている必要がある。
しかし、知っていれば何故か今から自分のクランメンバーを危険に晒そうとしていることになる。
「はあ、結局いくら考えても決定的な証拠がないときついな。ひとまず、イージスさんの所に行こう」
そう深いため息をつきながら、僕たちはイージスさんとそのパーティーの待つ小部屋に向かうのだった。
また、明日更新します




