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第17話・抜け穴

やっぱり、この章が終わるまではブックマークしないでください。だって、タイミングよくドーンって来た方がランキングに乗る気がするからね!



「『”風”よ。我が身体の中心から横10m、高さ5m、縦15mに吹き続けろ』」


 迷宮に突入後、詠唱し透明化対策に常に風の魔術を展開する。

 内部は、昨日行ったゴブリン迷宮の二倍以上の通路面積を誇っていた。


「アポロ。奥に悪魔がいるって言うなら昨日みたいにあたしとカタリナを乗せて移動するって言うのはできないの?」

「難しいね。あれ以上風の防壁を大きくするとむしろ減速するだろうし、単純に危険だ」

「ご、ごめんなさい。私のせいで……」


 その時、カタリナが震えた声で謝る。


(失敗した。ただでさえ信頼関係が築けてないんだから誤解はなるべく避けないと)


 僕は改めて彼女の前に立ち、目線を合わせるため屈んでから

 そして、じっと彼女を見つめた後、はにかんだような笑顔を見せた。


「カタリナのせいじゃない。それとね、こういう時は謝らなくていいんだ」

「え、でも……私がいなければ早く奥に行けるんですよね」

「うん、行けるね」


 僕は彼女の前で変な誤魔化しはしないし、なるべく真摯に対応するべきだと思ってる。


 利口な子だ。

 彼女は自分の事や周りの事を口に出してはないがよくわかっている。


「でもね、僕は無理やり連れて来たとはいえ、君を仲間だと思ってる。だから、迷惑をかけてもいいんだ。互いに補って行けばいい。カタリナはどう?」

「わ、私は……浄化の奇跡(ピュリフィケーション)で皆さんの役に立てますか!?」

「それは、僕には断言できない」


 未来は何が起こるかわからない。

 もしかしたら、今後いつになっても彼女の実力では役に立たないかもしれない。


「だけれど、絶対に役に立つぞって思い続けるんだ。いつか、その時が来たときに迷わないようにね。今は、将来役立つまでの……出世払いってことにしておこう」

「は、はい!が、頑張ります」

「よし、少し話しすぎたね。ちょっと早歩きで行こう」


 実際に役に立っていないのに、大丈夫だと言っても本人は納得しないだろう。

 むしろ、嘘や過剰な擁護、同情をすればみじめな思いをするだけだ。


(本当の仲間になれるのは彼女がもう少し成長してからかな。楽しみだ)


 だから、役に立てば互いに迷惑をかけてもいいという抜け穴を作った。


 人は目標を持てばそれに向かって歩くことが出来る。

 彼女はきっとこれから多くの助けを借りてより大きく、強くなるだろう。


「ふふっ、ならあたしの迷惑も出世払いにしてもらおうかしら?」

「そんなことしなくても、アフェには僕からかけた迷惑がツケとして溜まってるからそっちを清算してくれればいいよ」

「そう、ならもうしばらくはこき使おうかしら」

「仰せのままに……っと、やっと魔物が出て来たか」


 歩ていくうちに複数の魔物の気配を感じた。


 ここまで歩いてきたが、魔物の姿は一匹も見つからなかった。

 大方、先行しているイージスさんのパーティーが倒していってしまったのだろう。


「さて、腕慣らし……って、こいつは!」

「魔物?いや、ここはコボルトが出てくる迷宮のはずよね」


 僕たちの目の前に現れたのはコボルトの集団ではなかった。


 体長は人間の子供くらいで、全身が黒く、充血した目をしており、ピンと尖った耳に、蝙蝠のような翼、凶悪なかぎ爪を持っている。


「キィィィ!!」

「ひっ……!」

「下級悪魔のインプだな。『”風”よ。我が前方に移動せよ』」


 それを確認した後、先ほどから透明化対策のために展開していた風の位置の基準を体の中心から前方に変更する。


 耳障りな鳴き声を上げ威嚇する。

 それを聞いたカタリナが怯えた表情で耳を塞いだ。


「大丈夫だよ。あんなのがいくら集まって来ても僕たちの敵じゃない」


 そう言って、落ち着かせようと彼女の肩に手を置いた瞬間、奥から続々とインプの援軍が訪れる。

 その数は総勢で二十を優に超えていた。


「ほ、本当に集まってきやがった」

「アポロが下手にインプ達を煽るせいね。あの鳴き声で、仲間を呼び寄せたみたい」

「……その、本当に大丈夫ですか?」


 遠目から見れば小さな翼のある子供が集まっているようにしか見えない。

 だが、近くで見ている彼女からすれば恐怖以外の何物でもない。


「大丈夫。こいつらがいくら来たって負けないから。アフェ、行くよ。インプは魔法は使ってこないけど皮膚は堅いから狙うなら目ね」

「ええ、わかっ……」

「キィィィ!!」


 その時、再び耳障りな奇声が響き渡ると同時に更にインプ達が奥から集まってくる。

 ドンドン増えて最終的にぱっと見では数えきれない数になっていた。


「……これ、僕のせいだよね」

「少なくともインプに煽り耐性はないみたいね。撤退する?」

「いや、問題ないよ。『”風”よ。嵐となり乱舞せよ』」


 すると、詠唱が成立し髪を多少動かす程度だった風がインプの軽い体を呑み込むほど強くなる。


 これは第一世代の魔術の応用のようなもので、事前に風の魔術を展開し、その後前方に移動させる。

 ここまでお膳立てすれば、短い詠唱で魔術を起動できるのだ。


「おー凄いわね。全部、その詠唱で良いんじゃない?」

「無理無理。事前に魔術を発動させる必要があるから魔力の消費が多いんだよね」


 少し様子を見ていたが嵐の向こう側に巻き込まれていないインプが見える。

 その上、嵐に呑まれているインプは動けないがダメージもほぼないように見える。


 だが、動けないだけで十分だ。


「『”土”よ。我が前方20ⅽm先から上昇し横1m、深度5m、縦1m50㎝の壁を作れ』」


 詠唱が成立したと同時に目の前にたっぷりと魔力を含んで固めた土の壁が出来上がる。


「これ、どうするの?」

「こうするのッ!!」


 目の前に生成した壁に向かって身体強化を施した拳を思いっきり振るった。

 その瞬間、土の壁が割れて礫が風の中に吸い込まれていく。


 すると、嵐に呑まれていたインプ達は仲間だけじゃなく鋭利な礫ともぶつかりダメージを負っていく。



 そして、数秒後にはインプ達は魔石を落とさず塵に変わった。

 だが、礫も小さくなりこれ以上大したダメージにならないと判断して魔術を解除した。


「こんなもんかな。逃がす前に倒すよ」

「ええ、残党狩りね。ちゃっちゃと済ませちゃいましょ」


 残ったインプ達は十体を切っていた。


「キ、キィィィ!?」


 嵐が解除され自由の身になったとしても意味はない。

 礫によって体が貫かれた者や、息も絶え絶えな者、怯えて動けない者もいる。


「さようなら」


 僕はレインボーソードを抜き、アフェと協力してインプ達にトドメを刺していった。

 やはり、倒した彼らから魔石が出ることはなかった。


「その、アポロさんって本当に強いんですね。全く苦戦せずにあの悪魔を倒すなんて私、何もできませんでした」

「仕方ないよ。それに、あいつらとまともに戦おうと思ったら苦戦してた」


 そもそも、僕の戦い方は相手のペースに持ち込ませず、本領を発揮させないうちにこちらのペースで潰すのが基本だ。


 そのため、相手と真っ向から戦う時点で既に僕の敗北と言っても過言じゃない。




 そして、歩きながら今の出来事について話す。


「やっぱり黒ね。魔石も出ないし十中八九外から入って来た悪魔よ」

「だよね。でも、こいつらがここにいるってことはこの悪魔とイージスさんのパーティーも戦ったってことか?」

「正常な冒険者なら悪魔を見つけた時点で異常を察して撤退するわ」


 だが、ここに来るまで彼女たちのパーティーとすれ違ってはいない。

 だとすれば、僕たちしか悪魔と出会っていないということになる。


「まるで、これ以上先に行くのを阻みたいみたいだね」

「見られたくない物があるのか。でも、足止めに悪魔を使うなんてリスクがありすぎるわ」

「召喚者がいますって言ってるようなものだしな」


 こういうデメリットがあるからこそ、悪魔が魔物を強化して戦わせたというわけなのだから。

 もし、僕たちがインプを発見して引き返し、ギルドに報告すれば一巻の終わりだ。


「あの……!!」


 その時、僕とアフェの間を歩いていたカタリナが声を上げる。


「どうしたの?」

「その、もしかして悪魔が勝手に行動した可能性はありませんか?」

「悪魔が勝手に……」

「そ、その!昔、教会で読んだことがあるんです。下級悪魔のインプは上位の悪魔に逆らえず代わりに魂を運んでくるって」


 言われてみれば、確かにこの状況は召喚者からすれば不都合なことだ。

 だが、それを悪魔が独断で実行に移してしまい魂を手に入れるために、インプを放ったとしたら説明できる。


「でも、あいつら契約は順守するしな。そんな、主の不利益になる真似するか?」

「こういう考えはできない?召喚者がこれ以上先には行かせるなって命令をしたら、解釈によってはインプを放つことも出来るわよね」

「なるほど、言葉足らずか」


 悪魔を本気で従えさせたいのならこれは最もやってはいけないミスだ。

 だが、人間と言うのは不思議とこういうミスをしてしまう。


「それに、アポロによってあのフォラスってやつが倒されるのって想定外よね。相当、相手も焦ってるんじゃない?」

「二体目の悪魔の性格がものすごく悪かったりする場合もあるしね。とにかく、急いだほうがよさそうだ。イージスさん達が危ない」


 突然、現れた無数のインプたちに召喚者のミス。

 とにかく、人間の影を感じるこの事件に僕は歩きながら顔をしかめるのだった。



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