第14話・浄化の奇跡
「私が、何をしたいか……」
カタリナがそう自分に問いかけるようにつぶやいた後、僕との間に少しの間沈黙が流れた。
その顔からは僕の問いに対してしっかり考えて答えようとする姿勢が見られる。
「ま、答えを出すのは今じゃなくてもいい。それよりも、やってもらいたいことがあるんだよね」
「や、やってもらいたい事ですか?」
彼女には多少の怯えがまだ残っているように見えるが、少し話したおかげかずっとマシにはなっている。
「確か、神の奇跡の中には浄化の奇跡もあったよね。もしできるなら、僕にやってくれないかい?」
「は、はい。やってみます」
すると、彼女は祈りを捧げるように両手を重ね合わせ握る。
次に、神の奇跡を発動させるとき特有の神聖なオーラがまとわりつく。
「『”偉大なる我が主”よ。私が捧げし魔力を贄に彼の者を浄化したまえ。”浄化の奇跡”』」
彼女の詠唱が成立すると同時に僕の体は光に包まれ、今日の冒険でため込んだ汚れが消え去って行く。
そして、光が止んだ頃には清潔な体へ変わっていた。
軽く匂いを嗅ぐが、全く匂わない。
「ど、どうですか?」
「うん。いい感じ、さてと……」
今度は僕が神に祈りを捧げるように両手を重ね合わせ握った。
だが、彼女の時とは違い神聖なオーラが出てくることはない。
「『”偉大なる我が主”よ。我が捧げし魔力を贄に彼の者を浄化したまえ。”浄化の奇跡”』」
そう、彼女と同様に僕も詠唱をする。
魔力のパターンも今ので完全に解析し、再現をした。
しかし、何も起こることはなく溜めた魔力も空気に消えていくだけだった。
(やっぱり、何も起きないか。学生の時よりは成長してるはずだし、魔力以外に原因があるのか)
流石、神の奇跡と言うべきか素養の問題と言うよりもっと何か別の問題があるように感じた。
「アポロさん?」
「あ、ごめんごめん。僕も出来ないか試してみようと思ったんだけど出来ないね。治療の奇跡とか使ってみたかったんだけど。そうだ、他にも見せてくれない?」
「ひっ、その……ごめんなさい。わ、私、浄化の奇跡しか使えないんです」
「わかった。ごめん、無理言っちゃって」
どうやら、怯えさせてしまったらしい。
(浄化の奇跡しか使えないか)
知り合いから聞いたことがあるが、浄化の奇跡と言うのは教会の人間になるための最低条件のようなものだ。
これを習得することで位的には聖職者の中で一番下っ端の助祭と言う役職に就く。
つまり、彼女は助祭ではあるものの重要度では一番低い。
(やっぱり口減らしか?自己犠牲精神が強い教会の奴ららしいと言えばらしいけど、それにしたって奴隷商に身売りよりいい手段はあったはずだろ)
教会の奴らは基本的に民を見捨てない。
見捨てれば自身の力と権威の象徴である”神の奇跡”を行使できなくなる可能性があるからだ。
だからこそ、奴らは犠牲が必要な時は積極的に身内に強いる。
「カタリナ。君は、売られる前の生活に戻りたいと思うかい?」
そう聞いた途端、彼女は目の色を変えて椅子から立ち上がり僕に近づき縋るような目で懇願する。
それを見て、しまったと気づいたときはもう遅かった。
「っ、嫌です。わ、私を捨てないでください」
「あーごめん。間違えた。聞き方が悪かったね。安心して僕は君を捨てない。君の人生に責任を持つって言ったしね」
「で、でも私を買った人はみんな、捨てないって言って売ったんです!捨てるんですか?私をまた、捨てるんですか!?」
完全に錯乱してしまっている。
無理もない。
まだ、成熟しきってもいない精神状態で何度も苦い経験を味わったのだ。
「……カタリナ」
だから、静かに名前を呼んだ。
視線を僕から外させないために肩を掴んでこちらを向かせる。
そして、思い返した。
おばあちゃんが僕をどういう目で見ていたが、彼女の心から優しいと感じる瞳を僕に宿らせた。
「アポロさん?」
「カタリナ。手を出して」
そう言って、マジックバッグから取り出したのは掌に納まるくらいの大きさの球体の物体だった。
「これを君に預ける」
それを、両手で丁寧に受け取ろうとしている彼女の手に乗せた。
「これ、何ですか?」
「ははっ、驚くなよ」
彼女の手に預けた謎の球体に魔力を流す。
すると、中に内臓されている刻印が発動して球体が震えだした。
『1+1=2』
その瞬間、球体から僕の声で足し算の計算結果が発せられる。
「……」
「……」
木造の壁は唐突に流れた奇怪な音声を吸収するが、僕たちの間には沈黙が流れるのだった。
神の奇跡
だいたい、ほぼ魔術と同じ
だが、魔術よりも暴発の心配が無かったり、座標を指定しなくてよかったり色々便利
教会関係者は魔法や魔術と同一視されるとキレる。




