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第13話・かつて、してくれたように



 突然の告白にアフェの表情が凍る。

 しかし、それを気にせず僕は続ける。


「まだ、物心つく前に売られてね。ちょうど……4,5歳くらいだったかな。そのくらいに、おばあちゃんが買ってくれたんだ」


 少し目を閉じればいつだって思い出せる、初めておばあちゃんと会った時のその瞬間を――


『ありがとう。ありがとうね。私の家族になってくれて』


 僕にとっては闇の中に一筋の光明が差し込んできた瞬間であり、おばあちゃんは助けられたはずの僕以上に救われた表情をしていた。


「でも、あんたに奴隷紋は……なるほどね。だから、奴隷紋を刻まなくても買えるのを知ってたのね」

「そうそう、だから買った理由は簡単に言えば同情かな。でも、君が言った善人ぶりたかっただけって言うのも間違いじゃない」


 もちろん、それがすべてと言うわけじゃない。

 もし、本当に奴隷の少女に同情したというなら他の奴隷にだって同情出来るし救おうとするべきだ。


 それをしないのは、僕が聖人でもなんもでもないからだ。


「本当にあの子が可愛かったなぁとか、境遇とか、カッコつけたかったなぁとか色々理由がないと言えば嘘になるよ。幻滅した?」

「何もしてないあたしに幻滅する権利はないわ。そもそも、あたしはあんたのそういう人間臭いところ好きよ」

「奇遇だね。僕もアフェのそう言う所大好きだ」


 自分が奴隷であったこと、人間らしさを正直にさらけ出しても問題ないと僕は判断した。

 それを聞いても彼女の態度は変わることはない。


 再び、視線を扉の方に向ける――当然、”視界”には何の変化も写らない。


「さて、僕もそろそろ湯舟に浸からせてもらいましょうかね」

「わかったわ。あたしは、あの子の寝る場所でも準備しておくから」


 そう言って僕は部屋を後にした。

 そのまま、着替えを持って階段を下るとリビングの椅子にちょこんと座っている少女がいた。


「あ、そのお風呂空きました……」

「うん。ありがとう」


 やはり、怯えている。

 僕の一挙手一投足に注目し、特に視線に対して強い怯えを見せているように見える。


「……少し、話そうか」

「はっ、は、はい」


 なるべく優しく話しかけたはずだが、それでも彼女は怯えながらかしこまる。

 どうやら、トラウマに近い物らしい。


「あ、そう言えば名前聞いてなかったね。僕はアポロ」

「わ、あ私はカタリナと言います」

「カタリナね。よろしく、良ければなんだけど奴隷になる前は何をしていたとか教えてくれないかな?」

「……っ」


 彼女はこれまでとは圧倒的に深い怯えの表情を見せた。


「カタリナ、君は教会関係者だろう?」

「……」


 彼女は何も言わないが、その大きく見開かれた両眼が答えを示していた。


「……はい」

「それが、バレたらまた売られるかもしれないって思って言わなかったんだね」


 深く頷いた。


 なぜ、教会関係者だと不味いのか、これには理由がある。

 元々、奴隷は基本的に労働力・財産・権力の象徴・軍事利用などの理由によって購入されている。


 そして最近、人権意識の向上によって奴隷制度そのものが異常視されつつある。


「君のような教会関係者を売買するのは神への冒涜と考える人が増えた。それで、君を買ったとしても早々に手放す人が多かった……そんな所かな?」

「は、はい。いつも、買った後そのことがわかると売られるようになりました。酷いときは暴言も吐かれて……」

「奴隷商が、君を売るためにそのことを話すとは考えられないからね」


 そのこともあって、わかるのは買った後になりまた売られそれが蓄積するうちにトラウマになったという所だろう。


 もちろん、教会関係者だろうと気にしない人はいる。

 巡り合わなかったのは、ひとえに彼女の不運だ。


「でも、どうしてわかるんですか?教会関係者だって」

「確信を持つのは難しいんだけど、疑う要素はあったかな。奴隷の割に立つ姿が整いすぎてたり、一挙手一投足にちょっと出てるし、後は魔力の感じかな」

「魔力ですか?」

「うん。僕みたいな第一世代の魔術師が使う魔術と君たちが使う”神の奇跡”って似てるんだよね」


 神の奇跡


 教会の神に仕える者たちが使う力の総称である。

 なぜ、魔術や魔法ではないのかと言うとこの二つとは違い神の力を直接借り受けていると言われているからだ。


「元々、魔術って言うのは神の歌が源流でね。より、源流に近い君達って第一世代の魔術師と魔力のパターンが似てるんだ」


 歌のままでは普通の人間は使うことが出来なかった。

 それゆえに、諸説はあるが人間が使えるところまで貶め最適化して生まれたのが第一世代の魔術だと言われている。


 それをより進化させたのが第二世代以降が使う魔法である。


「でも、それじゃあ私が第一世代の魔術師の可能性もありますよね?」

「そうなんだけど、僕以外で第一世代の魔術を中心に使っている奴は見たことないから必然的に教会の人ってわかるんだよね」


 サブで使う人はいるが、僕みたいにメインでそれしか使わない人は見たことがない。

 それほど、第一世代の魔術師と言うのは数が少ないのだ。


「……それで、その私をどうするんですか?」

「うん?ああ、別にどうもしないよ。ただ、僕は君を買った。だから、この先の君の人生に責任を持つ必要がある」

「え?」

「だから、聞かせてほしい。カタリナ、君が何をしたいかを」


 おばあちゃんがかつての僕にしてくれたことを思い返した。

 その時と同じように優しい目で、優しい声で彼女の言葉を待つのだった。



魔法の進化

神の歌→魔術→魔法

と、このように進化していきました。

原型となる神の歌は高度すぎて人間には扱えず、それを貶めたのが魔術です。

後に第一世代と呼ばれるものです。

ですが、魔術は使いにくく暴発や様々な問題があったため、肉体に魔法を行使するため新たな臓器を作成することにしました。

それが、レリックに刻まれる模様を参考にしたと言われる刻印と呼ばれるものです(諸説あり)。

後に、刻印に魔力を入れて行使する物は魔法と呼ばれるようになりました。

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