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第12話・善人ぶりたい男



 結局、この剣を散々自慢したもののアフェから追加で一発頭に拳骨をもらうことになるだけだった。


「それじゃ、行くわよ。クランハウスに」

「うん。案内よろしく、ほら」

「え……?」


 彼女の呼びかけ通りこれからクランハウスに向かうのだが、その時奴隷の少女にそっと手を差し出す。


「手、繋ぐよ。ただでさえ、迷子になったら面倒だからね」

「えっと、その……」


 彼女は困惑したままその琥珀色の瞳を揺らしたが気にせず彼女の手を取った。


(細いな)


 そう感じてしまうほど、何か剣の柄でも握っているような細さだった。

 それと同時に、潰してしまわないようそっと力を緩めた。


 一方、奴隷の少女の方はずっと怯えていた。


(あの事がバレたら、また売られちゃう……)


 前回も前々回もそうだった。

 だから、今回もそうなるんじゃないかと思っていたのだ。


 なおかつ、今度また売られれば適当な貴族に愛玩用に売られてしまう可能性が高い。


(でも、この人たちは違う気がする)


 彼女の手はアポロが握っている。

 それと同時に運命も握られている。


(暖かい……)


 体は冷えてばかりなのに、手のぬくもりが彼女の心を温め始めていた。




 ***




 市場から歩くこと数十分程度、僕たちはクランハウスにたどり着いた。


「はい、着いたわよ」

「……えぇ?」


 思わず見上げながら、呆然と呟いてしまう。

 僕はてっきり彼女が一人用として迷宮都市の拠点の一つとして小さな物件を借りて活用していると予想していた。


 そして、クランハウスに使おうという事だろうと思っていた。


「ほら、早く入りなさい」

「いやいや!!ど、どういうこと!?」


 だが、目の前にそびえたっていたのは二階建ての木造一軒家だった。

 何なら、奴隷の少女も少し驚いているのが手越しにわかる。


 しかし、そんな僕たちに彼女は一瞥した後何も気にせず先に家に入った。


「入ろっか」

「はい」


 困惑はしているが、その場で立ち往生しているわけにもいかず手を引きながら彼女に続いた。

 中に入ると、内装は一階はリビングとキッチンなど、玄関のすぐ近く二階に上がる階段がある。


 どう考えても一人で暮らす家じゃない。


「それじゃあ、そこの部屋がお風呂だから。アポロは魔術で湯舟を沸かしてきて、この子を洗っちゃいましょ」

「う、うん」


 聞きたいことはあったが、有無を言わさぬ勢いで押されて僕は指さされた部屋に向かう。

 そこにあったのは僕が足をのばして浸かれるくらい大きな湯舟だった。


「『”水”よ。我が指先の前方10㎝先の横1m60㎝、深度50ⅽm、縦1m20㎝から出現し湯舟を満たせ』『”火”よ。我が指先の前方10㎝先の横1m60㎝、深度50ⅽm、縦1m20㎝の”水”と融合し熱せよ』」


 こういう生活に活用する応用はいくらでもやっているので手慣れた魔力操作で、人肌と同じくらいに熱する。


 すると、ちょうどいいタイミングで彼女が顔を出した。


「沸いた?」

「ああ、さっさと入れちゃおう」

「ええ、その間あんたは二階の自分の部屋で荷造りでもしときなさい。看板立て掛けといてるから」


 そして、僕は少女と入れ替わるように浴室を出た。

 すると、アフェが再び顔を出す。


「覗かないでよ」

「覗かないよ。ごゆっくり~」


 その一言に対して何か言い返すこともなく。

 振り向かず、軽く手を振ってその場を後にした。


「はあ、全く。僕は、治安官のお世話になる予定はないよ」


 何となくそう呟きながら階段を上っていくと、すぐそこに『アポロ』と名前の書かれた札が書かれた部屋を見つけた。


 ただ、それだけではなく廊下をよく見ると同じような部屋が後3つくらい見える。



 そして、中に入ると大体15㎡ほどの一人部屋として使うには十分な大きさの部屋だった。


(まるで、最初からここに僕を住ませる気だったような?)


 アフェが一人で暮らすために使っていると考えたら不自然だが、そう考えると納得できる。

 そう言えば、僕をここまで引っ張ってくるのも割と強引だったような気がする。


「……いや、考えるだけ野暮か」


 そう、結論を出すのをやめる。

 そして、マジックバックに入っている自分の荷物を出して荷造りを始めるのだった。


 すると、ちょうど部屋作りが終わったところで扉がノックされる。


「どうぞ」

「どう、荷造り終わった?」


 開けて入って来たのは寝間着に着替えたアフェであった。


「ああ、荷物もそんなにないしね。それで、あの子はどうだった?」

「殴られたような虐待の痕はなかったわ。でも、何度も奴隷紋を刻まれたような痕と常に何かに怯えてるみたいな素振りはあったかな」

「なるほどね」


 彼女もそう思ったのなら、そうなのだろう。

 そして、僕は薄々だが彼女が怯えてる理由も感づいている。


「でも、あんたはどうしてあの子を買い取ったの?」

「急にどうしたのさ」

「いや、単純な疑問よ。確かに、あんたは善人で変人よ。だけど、聖剣を売るなんて無茶を決行するほど馬鹿じゃない。何か理由でもあるんじゃない?」


 変人と言う所には異議を申し立てたいところだが、実にもっともな疑問だ。

 だが、僕には彼女が想像しているであろう高尚な理由なんてない。


「理由なんて、あの子が可愛かったからかもしれないよ」

「そんなのでいちいち聖剣を売ってたら埒が明かないわよ。それとも、あたしの前で善人ぶりたかっただけ?」

「そんな所かな。良心の呵責ってやつに……」


 鋭い視線が僕に注がれる。

 それに対して、適当にしのごうと弁舌を振るおうとした口を止める。


(いるな……誤魔化さない方がいいか)


 ちらっと扉の方に視線をやると――僕の”視界”にはなんの変化もない。


「僕、子供の頃奴隷だったんだよ」


 この告白はアフェだけじゃない

 おそらく、扉に近づき聞き耳を立てているだろう彼女にも向かって語り出した。



明日も三話投稿します。

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