第11話・聖剣よりかけがえのない物
そして、待つこと数分で僕はその場に帰って来た。
1枚、金貨100枚の価値を持つ白金貨3枚を手に持って
「これで、ちょうどだよな」
「はい!ありがとうございます。本当にありがとうございます!!」
もしかしたら、僕はセールストークに引っかかっただけなのかもしれない。
だが、深く頭を下げて感謝する奴隷商の姿を見ると少し心が軽くなった。
「それじゃあ、奴隷紋を刻むので少々……」
「いや、それは良い。別に、無くてもいけるんだろ」
「は、はい。ですが、珍しいですね。そのような指定をする方はごく稀です」
そりゃそうだろう、奴隷紋を刻んで主従を設定すれば奴隷は絶対服従だ。
それを、わざわざ行わない奴なんて馬鹿だ。
「それでは、そのようにしておきます。ですが、役所へは申請は行いますのでよろしいですか?」
「ああ、それでいい。アフェ、聞くのが遅れたんだけど彼女をクランハウスにおいてもいいかな?」
既に購入した後とはいえ、勝手に判断してしまったので恐る恐る彼女に確認した。
「いいわよ。あたしも、買った奴隷の子を外に置いとけて言うほど鬼じゃないわ」
「ありがとう」
そうこう話している内に手続きの準備が終わったのか、奴隷商が奴隷についていた足枷を外す。
足枷を嵌められていたので少し心配していたが特に体調面に異常はないようだ。
「ほら、行くよ」
「は、はい」
初めて奴隷の子の声を聞いた。
まだ幼い、おそらく齢は13、14歳ほどだろう。
「あっ」
その時、隣を歩いていたアフェが何か気づいたように立ち止まる。
とんでもない者を見る目で睨みつけてくる彼女に嫌な未来を感じ取った僕はさりげなく路地裏に移動した。
「あんた、剣は?」
「……ほら」
そう言って腰に下げてある剣の柄を見せる。
「違う。これ、さっきまで使ってた聖剣じゃないわね。まさか、あの白金貨って……」
「……」
「えっ、えっ」
僕たちの間に深い沈黙が流れる。
何が起きたかわからない少女はどうすればいいかわからず僕たちを交互に見続けている。
その空気に耐えられなくなった僕は口を割った。
「……売っちゃった」
「売っちゃったぁ!?」
彼女の口からこれまでで聞いたことのないくらいの声量で叫ばれる。
咄嗟に少女は耳を塞ぎ、僕はそれを一心に受けていた。
「う、売っちゃったって聖剣って売っていい物なの?ていうか、売れるようなものなの?」
「ま、まあ……売れちゃったし、もらった時何か困ったら売ってもいいって言ってたし」
あれは、元々僕が騎士時代にある貴族の令嬢を救ったときにもらったものだ。
その時の情景を今でも思い出せる。
令嬢の方が聖剣を持ち跪く僕の前に差し出してくれた。
『その、アポロ様。これをお受け取りください』
『こ、これは……私が頂いてもよろしい物なんですか?』
『はい。わたくしを救ってくれたことによる父とわたくしからのほんの気持ちですそ、それを抜くとき僅かでもわたくしのことを思い出していただけると嬉しいです』
そう言われて渡された聖剣の鞘から覗く輝きに思わず僕は息を呑んでいた。
『べ、別に戦いだけじゃなくて、アポロ様が生活に困ったときなども役に立つのなら売ってもらっても構いません』
『心より感謝いたします』
『ええ、それで、アポロ様のためになるのならわたくしは本望です。ですが、どうかわたくしのことを忘れないでくださいまし』
と、妙に赤い顔をしながら渡されたのをよく覚えている。
だが、この話をしたアフェからは未確認生物でも見つけたような視線で睨まれている。
「それを、本気にして売っちゃったの!?」
「本気?ていうか、あの方は売ってもいいって言ってたし……いいんじゃない?」
「それを!本気に!する奴が!!いるかぁあぁ!!!」
彼女の叫びと共に放たれた高速の右ストレートを避けるすべはなく、視界が目まぐるしく変わりながら吹っ飛んで行った。
そして、殴られた頬をさすりながら立ち上がる。
「な、何すんのさ!?」
「こっちのセリフよ!今のは、全ての乙女代表の拳だと思いなさい!」
なぜ、聖剣を売った話から乙女の話に変わっているのだろうか。
僕は何一つ理解することはできなかったが彼女が怒っていることはわかったのでこれ以上何も言うことはしなかった。
「じ、じゃあ聖剣を白金貨3枚程度で売っちゃったの?」
「即金で用意できるのが、それくらいが限界だったんだよ。それに、もらったのはそれだけじゃない」
そう言って抜いたのは聖剣と比べて格が落ちたと一目でわかる剣だった。
特に、夜も更けていたので自慢の刀身も輝きを放たず、余計に彼女の目にはしょぼく写った。
「あ、これ刻印が付いてるってことはレリックね」
「その通り!」
僕はレリックの刻印を通して魔力を剣に集めていく。
すると、赤、青、黄、緑、紫、橙、藍と七色に光出す。
「……これ、何?」
「店主の人曰く。七色に光る剣、レインボーソードだって!凄いでしょ、七色だよ!七色!!」
「こ、こんなゴミみたいなものと聖剣を交換してくるなんて」
「ゴミ!?いやいや、これ魔力を込めれば込めるほど光るんだよ」
この剣の有用性を示そうと思い切り魔力を込める。
すると、レインボーソードは光量をドンドン高めていく。
すると不思議ことにそのたびに彼女の顔は暗くなる。
「はあ、絶対に明日になったら『なんでこんなの買ったんだろう?』って思って後悔するあんたが想像できるわ」
「そ、そんなわけあるか!」
そう、彼女の予想は間違っている。
何故なら、僕は今現在進行形で後悔してるからだ。
(なんで、こんなのもらってきたんだろう。もっと、強い剣はあったのに)
単純に切れ味を上げる刻印を持つ剣や、斬撃を飛ばすもの、魂を吸う魔剣とか強そうなのがたくさんあった。
それらを選ばず、七色に光るだけの剣を買ってきてしまったのを確かに後悔していたのだった。
や、やりやがった!何で聖剣を大事なもの袋に入れてこなかったんだ!
ていうか、売れるんだね。
でも、俺たちが出来ないことを平然とやってのける!
そこに痺れる、憧れるぅ!




