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第10話・失敗と陳腐な同情



 暗がりの部屋の中で一人の男が机に拳を打ち付けていた。


「契約の紋章が消えた。どうなっている!!アークデーモンが殺されたというのか」


 彼が契約したフォラスは『透明化』と言う自身も見たことがない強力無比の魔法を使う悪魔だった。

 それを見た時、計画の成功を確信したというのに――


「くそっ、くそっ!!」


 彼は辺りの物に当たり散らし、最終的には花が生けてある見事な陶磁器の花瓶を地面に叩き割るまで続いた。


「いや、落ち着け逆に考えるんだ。また、新たな悪魔と契約すれば……ははっ」


 彼が開いた『保険金』と書かれた名簿の中には、イージスの名前も載っていた。




 ***




 迷宮の最下層に現れた謎の上位悪魔(アークデーモン)であるフォラスを倒した後、僕たちは無事に脱出することができた。


 だが、外はすっかり日が沈み、辺りの街灯だけが街を照らしていた。


「本当に、本当にありがとうございました。アポロさんとアフェさんのおかげで仲間たちを帰すことが出来そうです」

「いや、僕とアフェだけじゃない。君が、あの場で耐えていたからこそ助けることができたんだ。もっと自分に誇りを持った方がいい」

「そうよ。あたしはほとんど何もしてないしね」


 それに、彼女がアフェを守ってくれたからこそ僕は気にすることなく悪魔を相手どることができたのだ。

 それに、ゴブリンキングを前に逃げなかったからこそ、遺品を回収することができたのだ。


「それでは、私はここで失礼します」


 逃げたリーダーが少し気がかりであったが、その場で彼女と別れることにした。



 と言うことで、迷宮を出てすぐで彼女とは別れ僕とアフェは夜の街に入る。

 夜の街はもうすぐ、寝る時間だというのに目をつぶれば朝と思ってしまうほどの活気であふれていた。


「そう言えば、悪魔ってあんなに弱いものなのね。本だとすごく強そうに書かれてたんだけど」

「いいや、めちゃくちゃ強かったよ。あのフォラスって言う悪魔は使っている魔法も初めて見たし」


 今回の戦いは、正直言って勝てたのは僕に色々有利だったことに他ならない。


 最初の奇襲をたまたま察知し、聖剣が片腕を切り裂くなど、これらが無ければ僕はまだしも二人は殺されていた可能性が高い。


「そもそも、あんな狭いところで戦えたのもよかった。もし、外だったら更に厄介だったね」

「じゃあ、外だったら負けるの?」

「負けないよ。どんなに不利でも僕が勝つ。近くに守るべき誰かがいる限りはね」


 だから、さっきだっていつもより気合を入れて戦いに臨んだ。


「そ、そうなんだ……そこは、あたしって言ってくれないんだ」

「何か言った?」

「何でもない!」


 何か小声で言っていたような気がするが、教えてくれない。

 少し気になるが、そっぽを向く彼女を見てここで聞くのは野暮だと思いそれ以上聞くことはしなかった。


 街を歩いていると、突然声がかかる。


「おっ、兄ちゃん。若い子連れてるねえ。どうだい、奴隷が一人いると生活の助けになるぜ」

「……」


 少し小太りの男の隣には鎖で繋がれた女の子がいた。

 身長はアフェと同じくらいだが、栄養状態が良くないのかやせ細っている。


 それを見て、つい僕も黙ってしまった。


「奴隷商ね。規制も厳しくなったってのに商魂たくましいわね」


 最近、奴隷制度自体が崩壊しつつある。

 その裏にあるのは、人権意識の向上と言うのもある。


 だが、奴隷を無理に働かせて殺し保険金を手に入れるなど詐欺の手段として用いられるようになったことの方が大きい。


「へへっ、でしょう?」

「大体……アポロ?」

「っ、あ、ごめん。ぼーっとしてた」


 彼女に話しかけるまで、僕は無言で奴隷の彼女をずっと見ていた。

 そのせいか、少し怯えさせてしまったようだ。


「いや、何だかアポロが少し怒っているように見えたから」

「僕が、怒ってる?……まさか。店主さん、残念だけど僕たちあんまりお金がないんだ」


 特に僕なんて全財産を使い果たしたばかりだ。

 これ以上、アフェに迷惑をかける訳にも行かないし、早々に立ち去ろうとした。


「待ってくだせえ。あんた、相当強いだろ。立ち姿からなんとなくわかる」

「それで?」

「この子を買ってもらえねえか。もし、今日売れなかったらこの子はお頭が迷宮都市の外で適当な貴族の愛玩用として売り込むことになってるんだ。頼む、この通りだ!」


 深く、深く奴隷商の男は頭を下げる。

 おそらく、こいつは奴隷を管理している末端の人間だろう。


 それゆえに、奴隷と接する時間が長くなって感情が入ってしまった。


「……いくらだ」

「き、金貨300枚だ」


 まさかの、クラン創設と同じ価格だった。

 奇しくも結成前ならちょうど買える値段に運命のようなものを感じてしまう。


「金貨300枚!?ふざけんじゃないわよ。本当にあんたがその子を救いたいって思うならもっと安くしなさいよ」

「アフェ!」


 彼女を呼び止める。

 彼だってそうしたいのは山々だが、そんなことをすれば彼は仕事を失う。

 

 もしかすれば、お頭とやらに訴訟を起こされて借金を背負うことになるかもしれない。


(誰しもが勇敢でいられるほど僕たちは強い生き物じゃないからね)


 きっと、彼の中でも強い葛藤や罪悪感で苦しんでいるんだろう。


 だからこそ、こんな夜更けになっても誰か彼女を買ってくれる人がいないか探し続けている。


「アフェ。少し、ここで待ってくれる?奴隷商の君も」

「え、い、いいけど……どうするつもり?」

「少し考えがある」


 そう言って覚悟を決めた後、その場を去った。



今日はあと2話投稿するよ。

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