表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
欲望の教科書 肉蒲団 ―史上最も過激な仏教的自己啓発書―  作者: 光闇居士


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/23

第十八面:因果は巡る、美姫の堕落と驚異の秘技

挿絵(By みてみん)

「春宵一刻、因果のさざなみ」

『春宵夢幻』

清宵燭影語り継ぐ、

玉香の艶、夢まぼろし。

都に響くその名花、

いざや尋ねん、因果の淵。


【しおの】

さて、未央生が飽くなき享楽にその身を浸していた話はひとまず置き、彼の妻、玉香が辿ったその後の運命について語ることにいたしましょう。彼女は権老実に伴われ、侍女の如意と共に、逃避行の身の上となったのです。

ところが道中、玉香は突如として激しい腹痛に襲われます。天のいたずらか、皮肉なことに、家ではあれほど子を授かろうと心を砕いても恵まれなかったものが、旅の過酷さゆえか、はかなくもその身から流れ落ちてしまいました。あと数日、早くこの身に起きていたならば、これほどの騒動にはならずに済んだものを。今となっては逃げ出した身、もはや帰る場所もなく、残されたのはただ「駆け落ち者」という拭い難い汚名だけ。これもすべて、夫が積んだ悪しき業の報いが、巡り巡って妻である彼女の身に降りかかったと申せましょうか。

権老実が玉香を連れ出した真の目的は、復讐心からであり、決して情欲に駆られたものではありませんでした。当初から、彼女を色街に売り飛ばそうと目論んでおりましたが、その身に子を宿していたため、実行をためらっていたのです。しかし、その子が流れた今、彼の心は定まりました。主従を都へと連れ立ち、宿屋に身を寄せると、密かに買い手を探し始めたのでした。

もとより、良家の娘をくるわに売るには、巧妙な手管が必要となります。「都にいる親類に、住まいを探してもらおう」と偽り、客が品定めに来るその時まで本人には悟らせないのが、その常套手段でした。

都には、顧仙娘という名の知れた遣手婆がおりました。彼女は玉香を一目見るなり、これこそまたとない逸材であると見抜き、提示された身代金を即座に支払うことを決断します。侍女の如意もそのまま召し使うという条件で、二人を買い取ったのでした。

玉香を売り払った後、権老実の心のうちに、言い知れぬ悔恨の念が芽生え始めました。「仏の教えにこうある。『前世の因を知りたければ、今生で受けている報いを見よ。来世の果を知りたければ、今生での行いを見よ』と。我が妻が不義を働いたのも、あるいは前世で私が人の妻を犯した報いなのかもしれぬ。それを逆恨みし、人の妻を弄んだばかりか、あろうことか廓に売り飛ばすとは。なんという恐ろしい業を、私は重ねてしまったことか……」

彼は自らの所業に慄き、恥じ入り、玉香を売って得た金銭のすべてを、貧しい者や病に苦しむ者たちに施しました。そして自ら髪を剃り落とし、頭陀の衣をまとって、行脚の旅へと出立したのでした。その後の彼が、括蒼山にて生ける仏と謳われた孤峰長老と出会い、二十年に及ぶ厳しい修行の末に悟りを開くことになるのですが、それはまた、別の物語でございます。

さて、花柳界へと身を落とした玉香は、顧仙娘の家で、自らが置かれた過酷な境遇をここでようやく悟るのでした。いかに貞淑な夫人であろうと、一度この門をくぐれば、もはや逃れる術はありません。ましてや、玉香はすでに操を失った身の上です。彼女は観念し、この青楼で生きてゆく術を身につけようと心に決めたのです。彼女は新たな源氏名を名乗ることになりましたが、物語の都合上、ここでは引き続き「玉香」と呼ぶことにいたします。

初めの夜、さっそく富裕な客が彼女を求めました。ところが、夜が明けるやいなや、客は早々に帰ると言い出すのです。仙娘が引き留めるのも聞かず、男はこう言い残しました。

「この娘は、容姿も気品も申し分ない。だが、あの『三つの至芸』が欠けている。しかと仕込みなさい。その技を身につけた頃に、また訪ねるとしよう」

そう言い残し、男は去って行きました。

この顧仙娘には、並の女には到底真似のできぬ、三つの奥義がありました。彼女自身、若い頃の容姿は人並みでしたが、三十年以上も名妓としてその名を馳せたのは、ひとえにこの技があったからに他なりません。四十、五十の坂を越えてもなお、貴公子たちが彼女のもとに列をなしたというのですから、その凄さが知れましょう。

一つ目の技は「俯陰就陽」。これは女が男の上にまたがるものですが、ただ跨がるのではありません。立ち上がっては激しく、座しては巧みに合わせる。常の女であればすぐに膝が痺れてしまうところを、彼女の膝はまるで鋼のようで、動けば動くほどに力を増し、男を悦ばせるだけでなく、自らもまた深い悦楽の境地へと至るのです。

二つ目の技は「聳陰接陽」。今度は女が下に身を横たえますが、決して男の成すがままにはなりません。男が進めば腰を浮かせて迎え入れ、男が退けばしなやかに身を引く。それは男の力を助けるばかりか、自らの悦びをも高める、妙なる呼吸とも言うべきものでした。もし女がただ横たわっているだけならば、それはまるで土人形に穴を穿つようなもの。真の名妓たるもの、この呼吸を知らねば男心を掴むことはできないのです。

そして三つ目の、最も深遠なる技が「捨陰助陽」。これは事を終える間際、女の精気を一滴も漏らすことなく男の身へと注ぎ込み、相手に活力を与えるという、究極の術でした。快楽の頂点が近づくと、彼女は男の動きを制し、ある一点をぴたりと合わせさせます。そして不思議な術によって、男は彼女の精気を吸い上げ、己が丹田へと至らせるのです。その力は、高価な人参や不老不死の霊薬をも凌ぐ滋養となると言われました。かつて十六の折に、ある異人から授かったというこの秘術によって、彼女と一夜を共にした男はみな、不思議と若返り、顔には生命の輝きが満ち溢れたといいます。人々が彼女を「仙女の生まれ変わり」と噂し、「仙娘」と呼ぶようになったのも、これが所以でした。

玉香は、当初これらの術を知りませんでした。かの客が不満を漏らしたのも無理からぬことでした。仙娘は「あのような上客を逃すとは何事か」と憤り、玉香を鞭で打とうとさえしました。玉香は泣いて許しを請い、それからの数ヶ月というもの、一心不乱にこの秘技の習得に励んだのです。天賦の美貌と教養に加え、この比類なき技を身につけた彼女の名は、たちまち都中に響き渡りました。

数多の客の中でも、とりわけ彼女を贔屓にしたのが、瑞珠と瑞玉の夫である臥雲生と倚雲生の兄弟でした。都に滞在していた二人は、競うように玉香のもとへ通い詰め、ついには二人で彼女を独占するまでになったのです。さらには、香雲の夫である軒軒子までもがその輪に加わり、彼もまた玉香との交情によって「老いてますます盛ん」になったと、彼女の身体を「飲む霊薬」のようだと絶賛したのでした。

一年が過ぎた頃、臥雲生兄弟は望郷の念に駆られ、暇を得て故郷へと戻りました。三人の妻たちは夫を迎え、都でどのような女と過ごしていたのかと問いただします。夫たちは妻たちに、玉香との日々を語り、かの「三つの至芸」について得意げに語って聞かせたのです。

翌日、香雲、瑞珠、瑞玉の三姉妹は顔を合わせ、昨夜の話を交わしましたが、みな一様に驚きを隠せませんでした。

「そんな、まるで化け物のような女がいるなんて、とても信じられないわ。きっと、私たちの気を引くための作り話よ」と瑞珠と瑞玉は言います。

しかし、香雲は首を振り、「あの方(未央生)ならば、世間の様々なことに通じていらっしゃるはず。今度いらした時に、本当かどうか尋ねてみましょう」と答えました。

折りしも清明節。夫たちが墓参りで家を空けた夜、三人は未央生を奥座敷へと招き入れました。話を聞いた未央生は、こう答えます。

「妓女の中には、それほどの天賦の才を持つ者がいるやもしれぬ。いずれ都に上った折に、この私がその目で確かめてまいろう。もし私の相手が務まるほどの女であれば、それはまことの怪物に違いない」

その夜、四人と共に枕を交わした後、未央生の心は決まりました。

(三人の夫が口を揃えて言うからには、偽りではあるまい。私の精気も、この四、五人の女たちに吸われ、ややもすると枯れ果てそうだ。かの女が使うという吸精の術とやらを学び、我が身の滋養としなければなるまい)

未央生は一度故郷へ帰り、妻の様子を確かめた後、都へ上り、その名高き妓女を訪ねようと、固く心に誓ったのでした。

しかし、この旅こそが、天をも揺るがす数奇な因縁の幕開けとなろうとは、彼自身、知る由もありませんでした。彼の胸に宿る憤りは、東の泰山を覆してもなお足らず、その身に受ける恥辱は、西江の水をすべて汲み尽くしても、到底洗い流すことのできないものとなるのです。

その顛末は、また次のお話にて。

________________________________________

作者曰く

未央生の情欲と悪行は、もはや極まったと言えよう。その報いとして、ただ妻が不義を働くというだけではまだ生ぬるい。妻が娼婦に身を落とすだけでも、まだ足りぬ。あろうことか、その妻が、かつて自らが手籠めにした女たちの夫を新たな客として迎える……。これこそが、因果の極みではないか。この物語に登場する者で、その報いから逃れられる者は一人としていない。好色風流の罪を犯した者がこれを読めば、きっと全身から冷や汗が流れるのを止められぬことであろう。これほどまでに「因果応報」の理を説き明かした書を、熟読せずしてどうすることができようか。


『因果は巡る、美姫の堕落と驚異の秘技』入魂解説


一. 第十八回の要約

未央生の妻・玉香は、権老実との逃亡中に流産してしまいます。これにより、彼女を娼婦に売ることを決意した権老実によって、都の遣手婆・顧仙娘のもとへ売られてしまいました。売却後、権老実は自らの行いを悔い、仏門に入ります。

一方、娼婦となった玉香は、当初は客を満足させられませんでしたが、顧仙娘から「三種の絶技」という究極の房中術を伝授されます。この秘技を体得した玉香は、たちまち都一の名妓となりました。

その評判は、偶然にも香雲、瑞珠、瑞玉の夫たち(臥雲生、倚雲生、軒軒子)を虜にします。彼らは故郷に帰ると、妻たちにその名妓の素晴らしさを自慢げに語りました。話に興味を持った三姉妹は、閨で共に過ごしていた未央生にその真偽を尋ねます。

未央生は、自身の精気の衰えを補うため、そしてその未知なる技への好奇心から、自らその名妓を確かめに都へ行くことを決意します。しかし彼は、その相手が自らの妻・玉香であるとは夢にも思っていませんでした。物語は、この恐るべき因果が交錯する直前で幕を閉じます。


二. 各場面の魅力の深掘り

この回は、劇的な場面の連続ですが、特に以下の三点が読者を強く惹きつけます。

1.皮肉な運命の転落と、権老実の回心

あれほど望んでも得られなかった子供を、最も絶望的な状況で失うという玉香の悲劇は、運命の残酷さを際立たせます。しかし、物語は単なる悲劇に留まりません。彼女を地獄に突き落とした張本人である権老実が、その直後に自らの罪を悟り、すべてを捨てて仏道に入るという急展開は、この物語の根底にある「罪と罰、そして救済」というテーマを強烈に印象付けます。彼の回心は、因果応報が単なる復讐譚ではなく、人間の魂の変容をも描く、より深い射程を持つ物語であることを示唆しています。

2.「三種の絶技」に見るエロティシズムの昇華

この物語が他の艶書と一線を画すのは、性の描写を単なる情欲の描写に終わらせず、一つの「道」や「術」へと昇華させている点です。「俯陰就陽」「聳陰接陽」「捨陰助陽」という具体的な名称と理論を持つこれらの技は、エロティシズムに哲学的な深みと神秘性を与えています。特に第三の「捨陰助陽」は、相手に滋養を与えるという道教的な採補の思想が色濃く反映されており、玉香が単なる快楽の対象から、生命力を与える「仙女」のような存在へと変貌を遂げる重要な要素となっています。読者はここに、官能的な興奮と同時に、ある種の様式美と神秘主義的な魅力を感じるのです。

3.因果が交錯する閨での密談

本章のクライマックスであり、物語構造の巧みさが最も光る場面です。未央生が、香雲たち三姉妹と枕を交わしながら、話題の的となっている名妓の話を聞く。この時、登場人物たちは誰もその恐るべき事実に気づいていません。

未央生は、自分の妻がその名妓だとは知らない。

三姉妹は、夫を虜にした女の話を、その女の夫である未央生にしているとは知らない。

夫たちは、自分たちが囲った名妓が、友人(未央生)の妻だとは知らない。

この「無知の連鎖」が生み出す強烈な皮肉アイロニーこそが、この場面の最大の魅力です。読者だけがすべての関係性を知っているため、登場人物たちの何気ない会話の一つ一つが、破滅へのカウントダウンのように響き、息を呑むような緊張感を生み出しています。


三. 物語の背景にある「因果」の検証

この回は、物語全体を貫く「因果応報」というテーマを、最も鮮やかかつ残酷な形で体現しています。

未央生の「ごう」の具現化

未央生が犯した罪は「他人の妻を犯し、その家庭を崩壊させたこと」です。その報いは、単純に彼が不幸になることではありません。彼の行いが鏡のように反射し、「自分の妻が、自分が寝取った女たちの夫たちに、自らが望んだ究極の性的奉仕をする」という、これ以上ないほど屈辱的で歪んだ形で返ってくるのです。彼が他人の家庭で撒いた種が、巡り巡って自分の家庭を、最も耐え難い形で破壊する。この緻密に計算された円環構造こそが、本作が描く因果応報の恐ろしさです。

女性の受難と、その中での「生存戦略」

玉香は、夫の業の最大の被害者です。良家の妻から娼婦へと、本人の意思とは無関係に転落させられます。しかし、物語は彼女をただの哀れな被害者として描きません。彼女は絶望的な状況下で「三種の絶技」を習得し、その世界で頂点に立つという、皮肉な形での「成功」を収めます。これは、過酷な運命に翻弄される女性が、与えられた環境の中で生き抜くために、自らの「性」を究極の武器として磨き上げるという、壮絶な生存戦略の物語とも読み解けます。彼女の変貌は、未央生への復讐の道具であると同時に、彼女自身の生きるための闘いの証なのです。

欲望の探求と、その果てにある破滅

未央生が都へ向かう動機は、単なる好奇心だけではありません。「精血もこの四、五人の女たちに吸われすぎて枯れかかっている」と感じ、相手を滋養するという「捨陰助陽」の術に解決策を見出そうとします。つまり、彼の飽くなき欲望の探求が、結果的に自らの精気を枯渇させ、その回復のために更なる欲望を求めた結果、自分自身が作り出した最大の地獄へと足を踏み入れることになるのです。欲望が欲望を呼び、最終的に自己破滅に至るという構造は、人間の業の深さを描き出しています。


この回は、物語の駒がすべて揃い、破滅的なクライマックスに向けて運命の歯車が噛み合う決定的な回です。それは読者に強烈な官能と興奮を与えると同時に、精緻に組み立てられた「因果の罠」の恐ろしさを見せつけ、物語全体のテーマを深く心に刻みつける、まさに根幹となる出来と言えるでしょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ