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欲望の教科書 肉蒲団 ―史上最も過激な仏教的自己啓発書―  作者: 光闇居士


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巻の四覚後禅冬編、第十六面:密室の蘭画箱と、暴かれた情事

挿絵(By みてみん)

『蘭画箱、開帳』

画箱開きて 露わなる白き肌

晨姑の笑み 凍てつく夜の闇

姉妹の瞳 絶望の色に染まりて

ただ無情なる 運命の輪は廻る


【しおの】

詩に曰く。

乙女の心は春の陽気に誘われ、

小さな部屋でひとり、青絹の刺繍に想いを込める。

鴛鴦おしどりのつがいを縫い上げたその時、

ふと刺繍針が折れる。

描いた幸せは、かくも脆く、邪魔が入りやすいものか。


香雲、瑞珠、瑞玉の三姉妹は、未央生を屋敷の奥深くにかくまい、睦み合う日々を送っていた。当初は一夜ずつ、順に伽を務めるのが習いであった。しかし、何度かその甘い夜の杯が巡るうちに、未央生は新たな愉しみを思いついた。彼はそれを「三つが一つにべる」と名付けた。三晩をそれぞれに過ごしたのちは、必ず一夜、三姉妹と共に過ごすことを決まりとしたのである。

姉妹がみなで肌を寄せ合う歓びを知ってからは、部屋にはとりわけ幅の広い寝台が運び込まれ、五尺もの長さがある枕と、八幅の大きな掛け布団が誂えられた。三人が一つになる夜ともなれば、姉妹は絹のように滑らかな肌を並べて横たわる。未央生は畳に下りることなく、その柔らかな三つの身体の上を転げるように戯れた。興が乗るたびに相手を替え、思うがままに情を交わしたのである。

幸いにも、三人の女たちは情の深さにこそ違いはなかったが、一度の愛で満たされる時間はさほど長くはなかった。百度、二百度と愛の波に揺さぶられれば、たちまち悦びの頂に達してしまう。それゆえ、一夜のうちに左、右、中央と順に相手をしても、夜半にはひと通りの睦み言を終えることができた。残された時間は、心ゆくまでその温もりを愛で、芳しい香りを味わい尽くすためのものであった。

ある日のこと、香雲たちは密やかに顔を寄せ合った。

「これほどの宝物を私たちだけで分かち合えるのは、夢のような幸せ。でも、好事魔多しと言うわ。誰かに気づかれ、噂でも広まれば、あの方をここには留めておけなくなる」

すると瑞珠が憂いの表情で口を開いた。

「この屋敷は奥に深いから、めったに人は入ってこない。けれど、ただ一人、恐ろしい女がいるわ。…あの晨姑しんこよ」

「誰のこと?」と香雲が問うと、瑞珠は声を潜めて続けた。

「あの未亡人よ。あの女は、片時も殿方のことを忘れられぬ、どうしようもなく性の淫らな女。あの日、お寺へ参拝に行った時も、あの方を一目見て、腰を抜かさんばかりに見惚れていたではないの。もし、あの方がこの屋敷にいると知れたら、嫉妬に狂って何を仕掛けてくるか分かったものではないわ」

瑞珠は二つの策を提案した。一つは、女中たちを交代で見張りに立たせ、晨姑が近づいたら咳払いやらで合図をさせること。もう一つは、万が一の時に、決して人に見つかることのない隠れ場所を用意しておくことだった。

三人が知恵を絞るうち、瑞珠の目が部屋の隅に置かれた、竹編みの長大な画箱に留まった。古い絵を納めるための箱で、長さは六尺、幅は二尺、深さは三尺ほどもある。外は細やかな竹編みで、内には薄い板が張られていた。

「この中の絵を片付ければ、殿方が一人、横になれるわ。息が詰まらないように、内側の板を二枚ほど外しておけばいい」

この案はすぐに決まり、未央生にも「合図があれば、すぐにこの箱へお隠れください」と固く言い含めた。それ以来、晨姑が何度か抜き足差し足で部屋の様子を窺いに来たが、そのたびに未央生は素早く箱に身を潜め、危ういところを逃れてきたのであった。

しかし、運命のいたずらか、ある日事件が起こった。三姉妹が未央生の荷物を整理していると、中から一冊の冊子が見つかったのだ。頁をめくると、そこには彼が出会った女たちの美しさを格付けし、赤裸々な批評までが書き連ねてあった。

未央生は笑って説明した。

「これは、寺にいた頃に書き留めた名簿のようなものさ。いつか、選りすぐりの伴侶を得たいと願ってね。その最高峰である『玉筍ぎょくじゅんの門弟』こそ、他の誰でもない、そなたたち三人なのだよ」

姉妹は得意満面でその批評を読み耽った。だが、巻末に「玄色の佳人」という名を見つけ、その類まれな賛辞が自分たちへのものと比べても何ら遜色ないことに気づいた。

「これは…いったい誰のことですの?」

未央生が「ああ、あの日、寺にいた年配の婦人だよ」と答えるやいなや、三人の表情は一変した。

「あのような年増と、私たちを同じ列に並べるなど! 私たちの品位まで汚れますわ!」

怒りに燃えた瑞珠は筆を執ると、三人の名と批評を墨で塗り潰し、その横にこう書き殴った。

『淮陰は若く、絳灌は老いたり。同列に並ぶは畏れ多く、謹んで位を譲り奉らん』

(若き英傑は、年老いた重臣とは席を共にしない。私たちは身を引きますゆえ、どうぞその年増のところへお行きなさい!)

未央生が平身低頭して謝り、ようやく三人の機嫌が直ったところで、彼は再び愛を求めて衣を脱ぎ捨てた。三人もそれに倣い、順に帯を解こうとした、まさにその時であった。

――コン、コン。

見張りの女中が、鋭い咳払いの合図を送った。晨姑が来たのだ。

三姉妹は大慌てで衣をかき集めて身に纏ったが、生まれたままの姿であった未央生は、己の着物を探し出す暇もなかった。彼はそのまま画箱に飛び込み、音を立てぬよう、そっと蓋を閉じた。

部屋に入ってきた晨姑は、三人の狼狽ぶりから何かを直感した。彼女はわざとらしく部屋の調度を褒めそやしながら、寝台の裏から戸棚の中まで、執拗に視線を巡らせたが、怪しいものは何も見当たらない。

諦めて腰を下ろそうとした時、晨姑の鋭い目が、机の上に置かれたままの冊子を捉えた。香雲たちが慌てて手を伸ばしたが、一歩早く、それは晨姑の手に渡ってしまった。

頁をめくった晨姑は、息を呑んだ。そこに「玄色の佳人」として描かれているのが、紛れもなく自分自身のことだと知ったからだ。さらに、瑞珠が書き殴った皮肉の言葉を目にし、すべてを悟った。彼女は冷たく微笑んだ。

「『姦』という字は、女が三人と書きますものね。あなたたち三人がここで何をしていたか、この本が物語っているわ。さあ、これを書いた殿方をお出しなさい。さもなくば、この本をそっくりそのまま、あなたたちの夫のもとへ送り届けてやりますよ」

三人が「拾った本です」と言い逃れをすると、晨姑は部屋の中で唯一、錠が下ろされた画箱に目をつけた。

「この箱を開けて見せなさいな。さぞかし見事な名画が収められているのでしょう」

鍵がないと拒む姉妹を鼻で笑い、晨姑は自邸から大量の合鍵を持ってこさせると、ついにその錠を開けてしまった。

蓋が開くと、そこには雪のように白い裸身の男が、身を縮めて横たわっていた。その股間にあるものは、眠っている時でさえ、見る者を畏怖させるほどの威容をそなえていた。

この世のものならぬ獲物を目の当たりにした晨姑は、独り占めにすることを心に決めた。彼女は三人を厳しく問い詰めた。

「いつからこの男を囲っていたの? 白状しないのなら、役人を呼び、ご近所中の見せしめにしてやるわ!」

顔面蒼白となった三姉妹は、裏で相談し、震える声で和解案を申し出た。

「申し訳ございませんでした…。この方を、私たち四人で分かち合うというのは、いかがでしょう」

しかし、晨姑はそれを聞いて大笑いした。

「何を言っているの。あなたたちは今まで存分に味わったのでしょう? 私はまだ一夜たりとも共にしていない。それではあまりに不公平だわ。まずはこの男を私の屋敷へ連れて帰る。そして、あなたたちが楽しんだのと同じ日数だけ、私に尽くさせる。それで貸し借りがなしになってから、改めて順番とやらを決めましょう」

三姉妹は、未央生が正直に日数を話さぬことを、ただ神に祈るような気持ちで承諾するしかなかった。

昼日中に男を連れ歩くわけにはいかない。晨姑は一計を案じ、「この画箱はもともと我が家の品だ」と偽ると、屈強な男衆を四人呼び寄せた。彼らは重い画箱をやすやすと担ぎ上げ、飛ぶような速さで晨姑の屋敷へと運んでいった。

三姉妹は、まるで夫の棺を見送る未亡人のように、その遠ざかる後ろ姿を、ただ悲しげに見つめることしかできなかった。愛しい殿方を、まるで生きた春画さながらに箱ごと奪われたばかりか、あの淫らな女に骨の髄までしゃぶり尽くされてしまうのではないか。

箱というものは、時に棺桶にも似る。それは三人の女たちにとって、あまりにも不吉な未来の予兆に他ならなかった。


作者曰く

寺での出会いを思えば、晨姑との情事が真っ先に訪れるかと誰もが予想しただろう。だが、物語は瑞珠たちを先に選び、晨姑はその後塵を拝することとなった。思うに、作者の狙いは、最も容易く手に入ると思われたものを、あえて最後の大一番に据えることにあったのではないか。これこそが、物事の道理の奇妙さであり、運命の幻のような移ろいを示すものなのである。

第十六回の総合解説

1. 簡潔な要約

三姉妹(香雲、瑞珠、瑞玉)と未央生は、三対一の倒錯的でありながらも安定した関係を築いていた。しかし、淫蕩な未亡人・晨姑の存在を恐れた姉妹は、未央生を隠すための「竹編みの画箱」を用意する。ある日、未央生が過去の女性を格付けした冊子を姉妹が見つけ、嫉妬から口論となる。その騒動の最中に晨姑が来訪し、隠れるのに精一杯だった未央生は冊子を部屋に残してしまう。冊子からすべてを察した晨姑は、画箱の中に裸で隠れていた未央生を発見。姉妹を脅迫し、未央生を「証拠品」として画箱ごと自邸へ運び去ってしまう。姉妹は愛する男をなすすべなく奪われ、絶望に暮れるのであった。


2. 各場面の魅力の深掘り

この巻は、緊張と緩和、喜劇と悲劇が目まぐるしく入れ替わる、非常に演劇的な構成が魅力です。

序盤:倒錯的な日常の「楽園」

物語の冒頭で描かれる「三位一体」の睦み合いは、一見すると単なる官能描写ですが、その実、この時点での未央生と姉妹たちの関係が「完成された閉鎖世界」であったことを示しています。特注の寝具、確立されたルール。それは外部の脅威から隔絶された、彼らだけの楽園でした。この完璧な日常が描かれるからこそ、後の崩壊劇がより一層際立ちます。

転換点:「品定めの冊子」が招く亀裂

この物語の巧妙さは、最大の脅威である晨姑が直接手を下す前に、主人公たち自身の内側から崩壊のきっかけが生まれる点にあります。未央生の軽薄な「格付け冊子」は、彼の男性的な自尊心と、女性を所有物と見なす価値観の象徴です。姉妹の怒りは、単なる嫉妬ではありません。それは自分たちが「品定め」される客体であることへの抵抗であり、未央生への愛が深いがゆえのプライドの表明です。瑞珠が書き加えた皮肉な一文は、彼女の知性と激しい気性の表れであり、この後の悲劇の直接的な引き金となる、見事な伏線です。

クライマックス:「画箱」の密室が開かれる瞬間

この巻の白眉は、晨姑が画箱を開ける場面に集約されています。

静寂のサスペンス:晨姑の執拗な捜索、合鍵を探させる間の焦燥感、そして錠前が音を立てて開く瞬間まで、読者の緊張は極限まで高められます。

視覚的な衝撃:蓋が開かれた瞬間、そこに広がるのは「雪のように白い裸身の美男子」という、まるで美術品のような光景です。それまで物語を動かしてきた主人公が、ここでは完全に無力な「物」として発見される。この主客の転倒が鮮烈な印象を残します。

力の逆転の確定:この発見により、それまで秘密を共有する共犯関係にあった女性たちの力関係は完全に逆転します。晨姑は絶対的な「発見者」「所有者」となり、姉妹は「罪人」へと転落するのです。


3. 物語の背景にある意味の検証

この巻は単なる情事の顛末ではなく、人間の欲望と運命の皮肉を鋭く描いています。

権力構造の流転

物語の序盤、未央生は三人の女性を同時に支配する「王」でした。しかし、冊子の一件でその権威は揺らぎ、晨姑の登場によって彼は完全に「所有物」へと成り下がります。晨姑は腕力ではなく、「情報(冊子)」と「社会的な正義(姦通を告発する権利)」を武器に、絶対的な権力を握ります。この物語は、性の支配関係がいかに脆く、社会的な立場や情報という別の力によって容易に覆されるかを見事に描き出しています。

「箱」に込められた象徴性

この巻の鍵となる小道具「画箱」は、非常に多層的な象徴です。

避難所シェルター:当初は未央生を外部の脅威から守るための安全な場所でした。

密室トラップ:しかし、それは同時に彼を閉じ込める罠にもなりました。

宝箱トレジャーボックス:晨姑にとっては、手に入れるべき極上の獲物が入った箱です。

棺桶コフィン:最終的に、姉妹にとっては愛する男との幸福な日々を葬り去る棺桶として、不吉な象徴へと変貌します。

一つの道具が、状況と視点によってその意味を劇的に変えていく様は、本作の文学的な深さを示しています。

「好事魔多し」という運命の皮肉

巻末の評にある通り、この物語は運命の皮肉に満ちています。姉妹が安全のために用意した「画箱」が、結果的に未央生を閉じ込め、彼を奪われる原因となりました。また、未央生への愛を確認し合った直後に、彼の過去の過ち(冊子)が原因で最大の危機を招きます。自分たちの幸福を守ろうとする行為そのものが、破滅の引き金を引いてしまう。この構造は、人間の計画がいかに運命の前で無力であるかという、普遍的なテーマを内包しているのです。


以上のように、第十六回は官能的な描写の中に、緻密なプロット、鋭い人間観察、そして深い象徴性を織り込んだ、物語全体の流れを決定づける重要な章と言えるでしょう。


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『肉蒲団』第十六回と共鳴する外国文学

1. 心理戦と破滅の美学:ラクロ『危険な関係』(18世紀フランス)

最も強い類似性を持つ作品は、間違いなくラクロが書簡体小説として描いたこの傑作でしょう。

深掘り解説:

『危険な関係』は、快楽主義者のヴァルモン子爵とメルトイユ侯爵夫人が、貴族社会という閉鎖空間を舞台に、手紙を武器として人々を陥れる性のゲームを描いた物語です。

共通点①「記録媒体の致命的な役割」:『肉蒲団』で未央生の「品定めの冊子」が彼の運命を決定づけたように、『危険な関係』では登場人物たちが交わす「手紙」がすべての愛憎の証拠となります。この「書かれた言葉」が他者の手に渡った時、秘密は暴露され、社会的な破滅が訪れます。どちらの作品も、密やかな情事が物的な証拠によって暴かれるサスペンスを核としています。

共通点②「性の支配者の転落」:ヴァルモン子爵は未央生と同様、多くの女性を征服する男性主人公です。しかし、最終的には共犯者であったメルトイユ侯爵夫人との権力闘争に敗れ、命を落とします。『肉蒲団』で未央生が晨姑によって「物」として略奪されるように、性のゲームの支配者が、より狡猾な女性によって被支配者へと転落する構図は全く同じです。

相違点と文化の反映:ただし、両者には決定的な違いがあります。『危険な関係』のゲームは、あくまで「社会的評判」をめぐる心理戦です。破滅は決闘や社交界からの追放という形で訪れます。一方、『肉蒲団』では、晨姑が未央生の「身体そのもの」を画箱ごと物理的に強奪します。この違いは、体面と名誉を重んじるフランス貴族社会と、より直接的で即物的な欲望が渦巻く中国の市井しせいとの文化的な対比を浮き彫りにしており、非常に興味深い点です。


2. 侵入者と家庭の崩壊:モリエール『タルチュフ』(17世紀フランス)

喜劇的なドタバタ劇と、家庭の秩序が外部からの侵入者によって脅かされるという構造は、フランスの喜劇王モリエールの作品、特に『タルチュフ』と共通しています。

深掘り解説:

『タルチュフ』は、敬虔な偽善者タルチュフが裕福なオルゴン家に取り入り、その財産や妻までも手に入れようとする物語です。

共通点①「侵入者による秩序の破壊」:晨姑が三姉妹と未央生の築いた「楽園」に土足で踏み込み、その中心人物を奪い去るように、『タルチュフ』では偽善者タルチュフが一家の父オルゴンをたぶらかし、家庭の秩序を根底から破壊します。晨姑もタルチュフも、標的の弱み(姉妹の姦通/オルゴンの盲信)につけ込むことで、内部からコミュニティを崩壊させる侵略者なのです。

共通点②「隠れる・見つける」という演劇性:『肉蒲団』で未央生が画箱に隠れ、晨姑がそれを見つけ出す場面は、非常に演劇的です。これは、モリエール喜劇で多用される「クローゼットやテーブルの下に人物が隠れ、会話を盗み聞きする」という古典的な手法ファルスと全く同じ構造です。滑稽さと緊張感が同居するこの手法が、物語を劇的に盛り上げます。

相違点と道徳観:モリエールの喜劇が、最終的には王の権威によって偽善者が裁かれ、正しい秩序が回復する「勧善懲悪」の物語であるのに対し、『肉蒲団』のこの場面は悪(=欲望に忠実な強者である晨姑)が完全に勝利します。ここには、道徳的な解決よりも、赤裸々な欲望の力学をありのままに描こうとする『肉蒲団』の非情な世界観が表れています。


3. 艶笑と人間の本性:ボッカッチョ『デカメロン』(14世紀イタリア)

人間が持つ根源的な性欲を、ユーモアと生命力をもって肯定的に描く姿勢は、ルネサンス期の名作『デカメロン』と通底しています。

深掘り解説:

『デカメロン』は、ペストから逃れた男女10人が語る100の物語集です。その中には、夫や聖職者の目を盗んで情事を重ねる、機知に富んだ艶笑譚が数多く含まれています。

共通点:「隠れる恋人」のモチーフ:『デカメロン』の姦通譚には、『肉蒲団』の画箱のように、恋人を「大きな箱や樽の中に隠す」という話が頻繁に登場します。そして、何も知らない夫がその箱を売ってしまったり、開けてしまったりするドタバタ劇が繰り広げられます。この古典的なプロットは、人間の知恵と愚かさを浮き彫りにする装置として機能しており、『肉蒲団』もこの伝統的な物語の型を巧みに利用していると言えます。

相違点と物語のトーン:『デカメロン』の物語は、たとえ姦通が発覚しても、登場人物の機転やユーモアによって明るく解決されることが多い、人間賛歌の物語です。しかし『肉蒲団』第十六回は、同じモチーフを使いながらも、愛する者を完全に喪失するという悲劇的で絶望的な結末を迎えます。これは、物語全体を貫く仏教的な「因果応報」の思想が、単なる艶笑譚に終わらせない深みと無常観を与えているためです。


このように、『肉蒲団』第十六回は、西洋の心理小説、風刺喜劇、艶笑譚といった異なるジャンルの傑作と様々なレベルで共鳴しあっています。それは、この物語が描く嫉妬、独占欲、権力欲といったテーマが、国や時代を超えて人間の本質に深く根差していることの何よりの証明と言えるでしょう。

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