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欲望の教科書 肉蒲団 ―史上最も過激な仏教的自己啓発書―  作者: 光闇居士


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⭐スペシャル企画ー武侠の原点『風塵三侠』― 虬髯客伝の世界

挿絵(By みてみん)

【三人の出会いと運命の交差】

紅拂夜奔識俊英,紅拂は夜に奔って俊英を見出し、

白衣李靖氣如鵬。白衣の李靖は気概が鵬鳥の如し。

黒髯豪客笑風塵,黒髯の豪客は風塵に笑い、

三侠齊心動九城。三侠が心を揃えれば九つの城を動かす。

    (自作/自訳)


【虬髯客の潔さと別れ】

真龍一見悟天機,真の龍を一目見て天機を悟り、

黒墨虬髯讓帝基。黒墨の虬髯客は帝王の基を譲る。

赤影嬌娥白將軍,赤い影の嬌娥と白い将軍に、

財散海東義不歸。財を散じて海東へ去り、義は帰らず。

     (自作/自訳)


【しおの】

『虬髯客伝』は、唐代末期の道士・杜光庭とこうていの作とされる伝奇小説です。隋末唐初の乱世を背景に、三人の非凡な人物が出会い、それぞれの運命を見出していく様をダイナミックに描いています。


1. 物語の概要:乱世に交差する三つの魂

物語は、まだ隋の時代、天下が乱れ、英雄たちが次なる覇権を狙っていた頃に始まります。

若き英雄と慧眼の美女の出会い

野心に燃える若き策略家・李靖りせいは、隋の重臣・楊素ようそに仕官を求め謁見しますが、その才能を見抜かれず冷遇されます。しかし、その謁見の間、楊素の屋敷で働く一人の妓女が、幕の陰から李靖の非凡さを見抜いていました。彼女こそ、赤い払子ほっすを持っていたことから紅拂女と呼ばれる美女です。

紅拂、夜に奔る

その夜、紅拂女は自ら李靖の宿を訪ね、「天下の英雄が乱立する中、真に頼るべきはあなた様のような方です。どうかお供させてください」と、駆け落ち(奔る)を申し出ます。当時、高官の屋敷から妓女が逃げ出すことは死罪に等しい重罪。李靖は彼女の命懸けの慧眼と胆力に驚き、共に都を脱出します。

虬髯客との邂逅

旅の途中、宿屋で一人の奇妙な男と出会います。赤く縮れた見事な髭を持ち、豪放磊落なその男は、自らを虬髯客(巻き髭の男)と名乗ります。彼は紅拂女の美しさを見ても動じず、むしろ彼女の兄妹分になろうと申し出ます。三人は意気投合し、旅を共にすることになりました。

真龍を見定め、天下を譲る

虬髯客もまた、天下を狙う野心を持つ大豪傑でした。彼は李靖に、当時太原で勢力を伸ばしていた李世民(後の唐太宗)に会わせてほしいと頼みます。道士の助けを借りて李世民に謁見した虬髯客は、その神々しいまでの覇王の気に圧倒されます。「もはやこの中原に我が争う場所はない。真の天子(真龍)は彼だ」と悟った彼は、きっぱりと天下への野心を捨てます。

義侠の心

翌日、虬髯客は李靖と紅拂女を自らの屋敷に招き、「この莫大な財産は、すべて君に託す。これで李世民を助け、天下泰平の偉業を成し遂げよ」と言い残し、わずかな供だけを連れて海を渡り、異国の王になったと伝えられます。李靖は、その資金を元手に李世民に仕え、唐王朝建国の英雄となりました。


2. 主要登場人物の深掘り

この物語の魅力は、個性あふれる三人のキャラクターにあります。

紅拂女こうふくじょ:慧眼と行動力の象徴

彼女は、単なる美しいヒロインではありません。

慧眼:多くの凡人が見過ごした李靖の才能を、一目で見抜いた鋭い観察眼。これは、男を「選ぶ」主体的な能力の象

徴です。『肉蒲団』で艶芳が彼女の名を挙げたのは、まさしくこの「男を見抜く眼力」を自分も持っていると自負しているからです。

胆力:安定した高官の屋敷を捨て、将来性だけを信じて一人の若者に命を賭けるという、常人にはない大胆な行動力。艶芳が言う「卓文君のような度胸」と並び称される所以です。彼女の「奔」は、単なる色恋沙汰ではなく、自らの運命を切り拓くための決断でした。


虬髯客きゅうぜんかく:義侠の理想像

彼は、中国文学における「侠」の精神を完璧に体現した人物です。

豪放磊落:小さなことにこだわらず、スケールが大きい。美女を見ても私欲に走らず、優れた若者を見れば嫉妬せずに友となる度量の広さを持っています。

大局観と潔さ:自分以上の「真龍」がいると知るや、私怨や野心に固執せず、潔く身を引きます。これは単なる諦めではありません。天下の安寧という大局のために、自らの野心を譲るという、極めて高潔な精神です。

究極の支援者:自らが築いた全財産を、天下のために役立つ人物に惜しげもなく譲り渡す。私利私欲を超えた「義」のための行動です。**賽崑崙が未央生のために自腹を切る場面は、まさしくこの虬髯客の侠気に通じるものがあります。**しかし、『肉蒲団』の評者が惜しむように、その対象が天下国家ではなく、個人の情事であった点が決定的に異なります。


3. 『肉蒲団』における引用の意図

『肉蒲団』の作者が、この有名な古典を引用したのには明確な意図があります。

艶芳の自己正当化と、その矮小化

艶芳は、自分の不貞と駆け落ちという行動を、紅拂女の故事を引き合いに出すことで「英雄を見出した、運命的な決断」であるかのように格上げしようとします。しかし、紅拂女が選んだのは国を興す大英雄であり、その行動は歴史的なスケールを持つのに対し、艶芳が選んだのは閨房の達人である未央生です。作者は、この壮大な古典との対比を通じて、艶芳の語る「豪傑」論が、結局は個人的な性的欲望の正当化に過ぎないことを、皮肉っぽく読者に示しているのです。

賽崑崙の人物像の深み

一方で、賽崑崙の行動は、虬髯客の精神と見事に重なります。彼は友人のために金を出し、事を丸く収めるために知恵を働かせ、最後は主役二人を立てて静かに去ります。彼はまさに「市井に隠れた虬髯客」です。作者は、賽崑崙という盗賊に、古典的な英雄の高潔な精神を宿らせることで、彼を単なる脇役ではない、物語の倫理的な支柱として描いているのです。

このように、『風塵三侠』は、単なる古い物語ではなく、後の文学作品が「理想の女性像」や「真の英雄とは何か」を語る際に、繰り返し参照される中華における偉大な文化的コードのひとつとなっているのです。


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