おもてなし
「おお、おお……神が降臨なさった……!」
「神……!」
「神様……」
「……そうです。私が神です。どうもどうも」
やった、やったぞ……! ようやく“当たり”を引いた!
飛び上がりたい衝動を抑え、おれは軽く手を挙げて連中の歓声に応えた。
ここ、惑星P-1113567Rは特筆すべき点のない、ありふれたクズ惑星だ。知的生命体こそ存在するが、文明レベルは低く資源も乏しい。
おれはこの宇宙時代を駆ける、しがないセールスマン。会社の命令で小型宇宙船を操り、星々を巡って未開惑星に製品を売り込み、資源と引き換えに契約を取るのが仕事だ。
資源というのは鉱石や植物だったり、ときには“人”も対象になる。本社の担当が後から回収するのだが、その頃には文明ごと滅んでいたり、資源が枯渇していることも珍しくない。田舎惑星だからといって、あまりに暴利な契約を結ばせて搾取すれば、宇宙政府の監査が入り、警告が飛ぶ。そのときはおれの首も飛ぶ。なんとも泥臭い仕事である。
だが、いいこともある。こうして“神”と勘違いされ、丁重にもてなされることだ。
同僚たちから、やれ『果実と女でもてなされた』だの『村人がおれのために殺し合いを始めた』だの『土偶を作って崇め始めた』だのと散々自慢話を聞かされ、おれもいつかはそういう当たりを引きたいと願っていたのだ。
そして今回、ついに念願が叶ったというわけだ。
村人たちに案内され、ひときわ大きな家に通された。村長の家らしい。といっても、他の家より少し広いだけで、泥と木と藁で作った粗末な小屋だった。
衣服もおそらく獣の皮を縫い合わせただけのもので、鉄器は見当たらない。文明水準は推して知るべしである。
言語も拙いが、そのおかげで翻訳装置がすぐに解析でき、意思疎通に困らなかった。
「村中からかき集めました」と言って、彼らは保存肉や果実を山のように積み上げた。母親の後ろに隠れている子供が、物欲しそうに指をくわえている。誰かの腹がぐうと鳴った。
――これだよこれ。この奉仕精神がたまらないんだ。
頬の緩みを抑えきれなかった。
発酵果実で作った酒を振る舞われ、村人たちは踊り、陳腐な劇を演じ、取っ組み合いまで始めた。おれは上機嫌で杯を重ね、お客様王様神様気分を存分に味わった。
「さあ、神様、どうぞこちらへ……」
夜。おれは両脇に若い女を抱え、酔いでふらつきながら村の中央へと進んだ。おれに見せたいものがあるらしい。さっそく、土や木でおれの像を作ったのだろうか。
想像を膨らませながら進むと、広場のように開けた場所に出た。村人たちが円を作って集まり、あちこちに火が焚かれ、夜空の下で煌々と輝いていた。
中央には何かが立っている。立像かと思ったが、どうも違う。ただの丸太のようだ。これから彫るのだろうか。
「さあさあ、こちらへ……」
「あいあい……ん? おいっ」
促されるまま丸太の前へ進むと、突然村人たちが飛びかかり、おれは縄でぐるぐるに縛りつけられた。
「おいおい、これはなんの真似だあ?」
とろけるような愉悦がすうっと冷め、肌がざわりと粟立った。
「神よ。お役目を果たしていただきます……」
村長が低い声で告げると、村人たちは一斉に手を合わせて祈り始めた。
「これはつまり……生贄ということか……?」
やれやれ、これだから原始人は……。
おれはため息をついた。こんな事態も想定済みだ。今までもこうした“熱い歓迎”を受けたことがある。どうってことはない。ポケットのリモコンを押せば、宇宙船がすぐに飛んできて連中なんざあっという間に蹴散らしてくれる。
さあ、神の怒りを見せてやろう。
……ない。
リモコンがない。まさか……盗まれたのか?
酔いが完全に覚め、ぶわっと汗が噴き出した。しまった。油断していた。崇められるなんて初めてだったから、舞い上がっていたのだ。
「お、おい! 不敬だぞ! おれは神なんだぞ! 神を誰に捧げるつもりだ!」
おれは喉が裂けるほど叫んだ。
「いえ、生贄ではございません……」
「なに……?」
「神へ生贄を捧げる習慣はとうにやめました。ただ、我々の心を受け止めていただきたいのです」
「我らの怒りを……」
「二つ前の夏、どれだけ祈っても恵みを与えなかったな!」
「あんたなんか信じない……!」
村人たちは獣のような唸り声を上げ、ゆっくりと後ずさった。
もしかすると、連中は最初からおれが神でないことをわかっていたのかもしれない。ただ、ちょうどいいときに現れたから神に仕立て上げただけで。
村人たちが一斉に腕を振り上げる。
次の瞬間、無数の石が宙を裂き、バッタの大群の如くおれへ迫ってきた。
最初の一つが眼球にめり込んだ瞬間、おれは思った。
神を崇拝しないとは、この星、案外文明が進んでいるじゃないか――。




