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前世の記憶というのは時に枷になるということを今を生きていてとても痛感した。
『カチッコチッカチッコチッ』
ふとそう思った自分は自室でだらだらと寝転がり、壁に掛けてある古めかしい焦げ茶の時計を眺めるばかり。
家族は高1の頃に事故で亡くなり母方の祖母が自分を引き取ってくれた。そんな祖母も今や居らず、残ったのはこの二階建てのボロいアパート。
そんなボロいアパートとはいえ全八部屋には居住者で埋まっている。
今こうして生活出来ているのもこのアパートのおかげ、いわゆる不労所得というやつだ。
家族は膨大なお金を残していなくなったのに祖母もこのアパートを残して逝ってしまった。
金銭面では恵まれたが家族を失った私は、今年で21の坂倉みなみ…孤独な人生を満喫中である。
前世は、まぁ…疲れた人生を送っていた。そんな記憶が残っていたのが悪かったのだろう。
私は基本喋らないし喋る気も起きない、だから学校にも馴染めず友達も出来ず仕舞い。
行動力のない馬鹿な奴だから一人静かに年齢を重ね、一人でくたばろうとしていた。
最近までそう、していたはずなんだ……。
『ピンポーン』
「………………」
『ピンポーン…ピンポーン、ピンポーン』
気だるい体を起こして、未だ鳴り続けるインターホンに苛立ちながらも玄関に向かい鍵を開ける。
ガチャリと鍵が開いた途端にドアノブが動き、扉が開かれると学生服を着た一人の青年が立っていた。
「……腹減った」
「………」
顔を合わせては早々に飯と言い放つこいつが私の孤独を邪魔する最近の悩みだ。
高校二年生の原間太輝は慣れたように家の中に入り扉の鍵を閉めては、私の憩いの場に寝そべりやがる。
未成年が大人の部屋に来るという犯罪の匂いが醸し出すこの状況…いつになっても慣れない。
ため息をつきそうになるのを堪え、あの子の要望通り飯を作るため冷蔵庫へと向かう。
「今日は何作る?」
学校の鞄を枕にして横になりながら今日の飯は何かと問うクソガキを無視して冷蔵庫を開く。
こいつが来るのは分かっていたから今日の献立は出来てる。
スーパーで買った半額のマグロ、賞味期限はギリギリといったところ。あと100円で買えたお得なアボカド一個を取り出す。
「マグロだ」
いつの間にか起き上がって自分の手元にあるマグロを見る表情は嬉しそうだ。
最初の頃は何にも反応せずただ部屋の隅に座っていた癖によ、このクソガキは。
さっそく台所に移動して食材を置き、下の食器入れから大きなどんぶりを取り出してすでに炊いてあるご飯を相当な量を釜からよそう。
ご飯の上にきざみ海苔をパラパラと軽く振りかけ、マグロを容器から取り出してまな板の上に乗せ食べやすい大きさに切りご飯に盛り付ける。
次にアボカドの表面を水で洗い包丁で切り込みを入れ、真ん中にある種を中心にアボカドを回して半分に切る。
アボカドの種を取り皮を包丁で剥いていき、剥き終わったアボカドを適当に切り適当にどんぶりに盛り付ける。
本当スーパーってありがたい存在だって常々思う理由がまさにこれってな…切って盛り付ければもうアボカドマグロ丼の完成。
手を洗って丼と箸をテーブルに運ぼうとすると、すでに準備万端ですと言わんばかりにテーブルを前に座る青年の後ろ姿。
青年の正面に丼を置いてから調味料台から醤油、冷蔵庫からはマヨネーズとわさびを取りテーブルに置いていく。
「…いただきます」
醤油やマヨネーズをかけてかきこむように食べる姿を反対側のテーブル越しに座り、青年を見ている自分は何気に満ち足りた気分だ。
なんでこんな関係になったのか不思議でしょうがないが、これが最近よく見る風景。
しつこくインターホンを鳴らし、鍵を開ければ腹減った宣言、そして要望通り飯を作り、美味そうに食べる。
本当…こんなつもりじゃなかったんだけどな…




