ここに迷探偵がいなければ何もなかったのに!
俺、山旭 篤信の家のリビングにて仁王立ちで、岌寳 陽向、鹹間乃 武雄、芦橋 美音の3人を正座させていた。
「俺のプリンは誰が食べたんだ。正直に言ったら全ての関節を逆に曲げるだけで許してやる」
俺が大切にとっておいた期間限定の「卵より卵を感じるというプリン」が冷蔵庫から姿を消していたのだった。これは許されないことだ。
今日は俺の家で友人の3人を招いた。正確には強引に入ってきたと言ったほうが正しいのだろうか。もともと鹹間乃の提案により、外で虫取りをするはずだった。俺たちは高校3年生で将来のために受験勉強をしていて疲れているだろうし、その休憩としてどうかということで、たまにはいいだろうと俺と岌寳、芦橋は賛成した。当日、いざ外に出てみると、気温が34度を超えていたからか服が汗でベトベト。しかも夏なのに風物詩である蝉の声が全く聞こえない。この状況では虫取りなんてできない。そのようなわけで、俺の家に家族がちょうど出かけているということもあり、急遽俺の家で過ごすことになった。当然友人たちが家に来るとは思っていなかったので、お菓子やジュースは用意していなかったため、麦茶のみを3人に出すことになった。
麦茶は冷蔵庫の中で保存していたため、冷蔵庫のドアを開けて取り出した。この時点で俺が大事にとっておいたプリンはあった。このことから、家族が食べたというのはありえないとわかる。家族の誰かが食べたということもない。なぜならプリンのビニールのふたに「あつのぶ」とネームペンで書いていて、それがこの時点ではまだ冷蔵庫にあったからだ。
それから麦茶を友人たちに麦茶を振舞ったあと、急にトイレに行きたくなった。
そして現在。
「俺は食べていないよ。食べるなら山旭の目の前で堂々と食べるね」
そう言ったのは岌寳だ。
この男はいわゆる美少年なのだが、ときどきクズになる。確かに彼は俺がいないうちに、俺のプリンを食べるようなことはしないだろう。気になる点があるとすれば、俺の顔を見てうっすらにやけていることくらいだな。
「俺もプリンは食べてないぜ」
まっすぐな目で訴えるのは鹹間乃。
こいつは成績優秀でスポーツもほぼ何でもできる真面目な奴だが、あまりに真面目なのが原因なのか嘘が下手すぎるのだ。そんな奴がまっすぐな目なのだからプリンを食べていないのだろう。だけどちょっとだけ同情しているかのような顔で、俺を見ているのはたぶん気のせいだな。
「私も食べてない。というかあったのを知らなかった」
正座に耐えれなかったのか足を伸ばし始めて寝っ転がったのは芦橋だ。
彼女はめんどくさそうにしているように見えるが、実は結構ノリがいい。めんどくさそうにしてればしてるほど、楽しんでいるのだ。彼女はめんどくさい奴なのだ。そして今とてもめんどくさそうにしているのだから、犯人を探そうとしているのだろう。つまり彼女は犯人ではない。ただ、ときどき俺をゴミを見るかのような目で見てくるのは気になるが。
あれ? 誰も犯人には見えないのはおかしいな。
「本当にお前ら食べてないのか?」
「だから、そんなしょうもないことしないって」
「俺と山旭の仲だ。するわけないだろ」
「わざわざ冷蔵庫を開けて、山旭にバレないように食べるなんてめんどくさくてしないよ」
聞けば聞くほどわからなくなってくる。
そのとき、バイクに乗った人が窓ガラスを割って入ってきた。
その人はヘルメットをとった。顔つきから男だとわかった。
「やあやあ皆さん! お困りのようですね!」
男はフレンドリーに俺たちに接してきた。
「いろいろ言いたいことはあるが、まず誰だ」
俺は男を睨んだ。
「俺は名探偵です。事件の匂いを嗅いでやってきました!」
大事にしていたプリンがなくなったとはいえ、そんなに事件らしい事件ではないような……。いや、確かに匂いがする。まるで朝ごはんによく嗅ぐような……。
「おい。何を食ってるんだ」
自称探偵が口の中で何かを食べてるように見えた。
「ああ、これは納豆です。あ、食べます?」
「いらねえよ!」
「ああなるほど。納豆はお嫌いですか……。わがままでしょうがないですね。ではこの中から選んでも構いませんよ」
男は胸元からしょうゆ、みそ、わさび、ジャム、デスソース、ドリアン、なめこを取り出した。
「いくつか調味料が入ってるじゃねえかよ! お前のセンスなさすぎだろ!」
「それは俺の友人に言ってくださいよ。これらは友人の冷蔵庫にしまってあったものをすべて持って来たんですから」
「じゃあ返してやれよ!」
後ろで岌寳は面白がり、鹹間乃は俺以上に睨み、芦橋は非常にめんどくさそうにしていた。
「まあまあ、冗談はさておき。俺がきたのは、ずばり山旭 篤信さんが大事にとっておいたという期間限定プリンの行方ですね。まずリビングのゴミ箱を見てください」
俺たちは言われた通りゴミ箱の中を覗いてみた。今日がちょうど燃えるゴミの日だったからか、ほとんどゴミが入っていなかった。
「ねえ。ゴミ箱の中がどうしたっていうの?」
芦橋が尋ねた。
「もし誰かがプリンを食べたのなら、空になった容器は捨てるでしょうね。そしたら自然とゴミ箱に捨てるでしょうね。ここになかったのなら他のゴミ箱も確認してみてください。俺がこの3人を見張っておきますから」
俺はリビングを飛び出し、ゴミ箱の中を漁った。しかしプリンの容器らしきものがなく、とりあえず探偵のいるリビングに戻った。
「全部のゴミ箱を見たが、容器はなかったぞ。どういうことだ」
「簡単な話です。もしこの3人のうち誰かが食べたのなら、容器を持っているからです。考えてみてください。ゴミ箱に入れたら誰かがプリンを食べたということがすぐにバレてしまいます。だから3人のズボンなどのポケットの中を見ればわかります。皆さんポケットに手を突っ込んでみてください」
なるほど。名探偵と自称するだけはあるな。もしここで戸惑ったのなら、そいつが確実に犯人になる。
3人ともポケットに突っ込んだが、容器らしいものは見つからなかった。
「容器がない? 一体どういうことだ?」
俺は呟いた。
もしかしてだが、こうなることを予想してどこか俺たちの目に届かない場所に容器を隠したのか? 俺が周りをキョロキョロしていると……。
「山旭 篤信さん。芦橋 美音さんがポケットの中をまさぐってるのを見て興奮したからって、キョロキョロするのはやめてくださいよ」
探偵はとんでもないことを口走った。
「ポポポポケットの中をまさぐるので興奮なんてしてねえから! 芦橋、本当にしてないからゴミを見るような目で見るのをやめてくれ!」
この探偵を1発ぶん殴りてえ!
「一旦状況を整理してみましょう。まずリビングにはもともとあったはずのプリンがなくなっている。そして割れている窓ガラスは後で鹹間乃 武雄さんがお金を払って業者の方に直してもらうと」
「しれっとあんたが壊した窓ガラスの弁償を俺に押し付けるな!」
鹹間乃がツッコんだ。
「1割冗談はさておき、山旭 篤信さんの部屋のベッドの下に隠されていた保健体育関連の資料及び幼い女性が描かれた漫画が散乱しているのは、ご存じですね」
「ご存じじゃねえよ!」
どうしてベッドの下からそんなものが出ているんだ!
ゴミ箱の中を漁るのに必死でベッドの下のことなんて全然気にしてなかった。
「山旭 篤信さんがトイレで大便をしている中、岌寳 陽向さんが山旭 篤信さんの猥褻物を探すことを提案して、鹹間乃 武雄さんと芦橋 美音さんを連れて、無断で山旭 篤信さんの部屋に入り探し、見つけたものが予想以上に特殊なもので岌寳 陽向さんは笑い、鹹間乃 武雄さんは申し訳ない気持ちになり、芦橋 美音さんは嫌悪感を抱いたそのとき、山旭 篤信さんがトイレから出た音を聞き、3人は急いでリビングに戻ったというわけです」
「そういうことだったのかよおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
だからトイレから戻ったとき、3人の様子がおかしかったのかよ!
それはさておき、話を聞くかぎり3人がプリンを食べる暇なんてない。一体これはどういうことだろうか。
他にもおかしい点がある。俺はそれについて尋ねた。
「探偵とはいえ、あんたがそんなに詳しく知ってるんだ?」
「ああ、それはですね。俺がこの家に不法侵入していたから事情は全部知っていたからです」
「「「「は?」」」」
俺たちは思わず声が出た。
自称探偵は続けた。
「4人がリビングにいないという状況だということもあり、何か面白いものはないかなと探していたら、期間限定の『卵より卵を感じるというプリン』があるじゃないですかそれで思わず食べちゃいました。あ、これが証拠の容器とふたです返します」
手のひらには限定プリンの容器と「あつのぶ」と書かれたふたが俺のてのひらに乗った。
やっと、頭が回転して俺は叫んだ。
「おめえが犯人なのかよおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
しかし、時すでに遅し。
「山旭 篤信さん。あなたの嫌がらせは、とてもたのしかったですよ。それではサラダバー!」
迷探偵はヘルメットをかぶりバイクにまたがると、リビングの別のガラスを割って去っていった。
「窓ガラスを弁償しやがれえええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
俺は今年1番の声を出したのだった。




