Episode.12-C~知っている~
前話:Episode.11-D
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交差点で足を止めた圭が迷っていると、先に口を開いたのは結菜だった。
「……一緒に、帰らない?」
少しだけ迷ったような声色だったが、言葉そのものには芯があった。
「本屋、寄りたくて。帰り道にあるでしょ? 圭くんと、行きたいなって」
圭が返事をするより早く、凛が「じゃあ、またねー!」と手を振って、反対方向へ軽やかに駆けていった。
それを見送ると、圭は小さく息をついて、結菜の方を向く。
「……うん。行こっか」
結菜はそれだけで満足したように、静かに頷いた。
――――――
夕暮れに染まりはじめた町の道を、二人は並んで歩いた。
どこか他愛もない空気が、言葉の隙間に流れていた。
しばらくして、結菜がぽつりと口を開いた。
「……ねえ、圭くん」
「うん?」
「凛ちゃんと、高嶺さんのこと。どう思ってる?」
圭は少し考えて、問い返す。
「どうって……?」
「……なんだろうね。気になる、の。二人とも、圭くんと一緒にいる時、他の時とは少し違う顔してるから」
言いながら、結菜は前を向いたまま視線だけを圭に寄せた。
(他人を知ろうとしている)
彼女のまっすぐな言葉には、そういう意志が含まれていた。
他人を“わからないもの”と認識していた彼女が、わからないままにしないよう、少しずつ前に進もうとしている。
圭は、その変化を素直に嬉しく思った。
「……凛は、にぎやかで真っ直ぐで。雪那は、静かで、不器用だけど……ちゃんと見てる人」
「ふふ、なんか今の、らしいね」
「え?」
「言い方が、圭くんっぽい」
そんな会話をしているうちに、本屋が見えてきた。
照明に照らされた入口から、ガラス越しに新刊が並ぶ様子が見える。
扉をくぐった瞬間、圭は思わず目を細めた。
図書室とは違う、インクと紙の混じり合った、鮮やかな匂い。
「……あった」
結菜が一冊の文庫本を見つけ、ぱっと表情を明るくした。
それだけで、その場の空気が少し和らいだように思えた。
彼女は迷いなくその本を手に取り、まるで宝物を見つけた子どものような足取りでレジへと走っていった。
圭はその背中を見送りながら、なぜか“懐かしい”という感情を覚えた。
(……妹が、あんなふうに走ってたこと、あったな)
そんな記憶が、ふと心の底から浮かんできた。
――――――
本屋を出てしばらく歩き、やがて結菜の家の前に辿り着いた。
夕日が赤く差し込む玄関先。
彼女は鍵を取り出して扉を開けかけ、ふと振り返った。
「ねえ、圭くん」
「ん?」
「圭くんはさ……みんなのこと、どう思ってるの?」
さっき答えたはずの問いに、圭は言葉に詰まる。
結菜は、その返事を待つことなく、少しだけ微笑んで――
「……今度、教えてね」
そう言い残して、扉を閉めた。
カチリと鍵の閉まる音が、やけに静かに響いた。
取り残されたような空気の中、圭は一人、そっと息をついた。
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