Episode.4-B~君の感情~
前話:Episode.3-A
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サイコロが指し示した目は、『2』だった。
その数字を見た瞬間、圭は小さく息をついた。どこか安堵したような、けれどそれが本当に望んでいた結果なのか、自分でも判然としないまま、彼は雪那の方を振り返る。
「……僕はやっぱりいいや。みんなと行って来なよ」
その言葉に、雪那の表情がわずかに曇った。
感情の読めない彼女の顔に、はっきりとした「不満」の色が浮かんだのは、おそらくこれが初めてだった。わずかに細められた瞳。その中に宿る揺らぎに、圭は無意識のうちに言い訳を重ねていた。
「いや、ほら……一度断った誘いだし、僕が急についていくのもどうかと思って……」
それは正直な気持ちだった。そもそも大勢で騒ぐような場所は苦手だった。けれど、その言葉がどれも薄っぺらく響くのは、なぜだろう。
「みんな、優しいからさ。君のこと、きっとちゃんと受け入れてくれるよ。……それに、僕、騒がしいのとか苦手だし」
できるだけ穏やかに言ったつもりだった。
けれど次の瞬間、雪那は一歩踏み出して、ぐっと距離を詰めてきた。
「……違う」
その声は、今までの彼女のどの言葉よりも強く、はっきりとしていた。
「確かに、誰とも関係を持っていなかったら……私は、みんなの言うことを選んでいたと思う。でも」
言葉を区切り、まっすぐに圭の目を見据える。凪のようだった瞳の奥に、確かな波が立っていた。
「でも、今は違う。君がいる。だから、君が選ぶべきなの」
圭は、その言葉に口をつぐんだ。まるで、胸の奥を鋭い刃で切り裂かれたかのように、動揺が全身を巡る。
――君が選ぶべきだ。
かつて、自分もそうやって誰かに頼られたことがあっただろうか。家族に、友人に――
否。それとは違う。雪那の言葉には、もっと切実で、もっと真っ直ぐなものが宿っていた。
「……」
何かを言おうとしたその時だった。教室の中にいたクラスメイトの一人が、こちらを振り返った。
「高嶺さん? どうかした?」
無邪気な問いかけに、雪那は何も返さない。ただ、圭を見つめ続けていた。その視線に込められた「責任」のようなものが、彼の心をぎゅっと締めつける。
逃げられない。
圭は、ポケットの中に手を伸ばす。そこには、いつもと同じサイコロがあった。冷たい感触が、指先に沁みるようだった。
(また……これに、頼るのか)
自嘲のような思いが脳裏をかすめる。しかし、もう自分の中にある答えが何かを示す前に、指は自然とその小さな立方体を取り出していた。
机の上に転がるサイコロ。
コロコロと乾いた音が響き、教室の喧騒が一瞬だけ遠のいたように感じられる。
圭の心の中で、またひとつの選択が、静かに決まりかけていた。
【選択肢1】:
雪那と一緒にクラスメイトとの遊びについて行く。→4-Aへ
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【選択肢2】:
やはり雪那を一人で行かせる。→5-Cへ
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