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せつな  作者: 666
春編
87/817

Episode.11-J~大きくなったね~

前話:Episode.10-H

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/77/

「センパイ! 見て、これ見て!」


 終業式を終えた日の午後、昇降口を出た瞬間、凛が勢いよく通知表を突き出してきた。

 その顔には、珍しく誇らしげな笑みが浮かんでいる。


「ほらほら、この赤点ライン! 全部ギリギリセーフ! わたし、勝った!」

「……“ギリギリ”って時点で威張ることじゃないと思うけど」


 呆れを混ぜつつも、圭はその成績表を一瞥して、確かに赤点がひとつもないことを確認した。

 一緒に勉強した成果――というより、凛の最後の踏ん張りを思い出し、思わず口元がほころぶ。


「ふふん、つまりセンパイの教え方が神だったってことでしょ?」

「それは……まぁ、否定はしないけど」

「やったぁぁ~~! これで夏休み、フル活用できるねっ!」


 凛は両手を大きく広げて、まるでこの季節そのものを抱きしめるようにくるくると回った。

 制服の裾が風に舞い、彼女の笑い声が空に溶けていく。

 圭はそんな姿を眺めながら、空を仰ぐ。

 空は、もうすっかり夏だった。

 青がぐんと深くなり、太陽の輪郭が強く、まぶしい。

 校門を抜けた先には、蝉の声がどこかから微かに聞こえていた。

 教室にこもっていた日々が、まるで遠い過去のように思える。

 ただの勉強に過ぎなかったはずの時間が、こうして小さな思い出になっていく。


「ねぇセンパイ、今年の夏はさ――」


 凛が言いかけたその先を、圭はまだ知らない。

 けれどその背中が、何かを期待していることだけはわかった。

 まっすぐ伸びた彼女の影が、校庭の端まで続いていた。

 陽炎の中でゆらぐその輪郭は、どこか眩しくて、どこか頼もしかった。


 ――夏が、始まる。

夏へ→N.1-E

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/132/

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