Episode.11-J~大きくなったね~
前話:Episode.10-H
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「センパイ! 見て、これ見て!」
終業式を終えた日の午後、昇降口を出た瞬間、凛が勢いよく通知表を突き出してきた。
その顔には、珍しく誇らしげな笑みが浮かんでいる。
「ほらほら、この赤点ライン! 全部ギリギリセーフ! わたし、勝った!」
「……“ギリギリ”って時点で威張ることじゃないと思うけど」
呆れを混ぜつつも、圭はその成績表を一瞥して、確かに赤点がひとつもないことを確認した。
一緒に勉強した成果――というより、凛の最後の踏ん張りを思い出し、思わず口元がほころぶ。
「ふふん、つまりセンパイの教え方が神だったってことでしょ?」
「それは……まぁ、否定はしないけど」
「やったぁぁ~~! これで夏休み、フル活用できるねっ!」
凛は両手を大きく広げて、まるでこの季節そのものを抱きしめるようにくるくると回った。
制服の裾が風に舞い、彼女の笑い声が空に溶けていく。
圭はそんな姿を眺めながら、空を仰ぐ。
空は、もうすっかり夏だった。
青がぐんと深くなり、太陽の輪郭が強く、まぶしい。
校門を抜けた先には、蝉の声がどこかから微かに聞こえていた。
教室にこもっていた日々が、まるで遠い過去のように思える。
ただの勉強に過ぎなかったはずの時間が、こうして小さな思い出になっていく。
「ねぇセンパイ、今年の夏はさ――」
凛が言いかけたその先を、圭はまだ知らない。
けれどその背中が、何かを期待していることだけはわかった。
まっすぐ伸びた彼女の影が、校庭の端まで続いていた。
陽炎の中でゆらぐその輪郭は、どこか眩しくて、どこか頼もしかった。
――夏が、始まる。
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