Episode.11-H~勉強ってやってると楽しいけど、やらないと楽しくない~
前話:Episode.10-G
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放課後の図書室は、いつものように静寂をたたえていた。
背の高い本棚が光を柔らかく遮り、木の机に映る影の輪郭さえも、どこか優しい。
その一角に、三人並んで席を取り、教科書とノートを広げていた。
「……し〜っ、だよ」
圭が人差し指を口元に立てると、凛は「は〜い」と小声で返しながらも、気配の大きな伸びを一つ。
「図書室って、やっぱ静かすぎて緊張する……でも、眠くなる前に頑張らないとね〜」
「そう言ってさっきから一問も解いてないじゃん」
圭の指摘に、凛は舌を出して誤魔化す。
隣の結菜が、そんなふたりのやりとりに苦笑しつつ、そっとプリントを一枚差し出した。
「じゃあ、この問題からやってみない? この前の授業の範囲だし、公式もここにメモしてあるよ」
「……ありがたや〜三枝先輩、神様〜!」
凛は両手で拝むような仕草をしてから、素直に鉛筆を走らせはじめた。
一方の圭も、自分の問題集を開いて式を書き始めていた。
机の上には三者三様の筆記音が重なり合い、それが図書室の静寂に溶けていく。
時折、凛が「これどうやるの?」と質問し、圭が簡潔に説明する。
それを見ていた結菜が、補足を入れるように語る。
「でもね、その応用問題になると式の順序がちょっと変わるから気をつけて。……ここ、見てみて」
「おおっ、なるほど!」
三人のやり取りは、静かながらも温かく、どこか居心地が良かった。
差し込む夕日が本棚の影を伸ばしていく。
空気は冷たくなりつつあるのに、机のまわりには不思議な熱がこもっていた。
「これ……思ったより、楽しいかも」
凛がふと漏らした一言に、誰も返さなかった。
けれど、その場にいた三人とも、きっと同じ気持ちだったのだろう。
図書室の時計の針が静かに時を刻んでいた。
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