Episode.11-C~あちゃ~
前話:Episode.10-C
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「……分かりました。手伝います」
圭は、椅子からゆっくりと立ち上がった。
結菜と凛に軽く手を振って、「ちょっと行ってくる」と言い残し、委員長の後について図書室を出る。
倉庫は校舎の一階、旧備品室を利用した簡素な部屋だった。
「結構あるからね、これ。二人で何往復かすれば終わると思うけど」
段ボールが三段積みになっていた。
そこには、先日学校に届いたばかりの新刊――分厚い辞典やシリーズものの文庫、参考書などが、ぎっしりと詰まっていた。
「このへん、来週から棚に並べる予定なんだけど、先に開封だけして数を確認しておきたくて」
箱を抱えながら廊下を歩いていく中、委員長がぽつりぽつりと話し始める。
「……前に言った、委員長の推薦の話、覚えてる?」
「はい。断ってすみません」
「いや、別に責めてるわけじゃないよ。ただ、たとえば大学進学の時、こういう役職は少しだけプラスになる。もちろんそれだけで何かが決まるわけじゃないけど……履歴書に書ける“何か”って、大事だよね」
圭は返す言葉を持たなかった。
「夏休みにはね、図書委員で地域の子供向け読書会のイベントに協力する予定があるんだ。後期は学校行事の裏で記録仕事もあるし……結構動くことになると思う」
その声は軽いが、きちんとした責任感に支えられていた。
(自分に、そこまで背負えるだろうか)
そんなことを思いながら、圭は無言で次の箱を持ち上げた。
――――――
荷物をすべて運び終えた頃には、すっかり日も傾いていた。
予想以上に時間がかかっていたことに気づき、ようやく息をついた圭は、ポケットのスマートフォンを取り出した。
その瞬間――
ズシリと、胸の奥が重くなる。
着信履歴が何件も並んでいた。
全て、「高嶺雪那」。
数分おきにかけられたその着信は、まるで誰かが必死に、何かにすがろうとしていた痕跡のようだった。
そして最後の一通のメッセージ。
《……約束、破ったんだね。もういいよ。もう、終わりにする》
圭の心臓が、ひとつ大きく跳ねたように脈打った。
(……うそだろ)
返事を返すにも、電話をかけ直すにも、もう手が動かなかった。
額に、冷たい汗が滲む。
――あの時、気づいていれば。
たった一通の返事。たった一言の反応。それだけで防げたはずだった。
けれど、圭はそれを怠った。
“自分の時間”を優先し、“彼女の不安”に気づかず、“たった一つの選択”を、誤った。
――――――
図書室に戻ると、誰もいなかった。
静かすぎる空間。並べられた本たちだけが、そこに在り続けていた。
携帯の画面に表示された、既読のつかないメッセージ。
あの沈黙のような一文が、圭の胸に重くのしかかる。
――彼女は、圭との関係を切る決断をした。
それは一方的で、静かで、あまりに確かな「終わり」だった。
どれだけ言葉を尽くしても、戻らないものがある。
この沈黙こそが、その証だった。
携帯を伏せた圭の手は、微かに震えていた。
――*――*――
BAD END
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