Episode.10-I~君の姿は僕に似ている~
前話:Episode.9-H
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「せっかく高校生になったんだしさ、ちょっと優雅に勉強してみたくない?」
放課後、凛がそんなことを言い出したのは、教室を出てすぐのことだった。
彼女の笑顔はいつもより少し上機嫌で、それを否定する理由もなく、圭は自然と歩を駅前へと向けていた。
向かったのは、学生にも人気のあるカフェ。
いつもは笑い声が飛び交うにぎやかな空間だが、テスト前のこの時期だけは、店内の空気もほんの少しだけ引き締まっている。
それでも、人の多さは変わらない。
注文の呼び出し音、マグカップを置く音、隣席の会話の断片――
静寂とはほど遠いが、それでもこのざわめきが凛にはちょうどいいらしい。
「この感じ、ちょっと憧れてたんだよね。飲み物飲みながら、勉強してる自分、って感じ」
テーブルに並ぶのは、凛のキャラメルラテと小さな焼き菓子。
その隣に、少ししわの入った数学の問題集が開かれている。
「はい、次この問題。さっきのパターンと同じ。分数の約分忘れないで」
圭は声を抑えながら指でページを示す。
凛は頬を膨らませつつも、素直にノートへ視線を移した。
「センパイって、こういう時だけほんと先生みたいだよね……」
「成績が危うい生徒に教えるのは当然だ」
「ぐっ……刺さる~……」
そんな軽口を交わしながらも、凛のペンは進んでいた。
集中力が切れそうになると、キャラメルラテを一口。
ふと笑みをこぼしては、また鉛筆を握り直す。
圭はその横顔を眺めながら、自分も参考書を開いた――
が、視線の先に不意に映った人影に、手が止まった。
店の奥の窓際。
そこにいたのは――雪那だった。
制服姿の彼女は、少し年上に見える先輩らしき男子と並んで座っていた。
机の上にはノートとプリント。どうやらこちらも勉強中のようだった。
会話はない。
だが、彼女が先輩に何かを見せられ、頷く瞬間。
視線を下げたその横顔は、どこか遠くにあるように見えた。
圭は思わず、視線を逸らした。
それ以上、目で追うことができなかった。
彼女に対して、何かを言える立場ではないと、もうとっくに知っていたはずなのに。
「センパイ?」
凛が小さな声で問いかけてくる。
圭は肩をすくめるようにして、教科書へ視線を戻した。
「……いや、なんでもない。続きやろうか」
「うん。じゃ、今度は私が問題出してみてもいい?」
「内容によるな」
「ふふっ、じゃあ正解できなかったら罰ゲームね?」
カフェのざわめきに、凛の明るい声がまじっていく。
その音に紛れて、圭の胸の奥で何かが静かに沈んでいった。
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