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せつな  作者: 666
春編
78/1152

Episode.10-I~君の姿は僕に似ている~

前話:Episode.9-H

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/69/

「せっかく高校生になったんだしさ、ちょっと優雅に勉強してみたくない?」


 放課後、凛がそんなことを言い出したのは、教室を出てすぐのことだった。

 彼女の笑顔はいつもより少し上機嫌で、それを否定する理由もなく、圭は自然と歩を駅前へと向けていた。

 向かったのは、学生にも人気のあるカフェ。

 いつもは笑い声が飛び交うにぎやかな空間だが、テスト前のこの時期だけは、店内の空気もほんの少しだけ引き締まっている。

 それでも、人の多さは変わらない。

 注文の呼び出し音、マグカップを置く音、隣席の会話の断片――

 静寂とはほど遠いが、それでもこのざわめきが凛にはちょうどいいらしい。


「この感じ、ちょっと憧れてたんだよね。飲み物飲みながら、勉強してる自分、って感じ」


 テーブルに並ぶのは、凛のキャラメルラテと小さな焼き菓子。

 その隣に、少ししわの入った数学の問題集が開かれている。


「はい、次この問題。さっきのパターンと同じ。分数の約分忘れないで」


 圭は声を抑えながら指でページを示す。

 凛は頬を膨らませつつも、素直にノートへ視線を移した。


「センパイって、こういう時だけほんと先生みたいだよね……」

「成績が危うい生徒に教えるのは当然だ」

「ぐっ……刺さる~……」


 そんな軽口を交わしながらも、凛のペンは進んでいた。

 集中力が切れそうになると、キャラメルラテを一口。

 ふと笑みをこぼしては、また鉛筆を握り直す。

 圭はその横顔を眺めながら、自分も参考書を開いた――

 が、視線の先に不意に映った人影に、手が止まった。


 店の奥の窓際。

 そこにいたのは――雪那だった。

 制服姿の彼女は、少し年上に見える先輩らしき男子と並んで座っていた。

 机の上にはノートとプリント。どうやらこちらも勉強中のようだった。

 会話はない。

 だが、彼女が先輩に何かを見せられ、頷く瞬間。

 視線を下げたその横顔は、どこか遠くにあるように見えた。

 圭は思わず、視線を逸らした。

 それ以上、目で追うことができなかった。

 彼女に対して、何かを言える立場ではないと、もうとっくに知っていたはずなのに。


「センパイ?」


 凛が小さな声で問いかけてくる。

 圭は肩をすくめるようにして、教科書へ視線を戻した。


「……いや、なんでもない。続きやろうか」

「うん。じゃ、今度は私が問題出してみてもいい?」

「内容によるな」

「ふふっ、じゃあ正解できなかったら罰ゲームね?」


 カフェのざわめきに、凛の明るい声がまじっていく。

 その音に紛れて、圭の胸の奥で何かが静かに沈んでいった。

続き→11-Jへ

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/87/

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