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せつな  作者: 666
春編
73/817

Episode.10-D~スクエア~

前話:Episode.9-C

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/64/

「図書委員の仕事は、主に昼休みと放課後の管理当番です。返却された本はこのカートで運び、元の棚へ戻す。貸出・返却の対応も交代でやってもらう形になります」

 木の軋む音とともに、委員長の落ち着いた声が図書室に響く。

 その日、委員会メンバーとして集められたのは、篠原圭、高嶺雪那、三枝結菜の三人だった。


 「よろしくお願いします」


 簡潔に挨拶をする雪那に、結菜が軽く会釈を返す。

 しかしその視線は、どこかしら素っ気なさを感じさせるものだった。

 無理もない。

 結菜は中学からの友人で、本を介して仲良くなった、いわば“気の合う相手”だった。

 だがその関係は、圭と雪那の妙に親密な距離感に、少なからず揺らいでいた。


 (……不貞腐れてる、かも)


 結菜の視線の端に、それがにじんでいる気がした。

 とはいえ、委員長の話は去年も聞いた内容だったため、圭は要点だけを拾いながら流すように聞いていた。



――――――



 業務説明が終わった後、図書室内を簡単に見学する流れになった。

 天井まで続く本棚。

 陽が差し込まない静かな空間。

 紙の匂いと、重なり合った知識の堆積。

 その空間の一角で、懐かしい顔が見えた。


 「……凛?」


 呼びかけると、本棚の陰からひょこっと顔を出したのは、後輩の有栖川凛だった。


 「センパイだ! やっぱりいた!」


 明るく笑う彼女に圭は少し目を細める。


 「久しぶり……本、好きだったっけ?」

 「ううん? 別に。でもセンパイ、どうせ図書委員に入ると思ったから」


 堂々とした理由に、思わず苦笑が漏れる。

 凛らしいといえば、あまりにも凛らしかった。


 「そうだ、雪那。彼女は凛。後輩だけど、昔からの知り合い」


 そう言って二人を紹介すると、雪那は軽く頭を下げた。

 その動作は丁寧だったが、どこか警戒心のようなものを孕んでいた。

 そして次の瞬間、圭の袖がふいに引っ張られた。


 (……袖?)


 見ると、雪那の指先が、圭の制服の袖をそっと摘んでいる。

 まるで、見知らぬ空間に迷い込んだ幼子のように。

 凛はその様子を見て、一瞬、笑みを凍らせた。

 口元が動くのが見えたが、聞こえたのはかすかな気配だけ。


 「……泥棒猫」


 音にさえならないほどの囁き。

 だが、その言葉の輪郭ははっきりと読めてしまった。

 結菜と凛。

 どちらも、圭にとっては大切な人だ。

 そして、雪那は――今も、圭の袖を摘んで離そうとしなかった。


 (……どうしよう)


 空気が妙な緊張を帯びてきたその時、委員長が声をかけてきた。


 「篠原くん。ちょっと相談なんだけどさ」

 「はい?」

 「後期の図書委員長、君に推薦したいんだよね。どうかな?」


 一瞬、教室の空気が変わった気がした。


 「えーっ! 圭くん、すごいね!」と結菜。

 「センパイ、さすが~!」と凛も。

 圭はどう返すかを迷っていた。


 (雪那のことを思うと……委員長になるのは、少し不安がある)


 どうしようかと口を開きかけた、その時だった。


 「……ダメ」


 その声は確かな拒絶を孕んでいた。

続き→11-Eへ

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/83/

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