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Episode.9-G~何でもない放課後~

前話:Episode.8-F

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/60/

 図書室を出ると、ちょうど校舎の影が長く伸び始めていた。

 春の夕暮れはまだどこか穏やかで、風がカーテンのように頬を撫でていく。

 昇降口を抜けた三人は、揃って門を出て、そのまま並んで歩き出した。


「図書室の空気って落ち着くよね〜。でも、長くいたら眠くなっちゃいそう」


 凛が伸びをしながら笑う。

 その言葉に、結菜は小さく頷いた。


「うん……でも、静かだから好き。音がしないって、安心するから」

「それ、ちょっとわかるかも。センパイ、どう思う?」

「……まぁ、僕は本が読めればどこでもいいけどね」


 その素っ気ない返しに、凛が「あー! そういうとこ!」と笑いながら肩を小突いてくる。

 その様子を横で見ていた結菜の目が、ほんの一瞬だけ細められる。

 けれどすぐに、彼女はふわりと笑みを作った。

 ふと結菜が、鞄の中から文庫本を取り出す。


「そういえばね、今日これ借りたんだ。久しぶりに読みたくなっちゃって」


 手渡された本は、かつてアニメや映画にもなった人気の恋愛小説だった。

 柔らかな光沢のあるカバーに、どこか懐かしい装丁。


「懐かしいな……これ、僕も読んだことある。展開わかってても面白いよね」

「うん、そうそう。最後のあのシーンがさ――」


 会話が自然と盛り上がる中、結菜は凛の方にも本を向けた。


「凛ちゃんも、よかったら読んでみる? 読みやすいし、登場人物も個性的で面白いよ」

「へぇ〜……ほんと? 表紙だけでちょっと惹かれてるかも。ラブストーリーってあんまり読まないけど、ちょっと気になるな〜」


 凛は表紙をのぞき込みながら、軽く目を見開いた。


「意外と面白そうかも。じゃあ、それ読み終わったら貸してくれる?」

「もちろん」


 結菜は嬉しそうに頷いた。

 そんなやりとりのあと、三人はそのまま歩みを進める。

 それぞれの足音が、夕暮れの静けさに溶けていった。

 やがて分かれ道に差し掛かり、結菜がひとつ目の角で足を止める。


「じゃあ、私こっちだから……また明日ね」

「うん、気をつけて」

「ばいば〜い、気をつけて帰ってね〜」


 手を振る凛に、結菜は少しだけ微笑んでから踵を返した。

 その背中を見送りながら、圭はふと考える。

 ――この、奇妙な三人の帰り道が、いつまで続くんだろうか。

 そんな取りとめのない思いが、夕焼け空にぼんやりと溶けていった。

続き→10-Gへ

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/76/

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