Episode.9-G~何でもない放課後~
前話:Episode.8-F
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図書室を出ると、ちょうど校舎の影が長く伸び始めていた。
春の夕暮れはまだどこか穏やかで、風がカーテンのように頬を撫でていく。
昇降口を抜けた三人は、揃って門を出て、そのまま並んで歩き出した。
「図書室の空気って落ち着くよね〜。でも、長くいたら眠くなっちゃいそう」
凛が伸びをしながら笑う。
その言葉に、結菜は小さく頷いた。
「うん……でも、静かだから好き。音がしないって、安心するから」
「それ、ちょっとわかるかも。センパイ、どう思う?」
「……まぁ、僕は本が読めればどこでもいいけどね」
その素っ気ない返しに、凛が「あー! そういうとこ!」と笑いながら肩を小突いてくる。
その様子を横で見ていた結菜の目が、ほんの一瞬だけ細められる。
けれどすぐに、彼女はふわりと笑みを作った。
ふと結菜が、鞄の中から文庫本を取り出す。
「そういえばね、今日これ借りたんだ。久しぶりに読みたくなっちゃって」
手渡された本は、かつてアニメや映画にもなった人気の恋愛小説だった。
柔らかな光沢のあるカバーに、どこか懐かしい装丁。
「懐かしいな……これ、僕も読んだことある。展開わかってても面白いよね」
「うん、そうそう。最後のあのシーンがさ――」
会話が自然と盛り上がる中、結菜は凛の方にも本を向けた。
「凛ちゃんも、よかったら読んでみる? 読みやすいし、登場人物も個性的で面白いよ」
「へぇ〜……ほんと? 表紙だけでちょっと惹かれてるかも。ラブストーリーってあんまり読まないけど、ちょっと気になるな〜」
凛は表紙をのぞき込みながら、軽く目を見開いた。
「意外と面白そうかも。じゃあ、それ読み終わったら貸してくれる?」
「もちろん」
結菜は嬉しそうに頷いた。
そんなやりとりのあと、三人はそのまま歩みを進める。
それぞれの足音が、夕暮れの静けさに溶けていった。
やがて分かれ道に差し掛かり、結菜がひとつ目の角で足を止める。
「じゃあ、私こっちだから……また明日ね」
「うん、気をつけて」
「ばいば〜い、気をつけて帰ってね〜」
手を振る凛に、結菜は少しだけ微笑んでから踵を返した。
その背中を見送りながら、圭はふと考える。
――この、奇妙な三人の帰り道が、いつまで続くんだろうか。
そんな取りとめのない思いが、夕焼け空にぼんやりと溶けていった。
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