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Episode.9-B~欺瞞の正義~

前話:Episode.8-A

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/55/

 教室の喧騒の中で、圭は一度ちらりと前の席を見た。

 さっき、雪那に声をかけてくれた女子がまだ机に突っ伏しながら、友達と話をしている。

(……今なら、間に合う)

 圭は小さく息をついて、席を立った。


「ねえ、さっきの委員会の話なんだけど」


 その子に声をかけると、彼女は一瞬きょとんとした顔をした後、ぱっと表情を明るくする。


「うん?」

「もし良かったら……高嶺さん、一緒の委員会に入れてくれないかな。たぶん、まだ希望出してないと思うから」


 言い終えると同時に、彼女は嬉しそうに頷いた。


「え、ほんとに? いいの? やった! 嬉しい!」


 そう言って、軽やかに立ち上がると、雪那の方へと向かっていく。雪那は机に手を置いたまま、静かにその様子を見ていた。

 会話の内容までは聞こえなかったが、数秒後、女子はにこやかに雪那を連れて、他の委員会のメンバーの元へと歩き出していった。

(よかった……かな)

 圭は少しだけ不安な気持ちを抱えたまま、自分の席に戻った。



――――――



 案の定だった。

 席に戻ってきた雪那は、無表情を保ちながらも、わずかに眉をひそめていた。

 その違和感に気づかないほど、圭は鈍感ではない。


「……なんで、私をあの子たちの委員会に入れようとしたの?」


 声は静かだったが、微かに棘があった。

 圭はすぐに返答を用意していた。


「せっかくクラスにも馴染めてきたし、もっといろんな人と関わってみるのもいいかなって思ったんだ。今はずっと僕と一緒にいるから、周りの人にも悪いかなって」


 雪那はじっと圭を見つめている。


「それに……いつかお互い、用事で一緒にいられない日も来るかもしれないし。僕の都合で君を連れ回すのも、良くないと思って」


 言葉を並べていると、自分でもどこか説得しているような気持ちになってくる。

 雪那が言い返してくるのではないかという予感は、すぐに的中した。


「でも、いざって時に、そばにいてくれなかったら……私、困る」


 その一言は、圭の胸に静かに響いた。

 不安を表に出すことの少ない彼女が、そう口にすること自体、珍しいことだった。

 だからこそ、圭は丁寧に言葉を選ぶ。


「……だったら、こうしよう。何かあったら、すぐメッセージを送って。対面じゃなくても、やりとりできるだろ? それなら、休日とかでも大丈夫だし」


 雪那は一瞬だけ沈黙し、やがて小さく頷いた。


「……わかった。でも、一つだけ約束」

「うん?」

「私が連絡した時……絶対に、すぐに返事して」


 その声は、まるで幼い子どものような、淡い不安を滲ませていた。

 圭は何の疑いもなく頷いた。


「もちろん」


 それでようやく、雪那の表情から緊張が抜けていくのが分かった。



――――――



 やがてホームルームが終わり、委員会の時間となった。

 雪那は、同じ委員会の女子たちに呼びかけられると、無言で立ち上がり、彼女たちと共に教室を後にした。

 ――無言。

 けれど、その背中にはほんの僅かに、これまでにはなかった“人の輪”があった。

 そして残された圭は、自分の委員会――図書委員の集合場所と向かう。


「行こっか」


 同じクラスの三枝結菜が、こちらの席へやって来ながら声をかけてきた。

 まるぶちメガネの奥の目が、ゆっくりとこちらを見ている。

 圭は小さく頷き、二人で教室を出ていった。

 今日から、新しい関係がまた一つ、動き出す――そんな予感があった。

続き→10-Cへ

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/72/

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