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せつな  作者: 666
春編
62/817

Episode.9-A~変化には痛みを伴う~

前話:Episode.8-A

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/55/

「――じゃあ図書委員は篠原、高嶺、三枝の三人で決定な〜」


 教壇で担任がそう告げたとき、圭は小さく息を吐いた。迷った末の選択だったが、やはりこれで良かったのだと思えた。

 図書委員は、彼が中学時代から続けている活動の一つだ。目立たず、静かで、しかし着実に役割がある。読書好きな自分には最適だったし、なにより雪那にとっても無理のない環境になるだろうと判断した結果だった。

 図書委員に決まった三人のうち、三枝結菜とは顔なじみだった。

 まるぶち眼鏡とおさげが似合う、まさに“文学少女”然としたその少女は、圭と同じく本に魅せられた人間である。中学の頃からの付き合いで、言葉数は少ないが、同じ空間にいることが心地よく感じられる稀有な存在だった。

 そして、雪那と結菜――

 ほとんど初対面の二人が、委員会の初顔合わせで並び立った。


「えーっと……三枝、結菜です。よろしくね?」


 結菜は少し恥ずかしそうに、はにかみ ながら挨拶をした。


「高嶺、雪那……よろしくお願いします」


 雪那もまた、無感情に近い声でそれに応じる。挨拶が終わると雪那は結菜の顔を見て、首を傾げる。


「……この前、いなかった?」


 不意に雪那が口にした。この前というと、雪那が転校してきた日の放課後のことを言っているようだ。

 結菜はアハハと申しわけ無さそうに笑いながら、おさげを弄ぶ。


「うん。あの日、新刊の発売日でさ。学校終わってすぐに本屋に行かないといけなかったから」

「そうなんだ」


 結菜の言葉に雪那は特に反応を示さなかった。ただただ、あの場所に結菜がいなかったことが純粋に気になったのだろう。

 二人の間に沈黙が立ちこめる。

 それはきっと悪い意味の“沈黙”ではなかった。圭はなんとも居心地が悪かったが。



――――――



 放課後、図書室にて。

 新年度最初の図書委員会が、柔らかな午後の日差しの中で始まった。

 校内でもひときわ静かなこの部屋は、紙とインクの香り、わずかに軋む床の音、ページをめくる指先のかすかな音だけで構成された世界だった。


「図書委員は基本、当番制です。昼休みや放課後に図書室に入り、貸出・返却の手続きをします。あと、返却本の整理、分類……本の並び順に気をつけて棚に戻す。仕事としてはこれだけです」


 真面目そうな上級生の委員長が、資料を片手に淡々と説明を進めていく。圭には聞き慣れた内容だったが、雪那はしっかり聞いているようだった。結菜も圭と同様に図書委員の常連なので、ぼんやりと天井を眺めている。

 やがて説明が一通り終わり、三人は図書室内の案内を受けて、書架の並ぶエリアを歩いていた。

 そのとき――


「センパイっ!」


 軽やかな声が背後から飛んできた。

 振り返れば、制服の裾を翻しながら駆け寄ってくる少女。

明るい瞳と弾ける笑顔。見間違えようもない、圭の中学の時の後輩――有栖川凛だった。

 圭は予想外の人物の登場に目を瞬かせる。


「凛……!? どうしてここに……」

「ふふっ、驚いた? 高校、合格しちゃった……!」


 凛の言葉にさらに驚かされる。


「……まじか。不可能が可能になる瞬間に立ち会えるとは感慨深いな……」

「ねぇセンパイ……それ褒めてる?」


 約一年振りの邂逅に懐かしさを感じながら話していると、雪那と結菜を置いてきぼりにしていることに気がつく。

 振り向くと、案の定ポカンとしている二人がいた。

 圭は二人に凛のことを紹介しようと口を開く前に、凛が二人の前に立つ。


「一年の有栖川凛です! センパイとは中学からの趣味友達です! よろしくお願いします、先輩!」


 元気いっぱいに挨拶する凛。その身体から眩しいオーラが出ているように見えるのは気のせいだろうか。  


「よろしく」「……ぃぁぅ」


 雪那はいつも通り、なんとも思っていないように淡々と言葉を返す。しかし、結菜は凛のオーラを幻視してしまったらしく、近くにあった本で目を隠しながら、蚊の羽音にも負けそうな声で挨拶を返した。

 分かるぞ。凛は図書室にはちょっと明るすぎる。

 そんな三人の様子を見守っていると、圭を呼ぶ声が聞こえた。


「篠原君、ちょっといいかな。相談なんだけど……」

「はい、なんですか?」


 圭が振り返ると、そこには委員長の姿があった。

 さっきまで堂々と皆の前に立っていた彼女は少し困った顔をしている。

 委員長に連れられて、人気のない場所まで移動すると彼女は声を少し抑えて言った。


「実は後期の図書委員長に君を推薦しようと思っているんだ」

「……え?」


 いきなりな話に圭は思わず言葉を詰まらせる。

 なんで、と言いかける前に委員長はその理由を口にした。


「後期の委員長は二年から選出しないといけないのは知っているだろう? 君のことは中学の委員会から知っているし、真面目で仕事もできる。おまけに人望もなくは無い。どうかな、引き受けてくれないか?」  


 彼女の言葉に何も言えず黙りこくってしまう。

 この学校では後期の委員長は二年生から選出される。三年生は大学受験でまともに活動ができないからだ。

 だからいつかこの話は出ると思っていたが、まさか自分に来ると思っていなかった。

 圭はチラリと後ろに視線を向ける。

 そこには遠くからこちらを見つめる三人の姿があった。  


 過去、選択、責任。


(……昔のままだな、僕は)


 圭は、小さく息を吐くとポケットからサイコロを取り出した。




【選択肢1】:

 図書委員長を引き受ける→10-Aへ

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/70/


【選択肢2】:

 図書委員長を断る→10-Bへ

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/71/

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