Episode.7-C~非常事態の元で人はホンモノになる~
前話:Episode.6-B
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サイコロが、乾いた音を立ててアスファルトの上を跳ねた。
カラカラと転がった先で、数字が上を向く。
けれど、そこに意味はなかった。
――圭が投げつけたそのサイコロに、選択の力など残されていなかった。
“どちらか”に委ねるふりをしても、結局は自分が選ばなければいけない。
圭はそのことを、誰よりも知っていた。
息が浅い。
喉がひりつく。
視界がまだ明滅している。
音のすべてが遠く、金切り音が耳の奥でいつまでも反響していた。
(……落ち着け)
意識して深く息を吸い込む。だが、それすらもままならない。
意識と無意識では呼吸の仕方が異なるため、身体は戸惑い、リズムは崩れた。
苦しい。
それでも――呼吸を、もう一度。
吸って、吐いて。酸素を、ゆっくりと体に巡らせる。
徐々に、指先の痺れが薄れていく。
世界が、正常な色を取り戻していく。
そしてようやく、彼は聞こえた。
「……篠原くん」
名前を呼ぶ声。
それは、いつも静かで感情の薄い彼女の声とは違っていた。
圭が顔を上げると、そこには雪那がいた。
無表情に見えたその顔は、今だけは違っていた。
眉がわずかに下がり、目にかすかな焦りと戸惑いを浮かべている。
差し出された手が震えているように見えたのは、気のせいではないだろう。
圭は、その手を借りて、ゆっくりと立ち上がった。
「……大丈夫?」
その問いかけには、いつもより確かな抑揚があった。
気遣うような、探るような、彼女なりの感情が込められていた。
「……うん。もう、大丈夫。ありがとう」
言葉を返すと、雪那は何も言わずに頷いた。
「……帰ろっか」
圭の言葉に、雪那はもう一度、静かに頷いた。
――――――
帰り道は、行きと同じように、裏通りを選んだ。
商店街を少し外れた、車通りの少ない細い道。
電柱の影が長く伸び、セミの声が遠くで響いている。
しばらくの沈黙の後、雪那がぽつりと呟いた。
「……車、苦手なの?」
問いかけは静かだったが、それはまるで確信めいた優しさを帯びていた。
「……大きいトラックが、苦手なんだよ」
圭は、歩きながらそれだけ答えた。
雪那は、特に驚く様子も見せず、ただ「……そうなんだ」と言ったきり、再び黙った。
その言葉の少なさが、逆にちょうどよかった。
それ以上、何かを尋ねられることもなかった。
ただ並んで歩くだけで、胸のざわめきが少しずつ落ち着いていくのが分かった。
帰路は、風が少しだけ涼しかった。
【選択肢1】:
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【選択肢2】:
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