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Episode.7-C~非常事態の元で人はホンモノになる~

前話:Episode.6-B

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/45/

 サイコロが、乾いた音を立ててアスファルトの上を跳ねた。

 カラカラと転がった先で、数字が上を向く。

 けれど、そこに意味はなかった。


 ――圭が投げつけたそのサイコロに、選択の力など残されていなかった。


 “どちらか”に委ねるふりをしても、結局は自分が選ばなければいけない。

 圭はそのことを、誰よりも知っていた。

 息が浅い。

 喉がひりつく。

 視界がまだ明滅している。

 音のすべてが遠く、金切り音が耳の奥でいつまでも反響していた。


(……落ち着け)


 意識して深く息を吸い込む。だが、それすらもままならない。

 意識と無意識では呼吸の仕方が異なるため、身体は戸惑い、リズムは崩れた。


 苦しい。


 それでも――呼吸を、もう一度。

 吸って、吐いて。酸素を、ゆっくりと体に巡らせる。


 徐々に、指先の痺れが薄れていく。

 世界が、正常な色を取り戻していく。

 そしてようやく、彼は聞こえた。


「……篠原くん」


 名前を呼ぶ声。

 それは、いつも静かで感情の薄い彼女の声とは違っていた。

 圭が顔を上げると、そこには雪那がいた。

 無表情に見えたその顔は、今だけは違っていた。

 眉がわずかに下がり、目にかすかな焦りと戸惑いを浮かべている。

 差し出された手が震えているように見えたのは、気のせいではないだろう。

 圭は、その手を借りて、ゆっくりと立ち上がった。


「……大丈夫?」


 その問いかけには、いつもより確かな抑揚があった。

 気遣うような、探るような、彼女なりの感情が込められていた。


「……うん。もう、大丈夫。ありがとう」


 言葉を返すと、雪那は何も言わずに頷いた。


「……帰ろっか」


 圭の言葉に、雪那はもう一度、静かに頷いた。



――――――



 帰り道は、行きと同じように、裏通りを選んだ。

 商店街を少し外れた、車通りの少ない細い道。

 電柱の影が長く伸び、セミの声が遠くで響いている。

 しばらくの沈黙の後、雪那がぽつりと呟いた。


「……車、苦手なの?」


 問いかけは静かだったが、それはまるで確信めいた優しさを帯びていた。


「……大きいトラックが、苦手なんだよ」


 圭は、歩きながらそれだけ答えた。

 雪那は、特に驚く様子も見せず、ただ「……そうなんだ」と言ったきり、再び黙った。

 その言葉の少なさが、逆にちょうどよかった。

 それ以上、何かを尋ねられることもなかった。

 ただ並んで歩くだけで、胸のざわめきが少しずつ落ち着いていくのが分かった。

 帰路は、風が少しだけ涼しかった。

【選択肢1】:

 1の視点→8-Bへ

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/56/


【選択肢2】:

 2の視点→8-Cへ

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/57/


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