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せつな  作者: 666
春編
47/817

Episode.6-D~先手必勝~

前話:Episode.5-J

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/42/

「教室まで送ってくよ」


 圭がそう声をかけると、凛はぱっと顔を輝かせた。


「え、いいの? ありがとー!」


 その無邪気な反応に、近くにいた女子たちが小さく湧き立つ。


「え〜、やっぱあの二人付き合ってるんじゃない?」

「いいなぁ、青春って感じ」


 ひそひそと交わされる声を背に、圭は何も言わず教室を出た。

 凛が軽やかに歩調を合わせてくるのが、気持ちを少しだけ和らげてくれる。


 だが、廊下に出たその瞬間だった。

 ちょうど入れ違いで、雪那が静かに教室へ入っていく姿が目に入った。


 表情は、うかがえなかった。

 ただ、背筋をぴんと張って歩くその姿は、まるで何もなかったかのようで――

 いや、むしろ何もないように“装っている”ように見えた。


(大丈夫だろうか)


 そう思った時には、圭の足はわずかに後ろへ傾いていた。

 追いかけるつもりなどなかったはずなのに、心が勝手に揺れてしまう。

 自分が断ったはずの願いなのに、それでも心配になってしまうのだ。

 だが――その袖口を、凛が掴んだ。


「……っ」


 力強く。

 そして、ためらいなく。


「ほら、行こ」


 そう言って凛は歩き出す。

 掴んだ手を離さないまま、まるで答えを強制するように。

 圭はそのまま、彼女に引かれるまま歩く。

 歩調は乱され、気持ちの整理がつかない。

 何かを言おうとしても、凛は一切こちらを見ようとせず、沈黙を守っていた。


(……機嫌、悪くなったのか)


 そんな不安が胸をよぎった瞬間、凛は突然、足を止めた。

 廊下の途中、人の少ない場所で。

 静かに、けれど確かな意思をもって、彼女は振り返る。


「センパイが誰を気にかけてるか、知らないよ。顔も知らないし、声も聞いたこともない」


 その瞳には、まっすぐな光が宿っていた。

 圭の奥を、真っ直ぐに射抜くような視線。


「でも……気にかける必要なんてないんじゃない? だって、その人、そっぽ向いてるんでしょ。センパイのことなんか見てない」


 言葉にトゲがあった。

 けれど、それ以上に滲み出るのは、真っ直ぐな想いだった。


「だから、私のことだけ見てよ。私は、ずっとセンパイのこと、見てるんだから」


 静かに、けれど確かに届けられたその言葉は、

 告白と呼ぶには少し照れくさくて、

 けれどそれ以上に、まっすぐな気持ちだった。


 圭は、何も言えなかった。


 言葉が、喉の奥で引っかかって、形にならない。

 ただ、そのまま凛の表情を見つめ返すことしかできなかった。

 だがその熱を孕んだ瞳も、次の瞬間にはふわりとほぐれていく。


「なーんてね、ちょっと重かったかな?」


 照れ笑いを浮かべながら、凛は冗談めかして笑った。

 そして、いつもの調子で軽やかに尋ねる。


「また、お昼ご飯食べに行ってもいい?」


 その声に、圭はようやく返事を返す。


「あぁ……もちろん」

「よかった〜。じゃ、また明日〜!」


 ひらひらと手を振って、凛は明るく去っていく。

 彼女の背中が遠ざかるにつれて、圭の胸の内に残ったのは――

 複雑だけれど、確かな温もりだった。

続き→7-Fへ

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/54/

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