Episode.6-D~先手必勝~
前話:Episode.5-J
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「教室まで送ってくよ」
圭がそう声をかけると、凛はぱっと顔を輝かせた。
「え、いいの? ありがとー!」
その無邪気な反応に、近くにいた女子たちが小さく湧き立つ。
「え〜、やっぱあの二人付き合ってるんじゃない?」
「いいなぁ、青春って感じ」
ひそひそと交わされる声を背に、圭は何も言わず教室を出た。
凛が軽やかに歩調を合わせてくるのが、気持ちを少しだけ和らげてくれる。
だが、廊下に出たその瞬間だった。
ちょうど入れ違いで、雪那が静かに教室へ入っていく姿が目に入った。
表情は、うかがえなかった。
ただ、背筋をぴんと張って歩くその姿は、まるで何もなかったかのようで――
いや、むしろ何もないように“装っている”ように見えた。
(大丈夫だろうか)
そう思った時には、圭の足はわずかに後ろへ傾いていた。
追いかけるつもりなどなかったはずなのに、心が勝手に揺れてしまう。
自分が断ったはずの願いなのに、それでも心配になってしまうのだ。
だが――その袖口を、凛が掴んだ。
「……っ」
力強く。
そして、ためらいなく。
「ほら、行こ」
そう言って凛は歩き出す。
掴んだ手を離さないまま、まるで答えを強制するように。
圭はそのまま、彼女に引かれるまま歩く。
歩調は乱され、気持ちの整理がつかない。
何かを言おうとしても、凛は一切こちらを見ようとせず、沈黙を守っていた。
(……機嫌、悪くなったのか)
そんな不安が胸をよぎった瞬間、凛は突然、足を止めた。
廊下の途中、人の少ない場所で。
静かに、けれど確かな意思をもって、彼女は振り返る。
「センパイが誰を気にかけてるか、知らないよ。顔も知らないし、声も聞いたこともない」
その瞳には、まっすぐな光が宿っていた。
圭の奥を、真っ直ぐに射抜くような視線。
「でも……気にかける必要なんてないんじゃない? だって、その人、そっぽ向いてるんでしょ。センパイのことなんか見てない」
言葉にトゲがあった。
けれど、それ以上に滲み出るのは、真っ直ぐな想いだった。
「だから、私のことだけ見てよ。私は、ずっとセンパイのこと、見てるんだから」
静かに、けれど確かに届けられたその言葉は、
告白と呼ぶには少し照れくさくて、
けれどそれ以上に、まっすぐな気持ちだった。
圭は、何も言えなかった。
言葉が、喉の奥で引っかかって、形にならない。
ただ、そのまま凛の表情を見つめ返すことしかできなかった。
だがその熱を孕んだ瞳も、次の瞬間にはふわりとほぐれていく。
「なーんてね、ちょっと重かったかな?」
照れ笑いを浮かべながら、凛は冗談めかして笑った。
そして、いつもの調子で軽やかに尋ねる。
「また、お昼ご飯食べに行ってもいい?」
その声に、圭はようやく返事を返す。
「あぁ……もちろん」
「よかった〜。じゃ、また明日〜!」
ひらひらと手を振って、凛は明るく去っていく。
彼女の背中が遠ざかるにつれて、圭の胸の内に残ったのは――
複雑だけれど、確かな温もりだった。
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