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せつな  作者: 666
春編
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Episode.6-C~格言~

前話:Episode.5-F

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/25/

 店を出ると、空は少しずつ茜色を帯び始めていた。

 喧騒から離れた通りは、陽の傾きとともにゆっくりと静けさを取り戻していく。


「……家まで送っていくよ」


 圭がそう言うと、雪那は首を小さく傾けたあと、すぐに頷いた。

 歩く距離は思ったよりも短かった。

 雪那の家は、圭の家からそれほど離れていない場所にあるらしい。


「……結構近いんだな。安心したよ」


 何の意図もなく口にした言葉に、雪那は小さく「うん」とだけ返した。


「……これから、よろしくね」


 その言葉に、雪那は目を伏せるようにして、わずかに頷く。

 沈黙が支配する道のりは、それでもどこか居心地が悪くなかった。



――――――



 家に着いた圭は、制服を脱いで手を洗い、手早く台所に立った。

 買い置きの野菜を刻み、炊飯器の湯気を確認しながら、夕飯の支度を進めていく。

 ほどなくして玄関が開く音が聞こえた。


「ただいまー……あれ、もう作ってるのか。助かるな」


 帰ってきたのは、圭の叔父だった。

 圭が中学生の頃から住まわせてもらっている父の弟で、穏やかで面倒見のいい人だ。

 父に似た顔立ちだが、どこか力の抜けたような温かさがある。

 食卓に並んだ料理を前に、二人で箸を進める。


「今日、転校生が来たんだ。女の子で……少し変わった感じだけど、悪い子じゃないと思う」


 関係のことまでは話さなかったが、今日の出来事を、圭は簡単に説明した。

 それを聞いた叔父は箸を止め、ぽつりと口を開く。


「……お前も、転校してきたときは不安だったろ?」

「……うん、まぁ」

「だったらさ。お前があのとき、してもらって嬉しかったことを、今度はお前がしてやればいいんじゃないか?」


 その言葉は、まるで心にストンと落ちるようだった。


 (……そうだ。僕も、そうだった)



――――――


 その夜、圭は机に向かいながら、ふと手を止めた。

 中学に上がる直前、この街に引っ越してきた日のことを思い出す。

 慣れない方言、見知らぬ顔、教室の空気――

 全てが新しくて、怖くて、何より孤独だった。

 けれどそんな自分を、何の躊躇もなく輪の中に迎えてくれたクラスメイトがいた。

 それが――森川だった。

 誰よりも自然に、声をかけてくれた。

 そのとき感じたあたたかさが、今でも胸に残っている。

 (なら、僕も……そのようであろう)

 心の中でそう呟くと、静かに瞼を閉じた。

 その目の奥には、今日見た雪那の横顔が、ほんのりと浮かんでいた。

続き→7-Eへ

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/53/

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