Episode.6-C~格言~
前話:Episode.5-F
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店を出ると、空は少しずつ茜色を帯び始めていた。
喧騒から離れた通りは、陽の傾きとともにゆっくりと静けさを取り戻していく。
「……家まで送っていくよ」
圭がそう言うと、雪那は首を小さく傾けたあと、すぐに頷いた。
歩く距離は思ったよりも短かった。
雪那の家は、圭の家からそれほど離れていない場所にあるらしい。
「……結構近いんだな。安心したよ」
何の意図もなく口にした言葉に、雪那は小さく「うん」とだけ返した。
「……これから、よろしくね」
その言葉に、雪那は目を伏せるようにして、わずかに頷く。
沈黙が支配する道のりは、それでもどこか居心地が悪くなかった。
――――――
家に着いた圭は、制服を脱いで手を洗い、手早く台所に立った。
買い置きの野菜を刻み、炊飯器の湯気を確認しながら、夕飯の支度を進めていく。
ほどなくして玄関が開く音が聞こえた。
「ただいまー……あれ、もう作ってるのか。助かるな」
帰ってきたのは、圭の叔父だった。
圭が中学生の頃から住まわせてもらっている父の弟で、穏やかで面倒見のいい人だ。
父に似た顔立ちだが、どこか力の抜けたような温かさがある。
食卓に並んだ料理を前に、二人で箸を進める。
「今日、転校生が来たんだ。女の子で……少し変わった感じだけど、悪い子じゃないと思う」
関係のことまでは話さなかったが、今日の出来事を、圭は簡単に説明した。
それを聞いた叔父は箸を止め、ぽつりと口を開く。
「……お前も、転校してきたときは不安だったろ?」
「……うん、まぁ」
「だったらさ。お前があのとき、してもらって嬉しかったことを、今度はお前がしてやればいいんじゃないか?」
その言葉は、まるで心にストンと落ちるようだった。
(……そうだ。僕も、そうだった)
――――――
その夜、圭は机に向かいながら、ふと手を止めた。
中学に上がる直前、この街に引っ越してきた日のことを思い出す。
慣れない方言、見知らぬ顔、教室の空気――
全てが新しくて、怖くて、何より孤独だった。
けれどそんな自分を、何の躊躇もなく輪の中に迎えてくれたクラスメイトがいた。
それが――森川だった。
誰よりも自然に、声をかけてくれた。
そのとき感じたあたたかさが、今でも胸に残っている。
(なら、僕も……そのようであろう)
心の中でそう呟くと、静かに瞼を閉じた。
その目の奥には、今日見た雪那の横顔が、ほんのりと浮かんでいた。
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