表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
せつな  作者: 666
春編
44/817

Episode.6-A~夕陽が沈む街で二人は~

前話:Episode.5-A

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/20/

カラオケ店を出る頃には、すっかり空が茜に染まっていた。


 西の空を横切る淡い雲が、夕日を受けて静かに赤みを帯びていく。ビルの隙間から伸びた光が、通りを歩く僕たちを斜めに照らし、誰かの後ろ姿を長く伸ばしていた。


「今日はありがとう! また遊ぼうね〜!」

「駅前でちょっと寄り道してから帰るー! じゃあね!」


 次々に声をかけあいながら、クラスメイトたちは三々五々に帰路についた。誰もが明るく、満足げな顔をしていた。そんな中、圭の隣に立つ雪那だけは、静かにその場を動かなかった。


 駅へと向かう人波の端で、圭はふと立ち止まり、隣を見る。


(……なんて声をかけたら、いいんだろう)


 別れの挨拶をしてもいいし、駅まで送っていくと言ってもいい。けれど、圭はどちらも選べずにいた。その理由は明白だった。彼女の目が、こちらをただ見つめていたからだ。


 何かを待つような――あるいは、試すような目で。


 その時だった。


「ねぇ高嶺さん、一緒に帰らない?」


 女子の一人が、明るく雪那に声をかけた。もう一人もそれに続く。


「駅まで一緒だし、さっきあんまり喋れなかったしね!」


 雪那は、その誘いには答えずに、ちらりと圭の方を見た。無言のまま、ただ視線だけを投げてくる。


(……また、これだ)


 圭は思わず目を伏せた。

 あの教室で、雪那に言われた言葉が頭をよぎる。


「貴方がいるんだから、貴方が選ぶべきなの」

 女子たちと一緒に帰らせるのが“正解”なのかもしれない。

 それで彼女が、普通の人間関係を築いてくれるなら――


 けれど、圭の足は動かなかった。


 家に帰れば、叔父の夕食を作らなくてはいけない。あまり遅くなると、迷惑をかけてしまう。


(……でも)


 彼女の表情を見れば、口には出さなくともその意思は明らかだった。


 圭はそっとポケットに手を入れ、サイコロに触れた。けれど――


「高嶺さん、家どっちなの? うちら、駅の方向なんだけど」


 女子の一人がそう尋ねると、雪那は簡潔に答えた。


「……南口の坂、下ってすぐ」


 その言葉に、圭の呼吸が止まりかけた。


(それって、まさか――)


「えっ、それって……篠原と近くない?」


 女子の言葉に、圭は目を見開いた。雪那は小さく頷く。


「ほんとだー、じゃあ篠原君に送ってもらえばいいじゃん! ね?」


 気を利かせたように笑いながら、女子たちはそのまま駅の方向へと歩き始める。


「またね〜、高嶺さん!」


 手を振りながら離れていく彼女たちの背中を見送り、圭は隣に立つ少女と、しばし無言のまま並んだ。


 春の夕暮れ。

 風は冷たくないが、肌をなぞるようにゆるやかに吹いていた。


「……行こうか」


 圭の一言に、雪那は頷いた。


――――――


 二人、歩道を並んで歩く。


 夕日の色が地面に溶け、影が長く伸びていた。坂道の上から聞こえる子供たちのはしゃぎ声や、軒先から漂う夕餉の匂いが、どこか懐かしさを感じさせる。


「……これで、よかった?」


 不意に圭は口を開く。

 何かを指していったわけではない。ただ、聞きたかったのだ。この不思議な関係を結んだ彼女に。


「……うん」

 

 雪那の返事は、短く簡潔だった。

 聞いているこちらが心配になりそうなほどの平坦な言葉も、今の圭には救いの言葉に思えた。

 雪那は不意に足を止め、こちらを見た。

 

「……これからも、よろしくね」


 そう言って僅かに口元を緩める。

 夕焼けに照らされる彼女は、やはり目を奪われるほどに透明だ。


 きっとこの瞬間だったのだろう。


 この関係が本当の意味で始まったのは――




――――――


 

「……ここ」


 雪那に案内されて着いた彼女の家は、小さなアパートだった。圭にとっては見慣れた場所で、なんなら家から目視できるほどに近場であった。ここまで近いとは少し予想外だ。

 雪那はアパートの前で立ち止まると、抑揚のない表情でこちらを見やる。

 

「……今日は、ありがとう」


「うん、それじゃあまた明日……」


 お互いに心がこもっているのか定かでない言葉を交わし、圭は家に帰ろうと踵を返す。

 流石に今日は疲れたので、夕飯は簡単なもので済まそうと考えていると。


「……夜ご飯」


「え?」


 突然の言葉に、圭は足を止めた。

 振り返ると、雪那が微かに眉を顰め首を傾げていた。


「……夜ご飯、何にすれば良いかな?」


 彼女は淡々とこちらを見つめてくる。

 それは今日、何度も見た雪那からの合図であった。

 

 『選択』 


 圭は、思案する。

 ご飯のメニューなど、選択肢が多すぎて選ぶに選べない。

 しかし、頭の中にふっと落ちてきたものが案外正解だったりするものだ。



【選択肢1】:

 ハンバーグ→7-Aへ

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/49/


【選択肢2】:

 雪那の得意料理→7-Bへ

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/50/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ