Episode.6-A~夕陽が沈む街で二人は~
前話:Episode.5-A
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カラオケ店を出る頃には、すっかり空が茜に染まっていた。
西の空を横切る淡い雲が、夕日を受けて静かに赤みを帯びていく。ビルの隙間から伸びた光が、通りを歩く僕たちを斜めに照らし、誰かの後ろ姿を長く伸ばしていた。
「今日はありがとう! また遊ぼうね〜!」
「駅前でちょっと寄り道してから帰るー! じゃあね!」
次々に声をかけあいながら、クラスメイトたちは三々五々に帰路についた。誰もが明るく、満足げな顔をしていた。そんな中、圭の隣に立つ雪那だけは、静かにその場を動かなかった。
駅へと向かう人波の端で、圭はふと立ち止まり、隣を見る。
(……なんて声をかけたら、いいんだろう)
別れの挨拶をしてもいいし、駅まで送っていくと言ってもいい。けれど、圭はどちらも選べずにいた。その理由は明白だった。彼女の目が、こちらをただ見つめていたからだ。
何かを待つような――あるいは、試すような目で。
その時だった。
「ねぇ高嶺さん、一緒に帰らない?」
女子の一人が、明るく雪那に声をかけた。もう一人もそれに続く。
「駅まで一緒だし、さっきあんまり喋れなかったしね!」
雪那は、その誘いには答えずに、ちらりと圭の方を見た。無言のまま、ただ視線だけを投げてくる。
(……また、これだ)
圭は思わず目を伏せた。
あの教室で、雪那に言われた言葉が頭をよぎる。
「貴方がいるんだから、貴方が選ぶべきなの」
女子たちと一緒に帰らせるのが“正解”なのかもしれない。
それで彼女が、普通の人間関係を築いてくれるなら――
けれど、圭の足は動かなかった。
家に帰れば、叔父の夕食を作らなくてはいけない。あまり遅くなると、迷惑をかけてしまう。
(……でも)
彼女の表情を見れば、口には出さなくともその意思は明らかだった。
圭はそっとポケットに手を入れ、サイコロに触れた。けれど――
「高嶺さん、家どっちなの? うちら、駅の方向なんだけど」
女子の一人がそう尋ねると、雪那は簡潔に答えた。
「……南口の坂、下ってすぐ」
その言葉に、圭の呼吸が止まりかけた。
(それって、まさか――)
「えっ、それって……篠原と近くない?」
女子の言葉に、圭は目を見開いた。雪那は小さく頷く。
「ほんとだー、じゃあ篠原君に送ってもらえばいいじゃん! ね?」
気を利かせたように笑いながら、女子たちはそのまま駅の方向へと歩き始める。
「またね〜、高嶺さん!」
手を振りながら離れていく彼女たちの背中を見送り、圭は隣に立つ少女と、しばし無言のまま並んだ。
春の夕暮れ。
風は冷たくないが、肌をなぞるようにゆるやかに吹いていた。
「……行こうか」
圭の一言に、雪那は頷いた。
――――――
二人、歩道を並んで歩く。
夕日の色が地面に溶け、影が長く伸びていた。坂道の上から聞こえる子供たちのはしゃぎ声や、軒先から漂う夕餉の匂いが、どこか懐かしさを感じさせる。
「……これで、よかった?」
不意に圭は口を開く。
何かを指していったわけではない。ただ、聞きたかったのだ。この不思議な関係を結んだ彼女に。
「……うん」
雪那の返事は、短く簡潔だった。
聞いているこちらが心配になりそうなほどの平坦な言葉も、今の圭には救いの言葉に思えた。
雪那は不意に足を止め、こちらを見た。
「……これからも、よろしくね」
そう言って僅かに口元を緩める。
夕焼けに照らされる彼女は、やはり目を奪われるほどに透明だ。
きっとこの瞬間だったのだろう。
この関係が本当の意味で始まったのは――
――――――
「……ここ」
雪那に案内されて着いた彼女の家は、小さなアパートだった。圭にとっては見慣れた場所で、なんなら家から目視できるほどに近場であった。ここまで近いとは少し予想外だ。
雪那はアパートの前で立ち止まると、抑揚のない表情でこちらを見やる。
「……今日は、ありがとう」
「うん、それじゃあまた明日……」
お互いに心がこもっているのか定かでない言葉を交わし、圭は家に帰ろうと踵を返す。
流石に今日は疲れたので、夕飯は簡単なもので済まそうと考えていると。
「……夜ご飯」
「え?」
突然の言葉に、圭は足を止めた。
振り返ると、雪那が微かに眉を顰め首を傾げていた。
「……夜ご飯、何にすれば良いかな?」
彼女は淡々とこちらを見つめてくる。
それは今日、何度も見た雪那からの合図であった。
『選択』
圭は、思案する。
ご飯のメニューなど、選択肢が多すぎて選ぶに選べない。
しかし、頭の中にふっと落ちてきたものが案外正解だったりするものだ。
【選択肢1】:
ハンバーグ→7-Aへ
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【選択肢2】:
雪那の得意料理→7-Bへ
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