Episode.5-J~兎が肉食じゃないという証拠はない~
前話:Episode.4-H
https://ncode.syosetu.com/n6562kv/19/
「……いいよ。くっつけよう」
圭がそう答えると、凛はぱっと表情を明るくした。
てっきり机を横に並べるのかと思っていたが、彼女が動かしたのは椅子だった。
ギィ、と静かな音を立てて凛は自分の椅子をこちらに寄せ、遠慮なく圭の隣に腰を下ろした。
「よいしょっと」
そのまま、彼女は自然な仕草で圭の肩にもたれかかる。
肩と肩が触れ合う距離――いや、それどころではなかった。
体重の大半を預けてきたその様子は、傍から見れば「親密なふたり」の絵面そのものだった。
案の定、教室の空気がざわつき始める。
「ちょ、なにあれ……」
「え、付き合ってるの?」
女子たちの声が小さな波紋のように広がっていく。
男子たちの視線もちらちらとこちらを向いていた。
羨望、嫉妬、そして少しの興味混じりの疑念。
様々な感情が圭の背中を刺すように突き刺さってくる。
「凛、ちょっと……近すぎ――」
「やーだ。くっつけていいって言ったのセンパイじゃん」
そう言ってさらにぐっと体重を預けてくる凛。
その声には悪びれる様子もなく、どこか確信犯めいたものがあった。
「ねぇねぇ、付き合ってるの?」
「えーっ! どっちから告ったの?」
すぐ近くにいた女子たちが詰め寄るように訊いてきた。
圭が口を開く前に、凛が少し得意げに、頬を紅潮させながら言う。
「そう見えますか〜?」
その声と同時に、彼女の腕が圭の腕に絡もうとする。
まるで恋人のように。
いや、それ以上に、周囲をからかうような動作だった。
「……やめろって」
圭は慌ててその腕を振り払った。
少し強めに振り払ってしまったことに、ほんのわずかな後悔が走る。
「俺たちは……付き合ってない。中学からの友達。それだけだ」
言葉に力がこもる。
その語気に、女子たちは「ふーん」と興味半分、納得半分の表情で引いていく。
――そのとき。
カン、カン、カン――と教室のスピーカーから予鈴が鳴り響いた。
緊張を含んだ空気が、少しだけほぐれる。
圭は内心で安堵した。
「お、チャイムだ。いいタイミング~」
凛はくるりと立ち上がり、机の上の空になった弁当箱を手早く片づける。
そして、何もなかったかのような顔で笑いながら言った。
「じゃ、そろそろ戻るね。センパイ、ありがと」
彼女のその言葉には、昼休みのあれこれを帳消しにするような軽やかさがあった。
【選択肢1】:
「送っていくよ」クラスまで一緒に歩く。→6-Dへ
https://ncode.syosetu.com/n6562kv/47/
【選択肢2】:
「うん、またな」そのまま一人で帰らせる。→6-Eへ
https://ncode.syosetu.com/n6562kv/48/




