Episode.5-H-m~本当に、面倒な人~
前話:Episode.5-H-l
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テストが終わり、教室に静かな緩みが戻ってきた。
成績表が一人ひとりに配られ、ざわめきとため息が入り混じるなか、圭は自分の結果を確認したのち、ふと雪那の方を見た。
「どうだった?」
問いかけに、雪那は表情を変えないまま、小さく頷いた。
「……赤点、なかった」
その一言に、圭はふっと肩の力を抜く。
「よかった」
その声は思っていたよりも、安堵を帯びていた。
テスト期間の静かな時間――共に過ごした屋上での勉強会が、少しでも彼女の力になれたなら、それでいい。
席に戻ろうとしたその時、雪那が小さな声で言った。
「……一緒に、帰らない?」
その言葉に驚いた素振りを見せる暇もなく、圭は自然と「うん」と頷いていた。
――――――
帰り道。学校の坂を下る道を、並んで歩く。
制服の袖はもう夏仕様になり、風は柔らかく、空は高かった。
「最初、あなたに断られたとき……ほんの少しだけ意外だった」
ぽつりと、雪那が言う。
「あなたなら、大丈夫だと思ったから」
圭は足元の影を見ながら、静かに答えた。
「……ごめん。あのときはびっくりして、僕の意思じゃなかった」
「うん。分かってる」
風に混じる彼女の声は、どこまでも淡々としていた。けれど、それが妙に心に響いた。
「でも、今こうして一緒にいる。私のやりたいことを、全部邪魔して」
その言葉には皮肉も責めもなく、ただ事実としてあった。
圭はすぐに謝った。
「……それも、ごめん。そうしないといけない気がして」
「……本当、お節介な人」
雪那がわずかに笑ったように見えた。
そして、立ち止まり、真っすぐにこちらを見る。
「もう一回、お願いしていい?」
その目は、以前のような曇りを含んでいなかった。
「私の全てを、決めて欲しい。……ダメかな」
その問いに、今の圭は迷わなかった。
「……ううん。こちらこそ、お願いします」
お互いに、二度目の言葉だった。
だけど、その意味は一度目とは全く違う。
僕らは春を間違えたのかもしれない。
でも、それでも――
春は、必要だった。
そう心から思えたのは、今、彼女が見せたその表情が、
あの時よりもずっとずっと――穏やかだったからだ。
夏へ→N.1-AA
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