表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/817

Episode.5-H-m~本当に、面倒な人~

前話:Episode.5-H-l

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/39/

 テストが終わり、教室に静かな緩みが戻ってきた。

 成績表が一人ひとりに配られ、ざわめきとため息が入り混じるなか、圭は自分の結果を確認したのち、ふと雪那の方を見た。


「どうだった?」


 問いかけに、雪那は表情を変えないまま、小さく頷いた。


「……赤点、なかった」


 その一言に、圭はふっと肩の力を抜く。


「よかった」


 その声は思っていたよりも、安堵を帯びていた。

 テスト期間の静かな時間――共に過ごした屋上での勉強会が、少しでも彼女の力になれたなら、それでいい。

 席に戻ろうとしたその時、雪那が小さな声で言った。


「……一緒に、帰らない?」


 その言葉に驚いた素振りを見せる暇もなく、圭は自然と「うん」と頷いていた。



――――――



 帰り道。学校の坂を下る道を、並んで歩く。

 制服の袖はもう夏仕様になり、風は柔らかく、空は高かった。


「最初、あなたに断られたとき……ほんの少しだけ意外だった」


 ぽつりと、雪那が言う。


「あなたなら、大丈夫だと思ったから」


 圭は足元の影を見ながら、静かに答えた。


「……ごめん。あのときはびっくりして、僕の意思じゃなかった」

「うん。分かってる」


 風に混じる彼女の声は、どこまでも淡々としていた。けれど、それが妙に心に響いた。


「でも、今こうして一緒にいる。私のやりたいことを、全部邪魔して」


 その言葉には皮肉も責めもなく、ただ事実としてあった。

 圭はすぐに謝った。


「……それも、ごめん。そうしないといけない気がして」

「……本当、お節介な人」


 雪那がわずかに笑ったように見えた。

 そして、立ち止まり、真っすぐにこちらを見る。


「もう一回、お願いしていい?」


 その目は、以前のような曇りを含んでいなかった。


「私の全てを、決めて欲しい。……ダメかな」


 その問いに、今の圭は迷わなかった。


「……ううん。こちらこそ、お願いします」


 お互いに、二度目の言葉だった。

 だけど、その意味は一度目とは全く違う。

 僕らは春を間違えたのかもしれない。

 でも、それでも――


 春は、必要だった。


 そう心から思えたのは、今、彼女が見せたその表情が、

 あの時よりもずっとずっと――穏やかだったからだ。

夏へ→N.1-AA

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/126/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ