Episode.5-H-k~テストアレルギー~
前話:Episode.5-H-j
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テスト二週間前。
教室の空気が、少しだけ張り詰めたものへと変わっていた。
普段は騒がしい昼休みも、ノートを開く音や教科書をめくる音がそこかしこに散らばっている。
けれど、圭と雪那の二人は、そんな空気を気にすることもなく、いつものように屋上へと足を運んでいた。
昼ごはんを済ませ、風の吹く静かな場所で、それぞれの時間を過ごす。
本来であれば、圭は哲学書のページをめくっているところだ。
だが、今は違う。手にしているのは、ぶ厚い英語の教科書だった。
テスト前の学生としての自覚は、さすがにある。
「高嶺さんは、勉強しないの?」
何気なく問いかけると、雪那は小説を手にしたまま無言で動かない。
それどころか、視線を落とすその様子は、文字を追っているというより……本に穴を開ける勢いで睨みつけていた。
「……勉強、苦手だったりする?」
その一言に、雪那の肩がピクリと跳ねた。
ビクッという反応があからさまに伝わってくる。
目は逸らしたまま、口も開かないが――その沈黙が、なによりの肯定だった。
圭は笑いをこらえながら、優しく声をかける。
「もしよかったら、勉強教えるよ」
しばらくの間。
風がページをぱらぱらとめくる音だけが、二人の間に流れる。
「……いいの?」
ぽつりと落ちたその声は、どこか不安げで、けれどわずかに希望を帯びていた。
「もちろん。うちの学校、赤点だと夏休みに補習あるし。高嶺さんだって、夏まで勉強したくはないでしょ?」
すると雪那は、そっと頷いた。
「……じゃあ。お願い、します」
その小さな声は、確かに「助けを求める」声だった。
こうして、二人の静かな勉強会が始まった。
ベンチに並んで座り、教科書を広げ、わからないところを指さして説明する。
雪那は頷いたり、メモをとったり。言葉は少ないままだが、確かに「学ぼう」とする意思があった。
屋上を吹き抜ける風が、開かれたノートの端をくすぐっている。
もう、そこには春の気配はなく、夏の匂いが混じっていた。
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