Episode.5-H-j~視線を感じる~
前話:Episode.5-H-i
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季節は、ゆるやかな暖かさから、確かな暑さへと変わりつつあった。
教室の窓から差し込む光は強く、午後の授業中には誰もが少しだけまぶたを重くする。
その中で、圭と雪那の関係も、静かに日を重ねていた。
といっても、特別なことは何もない。
ただ、昼休みに一緒に屋上へ行って、並んでご飯を食べる。
それ以外は、以前と変わらず、それぞれの時間を過ごしているだけ。
だが、人の目というのは、思っている以上に鋭い。
「ねぇねぇ、二人ってさ……お昼休み、どこに行ってるの?」
授業が終わって間もなく、クラスの女子たち数人が机の周りに集まってきた。
その笑顔はやけに明るく、だがどこか探るような色も含んでいた。
その言葉で、圭は初めて――
この何気ない日々が、周囲からは“そういう関係”に見えているのだと気づいた。
「……一緒にご飯、食べてるだけだよ」
嘘をつく意味もない。
ごまかそうとしても、きっと言葉の端から見抜かれる。
だったら、正直に言うのが一番だ。
「え~、じゃあ、付き合ってるの?」
「いや」
短く、即答した。
だが、それはそれで何かを想像させるらしく、女子たちは顔を見合わせてニヤニヤと笑う。
昼休み、いつものように雪那のもとへ向かおうとしたときだった。
「高嶺さん、今日一緒にお昼食べ……」
「だめだよ、邪魔しちゃ」
「あっ、そっか。ごめん、やっぱなんでもない!」
あたふたと引き返していく女子たちの背中を見送りながら、圭は思わず苦笑した。
「……なんか、ごめんね? 高嶺さん」
そう声をかけると、雪那は少しだけ首を傾げ、静かに答えた。
「何で謝るの? こうなること、望んでたんでしょ?」
「それってどういう……あ」
”君の居場所がなくならないように”
ああ、そうだ――。
そんなことも、言ったな。
あのときは、本心からそう思っていた。
だけど今は、そんな理由なんて二の次で。
ただ、昼休みに一緒に過ごす時間が、自然と“特別”になっていた。
「行かなくていいの? お昼ご飯、食べる時間なくなるよ」
雪那の声が、いつものように淡々と届く。
「……うん、行こうか」
そうして二人は、並んで教室を出ていった。
他人の視線の中を、何も気にせず、まっすぐに。
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