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せつな  作者: 666
春編
34/817

Episode.5-H-g~まぁ少しくらいなら~

前話:Episode.5-H-f

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/33/

「図書委員は……三枝、篠原、高嶺――」


 ホームルームの終盤、先生が黒板の前で名簿を読み上げていた。

 圭は静かにその声を聞いていた。

 自分の名前のあとに、雪那の名前が続いた時、ほんの少しだけ視線を動かした。

 けれど彼女は、特に反応を示すことなく前を見ていた。

 無表情のまま、でも確かにそこに“いる”。

 それだけで、胸の奥がじんわりと温かくなった。


 ――昼休み。

 今日もまた、階段の扉の前に腰を下ろす。

 ほんの数日前までは雨に包まれていたこの場所も、今は陽光に満たされていた。

 空気が軽くなり、制服の袖に感じる風にも柔らかさが混じる。


「……図書委員って、何をするの?」


 ふいに雪那が口を開いた。

 この頃は、彼女の方から話題を振ってくれることが増えてきた。

 その変化が圭にとって、どれだけ嬉しいことか――まだ言葉にできないまま、笑みだけがわずかに滲む。


「うん、主な仕事は……図書室の当番かな。誰かが本を返しに来るから、それを正しい位置に戻したり、本棚の整理をしたり」

「整理……」

「そう。あとは……貸し出し記録をまとめたりもする。慣れれば簡単だよ」


 雪那は「ふうん」と小さく相槌を打ち、弁当に視線を落とす。

 そして、少ししてまた口を開いた。


「……本って、面白い?」


 圭は一瞬だけ驚いて、すぐに頷いた。


「面白いよ。読めば読むほど、自分の知らなかった世界が見える気がする」

「……そうなんだ。あまり読んでこなかったの」

「大丈夫。今度、委員会の集まりがあるから、そのときに本を借りよう」

「……わかった」


 それだけを短く返した雪那の横顔は、どこか柔らかかった。

 風がふわりと髪を揺らし、階段の窓から差し込む陽が、静かにその輪郭を照らしていた。

 この場所で過ごす昼休みも、少しずつ――ほんの少しずつ、色づいていく。

続き→5-H-hへ

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/35/

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