Episode.5-H-g~まぁ少しくらいなら~
前話:Episode.5-H-f
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「図書委員は……三枝、篠原、高嶺――」
ホームルームの終盤、先生が黒板の前で名簿を読み上げていた。
圭は静かにその声を聞いていた。
自分の名前のあとに、雪那の名前が続いた時、ほんの少しだけ視線を動かした。
けれど彼女は、特に反応を示すことなく前を見ていた。
無表情のまま、でも確かにそこに“いる”。
それだけで、胸の奥がじんわりと温かくなった。
――昼休み。
今日もまた、階段の扉の前に腰を下ろす。
ほんの数日前までは雨に包まれていたこの場所も、今は陽光に満たされていた。
空気が軽くなり、制服の袖に感じる風にも柔らかさが混じる。
「……図書委員って、何をするの?」
ふいに雪那が口を開いた。
この頃は、彼女の方から話題を振ってくれることが増えてきた。
その変化が圭にとって、どれだけ嬉しいことか――まだ言葉にできないまま、笑みだけがわずかに滲む。
「うん、主な仕事は……図書室の当番かな。誰かが本を返しに来るから、それを正しい位置に戻したり、本棚の整理をしたり」
「整理……」
「そう。あとは……貸し出し記録をまとめたりもする。慣れれば簡単だよ」
雪那は「ふうん」と小さく相槌を打ち、弁当に視線を落とす。
そして、少ししてまた口を開いた。
「……本って、面白い?」
圭は一瞬だけ驚いて、すぐに頷いた。
「面白いよ。読めば読むほど、自分の知らなかった世界が見える気がする」
「……そうなんだ。あまり読んでこなかったの」
「大丈夫。今度、委員会の集まりがあるから、そのときに本を借りよう」
「……わかった」
それだけを短く返した雪那の横顔は、どこか柔らかかった。
風がふわりと髪を揺らし、階段の窓から差し込む陽が、静かにその輪郭を照らしていた。
この場所で過ごす昼休みも、少しずつ――ほんの少しずつ、色づいていく。
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